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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

怪物と悪魔

作者: 薬売り

時は巡り、星を巡り街を巡り人々の側を通り過ぎていく・・・。


今となっては、昔の話。

どこかは知らない街の話。



町外れにそれは恐ろしい姿をした怪物が住んでいます。


怪物は力強く、不思議な魔法も少し使えました。街の人は恐ろし気な怪物を恐れ避けていました。


怪物はひとりぽっちです。しかし、怪物は別に気にも止めませんでした。


生まれてからずっと独りで生きてきたからです。寂しいという気持ちも知りませんでした。



ある日のコトです。


誰も来たことのない怪物の住処に少年が訪れました。


「あのー誰かいませんかー?」少年は訪ねました。


「誰だー!!?何しに来たー!!?」怪物は少年の前に躍り出ます。


普段ならみんな怪物に驚いて逃げてしまいます。しかし少年は驚いた風もなく口を開きました。


「すみません、道に迷ってしまって家に帰れないのです」少年はどうやら目が見えないようでした。



少年は色んなことを怪物に話しました。


自分のコト、死んでしまった父親のコト、目の見えない自分を愛してくれる母親のコト。


怪物は自分を恐れない少年が気に入ると同時に少し不憫に思いました。怪物の住処から少年の家はあまりに遠いです。


怪物は少年を家まで送ることにしました。自分でも何でそう思ったのかは分かりませんでした。



街は大騒ぎになりました。


恐ろしい怪物が少年の手を引いて街にやって来たからです。


ある人は腰を抜かし、ある人は一目散に逃げていきました。おばあさんは震えながらフライパンを構えています。


少年の家では母親が今だ帰らぬ我が子を心配していました。


街が騒がしさを増しています、母親は騒ぎがだんだんと近付いてくることに気がつきました。


家の前が大騒ぎです。



ドアへ駆け寄ると少年が帰ってきました、怪物を連れて・・・。


母親は少年を背中に隠すと怪物と向き合います、我が子を守る母親は力強い視線を怪物へ向けています。


怪物は少し困っていました、怪物は人を襲ったりしませんし、悪いことはしません。ただ姿が恐ろしいだけですから。


母親や街の人は今にも飛びかかって来そうな勢いです。



少年が澄んだ声を響かせます「おかあさん、この人が道に迷った僕を家まで送ってくれたんだよ。」


「親切にどうもありがとう!」


少年は屈託なく笑顔を創ります。


母親からも、街の人からも悪い気持ちが消えていきます。みんなの視線が柔らかくなります。



この日から怪物の周りは少し変わりました。


街の人が怪物を恐れなくなり、そして親切にしてくれるようになりました。


怪物も畑作業を手伝ったりと忙しくも楽しい日々をおくるようになりました。


しかし、この事をよく思わない人達もいました。騎士です。


騎士は竜や怪物を退治して裕福な暮しと街の人の尊敬を集めていたからです。


しかし、人気者になった怪物を退治するわけにもいきません、街の人に嫌われてしまうからです。


何より怪物は素早く力持ちだから騎士に勝目はありませんでした。



ある日の夕方です、騎士の屋敷の入り口に一人の少年が立っています。


その影はまるで悪魔の様でしたが、騎士は気のせいだと気にも止めませんでした。


少年は騎士に言いました。


「怪物が邪魔なんでしょ?明日、怪物をやっつけられるようにしてあげるよ。」


合図を送るから、そうしたら退治できるから。そう言うと少年は帰っていきました。


怪物に送られてきた目の見えない少年でした。



次の日、少年はすっかり友達になった怪物の住処に少年は行きました。


少年は目の見えない辛さと悲しみを語りました、何より母親に迷惑をかけていることを悔やみました。


怪物は少年を可哀相に思い、この小さな友人に不思議な魔法で自分の目をあげる事にしました。


換わりに自分の目が見えなくなる事もかまわずに。


怪物が手をかざし、不思議な言葉を紡ぎ出すと少年は目が見えるようになりました。


換わりに怪物の目は光を失っていきます。


「ああ、ごめんね、ごめんね・・・。君の目が見えなくなるなんて!」


怪物は泪を落とす小さな友人に、自分は目が見えなくても不思議な力で普段は不自由はしないこと。


ただちょっと、ほんの少し弱くなるだけと諭します。


少年は何度も「ありがとう」と礼を繰り返し泣きながら帰って行きました。


怪物は目が見えなくなっても満足でした、とても清清しい気持ちでいっぱいでした。


大切な人のために何かできる、力に成れる事の素晴らしさを知りました。



少年は泣きながら歩いています。街の人が心配して声をかけますが少年は泣いてばかりです。


騎士は少年を見てピンときました。少年の昨日のコトバを思い出しました。


「僕が怪物をやっつけられるようにしてあげる。」


騎士は叫びます「さては怪物に虐められたな!所詮は怪物、大人しくチャンスを狙ってたんだ!」


「そうだ、そうだ」と街の中から声がしました。途端に街中の人は怪物が悪いと思ってしまいました。


騎士は颯爽と馬に跨がり、応援を受けながら怪物の元に向かいます。街の人が後に続きます。



後には少年が残りました。「そうだ、そうだ」と呟きます。その笑顔は壮絶でした。


そう、まるで悪魔のように・・・。



目の見えない怪物は騎士の敵ではありません。あっというまに串刺しにされてしまいました・・・


最後に怪物は小さな友人の名を呼んで生き絶えました。街の人の歓声が挙がります。


「これで安心だ!平和は守られた!」


騎士は悠然と胸を張っています。



少年は叫びます。


「怪物は僕に目をくれたのに!悪い事なんて何にもしてないのに!なんで退治されなきゃいけないんだ!」


街の人も騎士もびっくりです。


騎士はあわてて少年に言います「君は泣いていたじゃないか!?」


「嬉しくて泣いていたんだ!怪物の優しさと気持ちが嬉しくて!」少年は騎士に叫びました。


街の人の中から声がします。


「おまえがいけないんだ」


「そうだ、騎士が悪いんだ。勝手に怪物を退治したんだ。本当は怪物はいい奴だったのに」


口々に騎士を批判する声が挙がります。


この何日か後に騎士は街を追放されてしまいました・・・。




月日は流れ、時が過ぎて。


街では目の見えるようになった少年が、優しく勇気のある人として人気者になっていました。


母親が少年の名を呼びます。少年は母親に手を引かれながら帰って行きました。


少年は振り向いて笑います・・・。


少年の名は『サタナス』古い悪魔の名前です・・・。


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