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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

マティルダが逃げちまった!

掲載日:2020/10/15

ずっと前に書いてた物です。

思い出して投稿しました。


「こらハリー!いつまで寝てんだよ!!」


「ん...マティルダもう少し...」


俺は甘える様にマティルダの腰に手をまわ...


「...届かん」


それにマティルダはこんなダミ声では無い。


「お前は誰だ!!」


殺気を感じなかった、それどころか気配すら。

こいつはただ者ではない!


「喧しい!!」


身構える前に肉厚な手が飛んできた。

パンパンに膨れたこの手は、


「アンジェリーナのババア!!」


「誰がババアだ!」


その手は更に加速した。

俺の反応速度を遥かに越えて。


「グオ!!」


ババアの手が頬にめり込む。

こいつ拳骨で...


ベッドから吹き飛ばされ、床に転げ落ちた。

ババアめ、俺じゃなかったら間違いなく死んでいたぞ。


「...何しやがる」


「何がだ?

いきなり人の尻触りやがって!」


唾を飛ばし睨みつけるババアアンジェ。

お前と分かってたら誰が触るか。


「早く支度しな、お前が来ねえと荷揚げが進みゃしねえ」


支度?

そうか今日は船が港に入るんだ。

あれ、確か昨日マティルダに早く起こすように言った筈だが?


「マティルダは?」


「知らないよ、あたしが来た時あんた以外誰も居なかったからね」


「そうか...」


ふらつく頭を抱え、立ち上がる俺の目に破れた枕が入った。


「え?」


慌てて枕を持つが側面を切り裂かれている。

まさか、いや、まさか...


「...無い」


「何が?」


「金が...」


「はあ?」


項垂れる俺にアンジェリーナは呆れた声を出した。

もう何が有ったか理解した様だ。


()られたね」


「の様だな」


アンジェリーナは憐れみの目で俺を見た。

マティルダとの付き合いをよく知る彼女だから隠しても仕方ない。


「で、どのくらいだ」


「500万ボリバル」


「はあ?」


「だから500万だ」


「お前そんな大金を枕に入れてたのかい?」


「まあな」


1万ボリバル紙幣を札束で5束、枕の中綿に巻いていた。

平均2年分の稼ぎになる。


「なんとまあ...」


呆れているな、別に全財産って訳じゃないのだが。


「昔の金かい?」


アンジェリーナは椅子に座り俺に聞いた。


「そうだ、近々使う予定だった」


「使う予定?」


「ああ、家を買う頭金に」


「へえ...」


意外そうだな。

俺の昔を知るアンジェならそうかもしれんが。


「本気だったのか」


「ああ」


ショックだ。

今回こそ、そう思ったんだが。


「まあ取られた金は仕方ないね。

それより早く支度しな、お前がいないと荷揚げが捗りゃしないよ」


僅に顔を歪ませアンジェは立ち上がる。

彼女は港湾の責任者だ、俺の事情だけに(こだわ)ってばかりいられないのだろう。


「分かった」


服を着替える。

ベッド脇には丁寧に畳まれた作業着。

マティルダが用意したのだろう、最後の親切だったのか。


「ん?」


服の下に1枚の紙切れが、


「ほう」


「どうした?」


「書き置きだ」


アンジェに見せた。

別に隠す物でもあるまい。


「[ごめんなさいマティルダ]か」


「そんな事書かれてもな」


着替えが終わり、部屋を出ようとドアに手を掛けた。

しかしアンジェは出ようとしない。


「どうした?」


「少し部屋を見て良いか?」


「構わんが」


「ありがとう、早く行きな」


真剣なアンジェ、よく分からんが別に彼女なら盗む様な事は無いだろう。


朝飯を抜かしたので仕事は普段よりキツイが鍛えた身体は周りの奴等に負けない。

一応俺は責任者なので率先して労働に(いそ)しんだ。


「お疲れ」


「お疲れ様です」


仕事が終わり、いつもの居酒屋で打ち上げ。

気の置けぬ仲間達と共に酒と食事。

冒険者や傭兵と違い命のやり取りが無い平和な仕事。

だが充実感では引けを取らない。


「おいハリー聞いたぞ」


仲間のヘラクレスが堪えきれない様子で近づいて来た。

コイツは元傭兵、戦争が終わり世界が平和になったので仕事が無くなりこの港に流れてきた男。

気性は荒いが憎めない奴だ。


「何がだ?」


「マティルダに逃げられたんだって?」


「...誰に聞いた?」


たぶんあのババアからだと思うが。


「港でだ、アンジェリーナが聞き込んでたのをな」


「ほう?」


アンジェが言いふらした訳じゃないのか。


「アンジェは何を聞いていたんだ?」


「詳しくは知らん、小耳に挟んだだけだが、マティルダが船に乗ってないかを関係者にな」


小耳に挟んだじゃなくて盗み聞きだ。

野郎サボってやがったな?


「それがなぜマティルダが逃げた事になるんだ?」


ヘラクレスに別の奴が嬉しそうな顔で聞いた。

止めても仕方ない。

酒も入ってるから無駄だろう。


「前もそうだったからだ」


「前も?ハリー以前にもあったのか?」


「なんで俺に聞く?」


「そうだな、当事者に聞いちゃ悪いか」


全然悪そうな顔じゃねえな。


「デリアだっけ?」


「ああ」


「デリア?」


「ハリーの前の女だ、あれは5年前だったな」


「うるさい」


デリアか懐かしい名前だ。


「5年前になにがあった?」


「そいつは言えねえな」


「なんだよ」


ヘラクレスが話を止めたので周りの男達が不満の声をあげた。

俺に気を遣う...んな訳無いか。


「構わねえよ」


「そうか?」


俺の言葉にヘラクレスは頷いた。

どうせ言いたくて仕方ねえんだろ。


「それがよ、ハリーのガキを身籠ったって話だったのに産まれたら別の奴の種でな」


「なんで分かったんだ?」


「デリアは俺と同じ褐色の肌で黒髪黒目だった。

ガキが白い肌して青い目なら誰でも分かるさ」


ヘラクレスより先に言ってやった。

済んだ事だが思い返してもいい気はしない。


「へぇー、酷え女も居たもんだ」


「ハリーそいつをどうしたんですか?」


「間男共々殺っちまったんでしょ?」


「決まってらーな『鬼のハリー』だぜ?」


口々に言うが、そんな事はしなかった。


「それがよ、女は一足先に逃げちまったんだ。

男も分からずじまいでな」


ヘラクレスの言葉に男共は俺を見た。

意外に思うだろうが内情はともかく結果はそうだ。


「まあ女を見る目がねえのは自覚してるさ、ヘラクレス同様にな」


「ヘラクレスも?」


「お、おいハリー止めろ!」


上機嫌のヘラクレスには悪いが少し頭に来たぞ。


「こいつは傭兵時代に仕事を終えて2年振りに嫁の待つ家に帰ったんだ」


「...止めてくれ」


「で、自宅に到着してドアをノックしたら」


「...頼むハリー」


「止めた」


項垂れるヘラクレスの姿に話を止める。

いたぶるのは趣味じゃない。

それに今日は喧嘩をする気分にもなれない。

それだけマティルダに本気だったのか。


「「「「えー」」」」


「ハリーそいつは無しだぜ」


「みんな脛に傷を持ってるだろ?話は終わりだ!

女が逃げちまった憂さ晴らしだ、今日は奢ってやる!」


ジョッキを掲げて笑うと野郎共は歓喜の雄叫びを上げた。

宵越しの金を持たねえ連中。

これ以上無い報酬だろう。

ヘラクレスの奴追加で酒を注文してやがる。

やけ酒だな、こりゃかなりの散財になりそうだ。


そんな訳で狂乱の連夜を過ごすのだった。


「おいハリー!!」


「...う」


連日深酒が祟り、酷い朝を迎えた俺にババアの喧しい声が頭に響いた。

あれだけ飲んだのにちゃんと着替えてベッドに入ったのか。

貴族時代の習慣は恐ろしいな。


「アンジェなんだよ?」


「マティルダが見つかったよ」


「何?」


その一言で酔いが醒める。

やっぱりこの人は頼りになる。


「どこに居た?」


「奴隷船だ」


「奴隷船?」


「ああ、出航前に押さえたよ」


「金は?」


「一文無しだ、おまけに身体中痣だらけでな」


「...そうか」


取り敢えずはマティルダの状態だな。


「マティルダは?」


「病院に入れたよ。安心しな、命に別状は無いから」


「すまんアンジェリーナ。誰かマティルダを売った?」


「昔の男だ、金を出さないと親を殺すと脅されたんだと。

でも足りないと言われて、もう一回盗む様に言われてね、拒んで自分自身を奴隷に売ったって訳さ。

馬鹿な娘だよ、親までグルになって1回娼婦に売られてるのにまた脅されるなんて」


「全くだ」


本当に馬鹿な女だ。

年季が明けて誰も知らない土地で人生をやり直すなら何故過去を捨てない?

親が?自分を売った奴等なんか見捨てりゃいいものを。


「....そんな奴だから惚れちまったのかな」


「デリアの時みたいにかい?」


アンジェリーナの言葉に黙って立ち上がる。


デリア、乱暴された事を俺に言えず子供を産んだ女。

死のうとしていたのを港で見つけ、金を握らせた。

男にはキッチリあの世行きで償って貰った。

アンジェリーナに事情を話して彼女は国を去ったが、元気にしてるだろうか?


「マティルダを脅してた奴は?」


「逃げたよ、ほれ似顔絵だ」


「ありがとう」


さすがはアンジェリーナ、元王国騎士団団長だけの事ある。


「殺すのかい?」


「マティルダ次第だ」


「任せるとさ。それよりあの子、妊娠してるよ」


「....何?」


「すぐ分かったよ、あんた気づかなかったのかい?」


「ああ」


何故俺に言わない?

デリアの話を誰からか聞いていたのか?

それじゃ腹の子は誰の?


「ハリー?」


「なんでもない」


なんでもない、そうだ、何でも...


「信じてやんな」


「信じる?」


「マティルダは良い娘だ。

2年もあんたと暮らしてたんだろ?

部屋の様子を見りゃどんな娘か分かるさ」


「そうか?」


「そうさ、あんたの金はあれだけじゃないのを知ってるのに他には手を着けずにさ」


「そうだな」


部屋にはもっと金を置いてある。

それにこの剣だ。

これを売れば500万ボリバルどころでは無い。

なぜなら国宝級の剣だからな。


....滅んだ旧王国の名剣か。


「行ってくる」


「ああ、マティルダの親は任せな」



アンジェリーナの声に頷き部屋を出る。


一仕事を終えて深夜に帰った俺は泥の様に眠った。


翌朝、港に身元不明の遺体が浮いていた。


2日後マティルダが姿を消したとアンジェリーナから聞いた。

自分から消えたのかアンジェリーナが隠したかは知らない。

『全てにケリを着けるためだ』

アンジェリーナはそう言った。


1年が過ぎた。


「おいハリー!」


「なんだよ」


ヘラクレスが仕事終わりにまた絡んで来た。


「マティルダを見たぞ」


「まさか、見間違いだろ?」


「いいや、あんな金髪で白い肌の女見間違うかよ、赤ん坊を抱いていたな」


意外な言葉に息を飲む。

マティルダはこの辺りじゃ珍しい肌だ。


「どこに行った?」


「さあな、また寄りを戻したいのかもな」


含み笑いで俺を見るヘラクレス。

頭に血が昇る。


「家に帰ったら『お前は誰だ』と見知らぬ男に言われたお前に言われたくねえよ」


「な、何だと!?」


目を剥くヘラクレス、しかし掴み掛かったりはしなかった。


「すまん、お前の家に向かったよ。

褐色の肌をした可愛いい赤ちゃんだった...」


「そうか」


気まずい空気、俺は金をヘラクレスに握らせた。


「ありがとよ」


「ああ」


酒場を出た俺は走った。

酒が回り、息が切れるのを構わず全力で...


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[良い点]   他人からどう思われようが、自分の思ったように生きる。苦さも甘さも人のせいにせず、全て受け止める。  自分には絶対にできない生き方なのに、少しばかり憧れていることに気付きました。  最後…
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