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Twin come beast【1】

おや? 主人公の様子が……?



どんどん主人公視点の文章が崩壊していくゾ〜

 俺の目の前に立つ単眼の鬼は先程よりも大きく、吐き気を催す程の邪気を周囲に振り撒いていた。一歩鬼が歩けば草木が枯れ、樹々の悲痛な騒めきが森にこだまする。


「あ゛ァァァァァァッ!!」


 だが、俺も退けない。どれだけ恐ろしくても、怖くても、退く事は許されないのだ。

 肥大化した獣の腕で巨躯を薙ぐ。

 硬い。まるで金属を殴っているかのようだ。


「助ける……俺は助けないと! 助けられる俺じゃないとダメなんだよォッ!!」


 思い出すのは言いようのない喪失感。身体の半分を生きながらにして引き裂かれたような感覚。

 俺は清人を守る事が出来なかった。そして、挙げ句の果てに清人を失った。

 だから今度こそ。今度こそ俺は守らなければならないのだ。

 守れなければ、俺は俺でなくなるのだ。


 誰かが不幸になるのを見るのが怖い。自分だけが取り残されるのが怖い。誰かを守れないのが怖い。

 ああ、怖い、怖い怖い怖い怖いッ!!


 焦燥が、狂気を加速させ、狂気が深まる程に絶望は身体に絡み付く。

 そして、この場に限りーー絶望は力になる。


「助けるべきものを助けられなかった!! 助けたいものを取りこぼして来た!! だから救う!! 救えない俺は、俺じゃないッ!!」


 視界が目まぐるしく変化する。

 圧倒的な加速のせいで目が追い付かなくなったのかもしれない。けれど、きっとそれは悪くはない事なのだろう。

 このまま速度に任せて、樹々の合間を縫い、跳ね、駆け回れば鈍重な攻撃はまず当たらない筈だ。


「だから、救わなきゃ、助けなきゃ。清人の代わりに!! 幾らでも、この命が尽きるまでッ!!」


 気が付くと右腕だけで無く、足までもが獣の脚へと変質していた。

 余りにも悍しい変化に思わずヒッと情けない声が漏れる。

 それと同時に何か人間として大切なモノを喪ってしまったような気がしてどっと冷や汗が噴き出して来て困った。

 絶望と言う獣性に、俺は喰われるのか?

 俺はこのまま魔獣になるのか?


「あ゛あ゛あ゛ァァァァァッ!! 嫌だ!! 嫌だッ!! 俺は助け、救済……ッ!!」


 狂乱の二文字が脳内で舞い踊る。視界が赤く染まって、何だか少しおかしい。

 なけなしの人間性を捨てながら一帯の樹々を薙ぎ倒し、八つ当たりのように鬼を殴る。

 その様は、正しくーー狂乱の獣。

 助ける為に壊し、助ける為に暴れる獣そのもの。


「お、俺は、もっと助けない、とーー」


 足がもっと、さっきよりも早くなった。このまま殴ればいつか勝てる筈だ。

 そうだ、勝たないと救えない。

 勝てば救える。救いたい。救う為に壊す。救う為に殴る。救う為に引き裂け。

 攻撃を一回でも多く。叩き潰せ。蹂躙しろ。踏みにじれ。見せつけろ。上げた足を下させるな。踏んだ爪は抜かせるな。開いた目蓋は閉じさせるな。

 目に写る全てを壊せ。救済しろ。救済するべきだ。全てのモノに、破壊という名前の救済を。

 救う為に狂い、引き裂いてしまえば良い。きっとそれが良い。


「がァァッ!! 俺は、助けるんだよォォッ!!」


 あれ、俺は誰を助けるのだったっけ。

 清人を?

 それとも他の誰かを?


『ーーーーーーーー』


 ……まぁ、良いかきっとそれは些細な事だ。もっと壊そう。敵はまだ立っている。もっと殴ろう。もっと闘争を楽しもう。もっと。もっと、もっともっと。


『ーーーーーーーー』


 誰かの声が聞こえる。

 この声は誰のものだったか。


『ーーーーーーー■■ッ!!』


「ーーおる、くぃんじぇ」


 その声は、何処か悲しそうな感じがした。



♪ ♪ ♪



 ーー時間は少し遡る。


「……あんさん、一人で行ってしまったけんど何かとっておきの策でもあるんかの?」


 鬼気迫る様相で駆け出した清人をその場の流れで見送った凩はそう口にした。


「無い、と思う。多分、ぱはっぷす」


 そう答えたのは黒衣を纏った小柄な少女ーーアニだった。

 アニは清人と視界を共有しており思考共有までは出来ないにしろその先を推測する事が出来る。そして、その事は既にミーティングの際にカミングアウトされていた。

 その上で、『多分、無い』と言うのだから本当に無策で突っ込んだのだろう。


「けど……視界がおかしい。具体的にはのいずが酷い」


「取り敢えず清人を追わないと不味そうかな。何だか焦ってる風だったしね」


 そうジャックが口を挟んだ直後の事だった。

 ただでさえ濃い瘴気が、より濃くなったのだ。

 夏にも関わらずヒヤリとした風が吹き、樹々が騒めく。

 その狂騒はまるで森の悲鳴のようにも聞こえた。

 次いで、獣じみた絶叫が響き渡った。


「ッ!? 何や、何が起こっとるんや!」


「……清人が、危ないっ」

 

 そして清人と視界を共有するアニのみが『清人の危機である』と言う確固たる確信を持って真っ先に瘴気の中心部に向かって走り出した。

 それに少し遅れ凩、ジャックと続く。


「ちょい待ってや、清人に何かあったんか!?」


「……半ば魔獣化してる。だから、助けないとっ!」


「……遂に恐れてた事が起きちゃったみたいだね」


 そして瘴気と近付くにつれ獣じみた絶叫が悲痛な叫びへと形を変えていく。


『助けるべきものを助けられなかった!! 助けたいものを取りこぼして来た!! だから救う!! 救えない俺は、俺じゃないッ!!』


「この声……清人だ!! まだ完全には魔獣になってないみたいだからこれならまだ手の打ちようがーー」


 だが、続く叫びによってジャックの声は掻き消された。

 そしてしっかりと、その言葉を耳にしてしまったのだ。


『だから、救わなきゃ、助けなきゃ。()()()()()()()!! 幾らでも、この命が尽きるまでッ!!』


「清人の……代わりに?」


 その、魂の悲鳴を。

【悲報】主人公、仲間に清人じゃないのがバレる


ハンドアウト

【主人公が失った大切な人について】


主人公=杉原■■→(失った人)→杉原清人



まさかの同じ苗字! ま、まさか、清人には生き別れの弟がいてそいつが異世界転生したのか!?(そんな訳ない)


さてさて、唯編では何が起こる事やら。

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