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第十四話「見直された」

「一色くん。重くない?」

「まだ大丈夫だ。これでも鍛えてるからな」


 秋久達と別れた後、俺は予定通り荷物持ちとして働いていた。

 とはいえ、学生の小遣いなどたかが知れている。

 質よりも量。

 衣服などはほどほどに、安売りの菓子や飲み物などを大量に購入。

 まるでこれからパーティーでも開くかのようだ。


「へー、陣くんってなにかスポーツやってたの? 高校では帰宅部だよね?」


 俺の言葉に興味を示した筒田は、体をじろじろ見てくる。


「高校に上がるまで格闘技をちょっとな」

「格闘技! なになに! やっぱり中国拳法!?」

「それもやったことあるけど、独学だな。真面目にやったのは、空手にテコンドー、柔術かな」

「お、おぉ。なんだかすごいね」

「でも、やめちゃったんでしょ? なんで?」


 佐々倉の問いに、俺は。


「金がかかるから」


 現実的な言葉で返した。


「ですよねー」

「……」


 おっと、これは。

 突如として俺が立ち止まったことにより、四人は不思議そうに見つめてくる。


「どうしたの? 一色くん。やっぱり」

「い、いや……悪い。ちょっと待っててくれないか?」

「……あー、うんなるほど」


 どうやら天澄以外は察してくれたようだ。


「トイレなら早くねー」

「あたし達は、ここで待っているよ」


 そこで、ようやく気づいたようでいってらっしゃいの意味で手を振る天澄。

 普段ならどうでもないのだが、女の子達の前でトイレに行くとなると、気恥ずかしいものだ。


「それにしても、こんなことになるとはな」


 近場の店に入り、俺はすぐトイレへと駆け込む。

 俺以外誰もおらず、肩の力を抜く。


「普通なら友達同士で、買い物をして、街を歩いて、会話して……楽しいはずなんだがなぁ」


 女の子。それもかなりレベルの高い子達に囲まれてちゃ、肩に力も入るし、考えてしまう。

 なんだかんだで、四人と会話をしていたけど。


「ふう……自然に会話。肩に力を抜いて……よし!」


 いや、待てよ。こんなことを考えている時点でだめなんじゃないか? でも、やっぱり考えてしまうんだよなぁ。


「ん?」


 どうしたのものかと、店から出ると待っていた四人に見知らぬ男達が話しかけている場面を目撃した。

 明らかに、ナンパである。

 

「ねえ、いいじゃん。どうせ暇なんでしょ?」

「俺達とカラオケにでも行こうぜ、な?」

「お? なんだ。お菓子も大量にあるじゃん!」


 やっぱり。

 あれだけの美少女揃いだからなぁ。ナンパをされないのがおかしいというもの。

 

「あ、これあなた達のために買ったものじゃないんでー」

「ほらほら。私達は、あんた達に興味なんいで散った散った」


 さすが佐々倉と筒田。

 ナンパ男達相手でも動じないとは。


「そんなこと言わずにさ。あれ? もしかして、外国人?」

「え? 私、ですか? あ、いえ。私はハーフで」

「こらこら。ナンパ男達に情報を与えなくてもいいよ」

「君も可愛いね。誰かの妹さん?」


 その人、その中で一番年上ですよ。


「おーい。どうしたんだー」


 ナンパだってわかってるけど。


「ちょっと、陣くーん! ナンパ! ナンパされてまーす!」


 俺の登場に、筒田は服をぐいっと引き、ナンパ男達の前に俺を突き出す。

 すると、ナンパ男達は一気に冷めた表情となった。それもそのはずか。ナンパをしていたのに、他に男が居たんだから。


「なんだ? お前」

「まさかその子達のお友達? へえ、モテモテだね」


 うわー、めっちゃ不機嫌。

 そこまであからさまだと、こっちだって反応に困るぞ。


「そーだ、そーだ。私達は、お友達同士で楽しくやってるんだー」

「ナンパ男達はあっちいけー」

「俺を盾に挑発しないでくれないか……」


 これには、ナンパ男達は面白くないと更に不機嫌になる。


「というわけなんで、えっと、失礼しますね」


 これ以上関わらないほうがいい。そう思った俺は、その場から離れようとしたのだが。

 

「おい、ちょっと待てよ」


 キャップの男に肩を掴まれ止められる。

 

「そんならさ。連絡先だけでも教えてくれよ。な?」

「俺からはなんとも。本人達に」

「いや」


 佐々倉が言い。


「無理」


 筒田が続き。


「君達のようなナンパ男達に、教えるつもりはないね」


 紫之宮先輩が胸を張って言う。その後ろでは、同意するように天澄が小さく頷いていた。


「そういうわけなんで」


 これで、こいつらも。


「だから待てって」


 しつこい。


「あの、本人達が拒否してるんですから。諦めてくれませんか?」


 あくまで冷静に対処をする。ここで、暴力沙汰なんて起こしたら停学なんてことになるかもしれない。


「いでっ!?」


 と、思ってはいたのだが、つい力が入ってしまった。手を軽く払うつもりが、相手にとっては相当痛かったようだ。


「てめぇ」


 やばい、なんか怒ってる。

 

「いや、さっきのは」

「いてぇじゃねぇか!!」


 ちょっ! この程度でキレることないじゃないか。これだから最近の若いものは! なんて言われるんだぞ!

 

「一色くん!?」


 天澄の叫ぶを耳にしながら、俺は。


「っと」


 軽く拳を受け止めた。


「あの、暴力は」

「この!」


 だから、暴力は。


「やめましょうって」

「ぐあっ!?」


 キャップの男に続き、金髪ピアスの男が殴ってきたが、軽くキャップの男を動かし、ぶつからせる。

 それにより、二人はバランスを崩し、地面に倒れた。


「な、なんだこいつ。なにをしやがった?」


 二人は、何をされたのかわからず、恐いものを見るかのように俺を見ていた。いや、ただぶつからせただけなんだけど。

 というかちゃんと食べてるのか? ずいぶんと軽かったけど。

 その後、急激に弱腰になったナンパ男達は、逃げるように去っていった。


「陣くーん!」

「うおっ!?」


 突如として背後から筒田に抱きつかれた俺は、どうしたらいいのかわからず困惑する。


「見直したよ、陣。あんたってば、男だね」

「いや、男ですけど」


 なんか知らないが、俺は男として見られていなかったようだ。

 少し、悲しい気分になった……。

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