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Twin come beast【2】

二十万字! 突破してんねぇ!


あと、今回はヤツのイラストが出ますよー。

 気付いたら俺は一面黒塗りの部屋の中に居た。


「……は?」


 何の脈絡もなしに妙ちくりんな場所にいるものだから困惑を禁じ得ない。

 確か俺は……そう。半魔獣となって無双していたのではなかったか。それがどうしてこんなところに居るのだろうか。まるで意味が分からない。


 他に誰か居ないものかと辺りを見回すと一人の少年が俺に背を向けるようにして立っている事が分かった。

 ただ……その少年の後ろ姿にはどこと無く既視感があった。純白の髪に、小柄な背丈。そして金の刺繍の入った高価そうな黒のローブ。そのどれもが何処かで見たような気がするのだ。


「ふん、やっと声が届いたか。この鈍感め。久しぶりに喉が枯れそうになったぞ」


 その声は聞き慣れた変声期前のソプラノボイスだった。まさかーー。


「まぁ、何がともあれ回収出来て一安心。と言ったところか」


「オルクィンジェ、なのか?」


「それ以外に誰がいる。何だ、狐に摘まれたとでも思ったか」


 そう口にしながら矢鱈と高圧的な少年は振り向いた。

 オルクィンジェは中性的で綺麗な顔をしていた。中でも一際目を引くのが目の下にある十字のアザ。多分これが聖痕というものなのだろう。

 俺は実際にオルクィンジェの顔を見た事が無い。けれど顔のパーツ一つ取っても俺の持つオルクィンジェの印象にピッタリと合致していて、この少年こそがオルクィンジェなのだと自然に理解できた。


「ここは何処なんだ? それに『霞の穏鬼』。アイツはどうなったんだ?」


「落ち着け。一つ一つ解説する」


 ゴホンと咳払いを一つするとオルクィンジェは再び口を開いた。


「ここはお前の心の中身。心象世界と呼ぶべき代物だ。以前、『デイブレイク』の傲慢女との戦いでお前が介入したあれだ。……尤もあれは俺の世界だがな」


 傲慢女……確かテテだったか。

 そう言えばテテにボコボコにされた挙句解剖されてた時に心の中でオルクィンジェをめちゃくちゃ説得した覚えがある。

 確かその時のオルクィンジェの心象世界とやらは子供部ーー。


「それは今は関係ない事柄だ。即座に忘れろ。良いか、絶対に、思い出すな」


「お、おう。分かった」


 俺は何も知らないし。見てない。アクエリオンしたのもきっと夢なのだ。きっとそうだ。

 にしても俺の心象世界というのは何というか……とんでもなく黒いし暗い。特に物も見当たらないし、伽藍堂みたいだ。


「さて、何故お前がここに居るか、だったな。愚問だ。このままだと魔獣化は免れなくなるところだったから俺が先んじて救出してやった。ただそれだけの話だ」


「……最早何でもありか」


 さすがに『魔王』と呼ばれていた訳では無いらしい。さすまおって奴だ。


「とは言え、今回は後天的。つまり突然降って湧いた絶望だったのが幸いだったな。これがお前の根底に関わるような絶望だったなら俺でも対処の余地が無かった」


「俺の……根底?」


「……気になるのも分かるが敢えて此処で言うことでも無いだろう。それにお前自身も絶望のトリガーを理解しているはずだ。それよりも現状をどうするかだ」


「俺は魔獣手前で助けられた、ってので合ってるか?」


「ああ。お前の精神のみは一先ず狂気は止まっている。だが、肉体の魔獣化は未だに止まってはいない」


 どうやら助かった訳ではなかったらしい。


「案ずるな、策はある。現在お前の肉体は魔獣化している。故にその能力は平時とは比べようも無いほどに高い。つまり、戦力的に見れば現状は必ずしも悪いだけとは言えない事が分かる」


 それは確かにそうだ。今の俺の足は獣の脚。他の誰よりも速く走れ、獣の腕は『霞の穏鬼』にすら届く。

 ただその肉体は半ば獣性で行動しておりまともなコントロールは望めそうにない。正に手綱を無くした暴れ馬状態と言って良い。


「まさかーー」


「ああ、そのまさかだ。俺とお前で獣性を押さえ込んでそのまま戦えば良い。手綱が無いなら作るまでと言う事だ」


「出来る、のか?」


 そう尋ねるとオルクィンジェは口の端を吊り上げた。


「無論だ。俺を誰だと思っている。俺は『魔王』だ。かつて誰よりも畏怖と畏敬を集めた男だ。その程度の事をやってのけないでどうする」


挿絵(By みてみん)


 傲慢な、しかし自信の籠もった物言いからは『王』の風格が感じられた。

 そしてその『王』が断じているのだ。出来るのだと、それは可能なのだと。


「確かにお前の作戦は失敗に終わり、自棄になって無理攻めを行い。挙句の果てに絶望した。だが、言ってしまえばその程度の悪手でしかない。死ななければ。欲を言えば、勝てればその程度の汚名は直ぐにでも濯げる」


 そしてオルクィンジェは俺に向かって手を差し出した。


「共に征こう。絶望を跳ね除け、己の力に変えてハッピーエンドとやらを掴むぞ」


 俺の中では既に解は出ていた。

 『王』がこう言うのだ。ならばその返答は一つしか無いだろう。

 俺はその手を取り、声高らかに宣言する。


仰せ(イエス、)の通りに(ユア・マジェスティ)


 これからは、俺たち反撃の時間だ。

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