いろいろ爆発
「っ!!」
今日の私は、
「えいっ!」
荒れていた。
「はぁはぁ」
というよりも……
「うわっ、ちょっとあやねん? 気合入り過ぎじゃない?」
「そんな事ないよ? もっ、もう1本!」
もう……何なのよ何なのよ。順調に来てたじゃない? なのに、何なのよあの最悪なランダムイベントはっ!
「んー、はっ!」
あそこで晴下君に出会えて、お昼休みの居場所だって特定出来たんだよ? あとは、
『じゃあ私も毎日お昼寝しに来ようかなっ?』
って冗談交じりに言うだけで完璧だったじゃない? それなのに……
「喜瀬ちゃん? 諦めちゃダメだよ? もう1歩足出してみて!」
なんであのタイミングでパンツ丸見えにならなきゃいけないのさぁ!
「なんか今日の彩音ちゃん変じゃない?」
「まるで鬼の様だな。あやねん」
「何か言った!?」
恥ずかしさが爆発しているのだけなんです。
「はぁー」
部活の帰り道、いつになくペダルが重くて、その速度はまるで亀。そんな状態で、何回溜息を漏らしただろう。むしろそんな事はどうでも良い。だって私の頭の中は恥ずかしさと、明日からどうやって接していこうかという問題しかなかったんだから。
やってしまった。やってしまった。
くぅ……全ては諏訪先輩の呼び出しから始まったんだ。
【ちょっとお昼休み体育館裏に来てくれないかな?】
若干さ、体育館裏って言われた時点で違和感はあったのよ。でも春季大会まであと少しだし、さすがにそれはないよね? なんて思ってたのに、普通に告白してこないでよっ!
あなたキャプテンだよ? 大会前だよ? なのによりによって同じ部活の私? あのさぁ、タイミング悪すぎ。噂でも広がってテニス部の雰囲気悪くなったらどうすんのよ。もしかして……周りから見たらそうなってもおかしくないイメージだったのかな? 私諏訪先輩に気がある様な姿見せてないんだけど……とにかくっ!
そこで華麗に最小限のダメージでお断りした。そしてそれを晴下君が見てた。結構動揺はしたけど、結果なんだかいい感じだったんだよ? それが……それが……
「はぁ」
つきのん驚かせようと買ってみた、レースの黒いパンツ。自分で言うのもあれだけど……結構セクシーなんだ? だってつきのん驚かそうと思ったんだもん。家には可愛いのか地味なやつしかないんだよ?
なのに、よりにもよって今日見られるとは……
「はぁ」
絶対幻滅されたよー、絶対そうだよぉ。
「……はぁぁぁ」
うぅ……家まで辿り着いたけど、体が重い。心も思い。月曜日、教室入った瞬間の晴下君の様子を想像するだけで頭も重い。はっ、早くお風呂に入って……シミュレーションしよ。
ガチャ
「ただいま」
玄関のドアを開けると、そこはいつもと変わらない我が家。見事に変わり映えの無いそれと、自分の心境とのギャップが、何とも憎たらしい。
変わったのは晴下君の私に対するイメージだけかぁ。世の中の事に比べればどうでも良い事だもんねぇ……あれ?
そんな事を嘆きながら、おもむろに靴を脱ごうとした時だった、いつもと同じ玄関に、いつもと違う靴が1足。
先端に小さいリボンが装飾されたおしゃれなパンプス。もちろん自分のものでも、母さんのものでもない。
あれ? お客さん?
言われてみると、いつも帰ってくれば必ず母さんが答えてくれてたはずなのに、その声も聞こえない。となれば、考えられる事は1つ。
まじかぁ、でも仕方ないか。誰かは知らないけど、磐上さん家のイメージを傷付けない様に……
「ただいまぁ」
見事に作り出されたその声は、何とも白々しく、何ともお淑やか。そして極めつけに満面の笑顔を振りまきながら、私はリビングのドアを開ける。
愛想を振りまくってまさにこういう事かぁ、でもこれくらい社会に出たら当然なんだよね? がんばろ。んで? 誰が来てるのかな?
開かれたドア、足を踏み入れたリビング。当然そこには母さんとお客さんが仲良くお茶をしていると思っていた。でも、そんな私の目に飛び込んできたのは……
「あら、彩音。お帰りなさい」
一見して、なぜそこに居るのか理解不能な人物だった。
えっ、えっ? どして? なんで彼女がここに居るの?
リビングのソファで優雅に雑誌を眺める女の人。その人は私に気付くとゆっくりと立ち上がり、私の方を見つめる。
アリス先生を彷彿とさせる長い金髪。そしてまるで人形の様な青い瞳。小さな顔に、大きな身長。スラリとしたモデル並みのルックスとスタイル。
でも、なんでここに居るのか分からない。だって彼女は……うぅん。でも目の前に居るのは正真正銘……
「ん? どうしたの? 突っ立っちゃって。私……」
彩花ちゃんだ!
「いろちゃぁぁぁん!」
目の前の状況を理解した瞬間、私はいろちゃんに向かって一直線だった。いわゆる嬉しさ爆発っていったところかな? その一瞬の速度は結構凄かったと思う。
「ひっ!」
いろちゃんも引きつってたもん。でも、そんなの関係ないよ。だって、嬉しいんだもん。
その間時間にして数秒。気が付けば私達はソファの上に倒れ込んでいた。服から漂ういろちゃんの香水の匂いが、ますます私を幸せな気分にしてくれる。
「ちょっ、彩音?」
「なぁに?」
「ラグビー部並みのタックル止めてくれない!?」
「タックルじゃないよ? 抱擁だよ?」
それに、
「それじゃあ余計に嫌よ。私そっち方面じゃないもの」
「またまたぁ」
「それに胸枕にするもの止めてよ」
「いいじゃないかぁ」
「全く……あいつみたいね」
「あいつー?」
「こっちの話よ」
このやり取りはやっぱり最高。いろちゃんのおっぱい枕も最高だねぇ。
なんという至福。この一瞬でさっきまでの瀕死状態は全回復したといっても良い。
ふぅ。ホントはもっと楽しみたいけど、流石にいろちゃんも私に乗られて苦しいだろうし、この辺で勘弁してあげよう。よっと。
「ふぅー、いやいや良い寝心地でした」
そう言って私は体を起き上がらせると、いろちゃんの手を掴んで引っ張ってあげる。
「高いわよ?」
なんて真顔で話すいろちゃんを見ると、ちょっとやり過ぎたかなって思っちゃうけど、
「かっ、体で払います。脱ぎます!」
「冗談に決まってるでしょ?」
……
「「ふふふっ、ははっ」」
やっぱりいろちゃんは笑って許してくれた。
この子の名前は葉山彩花。私の1つ年上で従姉のハーフ美女。父さん同士が兄弟とはいえ、いろちゃんの髪や目の色は完全にリサ叔母さんそのものだよねぇ。でもさ、なんで東京に住んでるいろちゃんが? ふぅ。体力も回復したし……そろそろ本題に入ろうかな?
「そいえばいろちゃん、なんでうちに?」
「ん? あぁ、実はね? 今度うちの部員連れて後黒公園のさくらまつりに来ようと思ってね? その前乗りってとこかしら」
「へぇー。そう言えばゴシップクラブだっけ? 去年の廃部危機脱出から部員は?」
「お陰様で今年もそれなりに増えたわよ」
「おぉ、良かったねぇ」
いろちゃんが通っているのは、東京……いや? 全国屈指の名門校『私立鳳瞭学園』。幼稚園から小・中・高・大学までその全てが広大な土地に存在するその学園は、有名一流企業への就職率全国トップレベル。さらに全国大会優勝経験、出場常連の部活動が数多くあり、まさに文部両道を掲げるヤバイところ。
そんな中、いろちゃんが廃部寸前から救ったのが新聞部。あっ、鳳瞭ゴシップクラブね? こう言わなきゃ怒られちゃうんだよ。……ん? でもさ? 部員全員で来るの? 東京から? ……お金は?
「いろちゃん? 部員連れてくるのは良いけど、その為のお金は?」
「活動費で間に合うわ」
ん? 活動費で間に合う? 去年の段階で部員は4人って言ってたっけ? て事は今年は1人くらい増えたって事なのかな?
「そうなの? ちなみに今は部員何人になったの?」
「えっと……10人よ」
「……10人!?」
「えぇ」
待って待って? 10人? 結構多くない? 1人あたり往復だと3万は超えるじゃん! しかもそれから乗り換えもあるとして……とんでもない金額だよ!?
「そっ、そんなに活動費ってある……の?」
「まぁそうね」
かっ、軽い。言葉が軽い。もはやそこまでレベルが違うのか……恐るべし鳳瞭学園。
「まっ、そんな感じだから今日は泊って行くね」
「ん? 泊まる?」
「えぇ、明日は土曜だし円叔母さんにも前から連絡してたんだけど? あっ、そう言えば買い物行って来るって言ってた」
明日は土曜……いろちゃんお泊り……まっ、マジですか!?
「そうなの!? 全然聞いてないよ!」
「まぁあの反応見たら、そうだとは思ったわよ」
でもそんなの関係ないね。まさかのお泊り……嬉しすぎる。はっ! この際だから、色々いろちゃんに御教授願おうかなぁ?
「でもでも、その方楽しさ倍増だよ?」
「そう言ってもらえると、嬉しいわ」
そうだな、まずは使っている香水に、使ってるシャンプーにボディソープにヘアローション。
「ふふふっ、じゃあ決まりだ。今夜は寝かせないよぉ」
「程々でお願いするわ」
「それはどうかなぁ」
そうだ、男をメロメロにさせる会話術なんかも聞いちゃおう。後は……
「ふふっ。あっ、彩音? 洗面台借りるわね?」
そう言ってソファーから立ち上がるいろちゃん。やはりそのスタイルはモデル並み……モデル並み!?
その瞬間、私の目に入ったのはジーパンの上からクッキリと浮き上がる……いろちゃんのお尻!
その大きさは小さく、とはいえキュっと引き締まったシルエット。直に見るまでもない、完全完璧な理想のお尻。
はっ! 何という事だ……見習うべきお手本がこんなにも近くにあったなんて。このタイミングで出会えた奇跡……逃すべからず!
「彩音?」
トレーニングから食生活。その他秘密の情報まで……根掘り葉掘り聞きまくっちゃうよ!? じゃあ手始めに……
「あや……」
そのお尻触らせてっ!
「いろちゃん! 」
「ちょっ、ちょっと彩音!? 何……」
「とりあえずお尻触らせてっ!」
「はっ、はぁ? 何言って、ちょっ……いや!」
「早く帰って来てー円叔母さーん!」




