For the settlement【3】
今回は久しぶりの迫真ハンドアウト君が久しぶりにでて来ます。
夕方、俺はーー街の中を駆けずり回っていた。
と言うのも作戦を立てたは良いもののその場に凩が居なかったから誰かが作戦を伝える必要があり、作戦の立案者だからと俺が直接凩に伝える流れになってしまったのだ。
「……結構走ったのに全然見つからないな。凩は何処にいるんだ」
肩で息をしながらボソリとそう呟く。
買い物でもしているのかと思い、商店の方へ走ったけれども居らず。店にでも入ったのかと思い、色々と聞いて回ったけれども有力な情報はゼロ。
広範囲を走る事自体は日頃の行いのお陰で苦では無いけれど、こうなっては精神的な疲労感が込み上げて来る。
「……まさか入れ違いとか、無いよな」
そうだとしたら余りにも徒労。骨折り損のくたびれ儲けと言うやつだ。
しかしそれはあくまで想像に過ぎないし、ここでとんぼ返りするのも格好悪い。
「あそこ、行くしかないか」
軽いトラウマがある手前、あまり行きたくは無いけれど今はそうも言ってはいられない。
せめてあの人が居なければ良いのだけれど……。
♪ ♪ ♪
そこは和風な街並みの中にあっても取り分け古風な店。全体的に浅黒くなっているのが不気味なその店は以前、俺が凩にボコボコにされた事のある因縁の場所だった。
意を決して中に入るとそこには紺色の作務衣を身に纏った白髪混じりの壮年男性ーー凩の養父の姿があった。
「この前来た痩せの異邦人か。何だ、人の顔をじろじろ眺めて。そんなに俺がここに居るのが不満か」
「い、いえ」
鋭い眼光に射抜かれて思わず言葉が震える。
凩の養父はダンディーな雰囲気のおじさまなのだけれども、どうにも抜き身の刀のような鋭さがあって俺はこの人が少し苦手だった。
凩の姿も見えない事だし、回れ右してその場を立ち去ろうとしたその瞬間、凩の養父は口を開いた。
「……ところで、お前さんに一つ聞きたい事がある。お前さんが凩を唆したのか」
「……唆した?」
その問い掛けの真意が読み取れず、そう問い返すと養父は一度大きく息を吐いた。
「お前さんが凩に『霞の穏鬼』を……儂の娘の成れの果てを倒すように唆したのかと、そう問うているんだ。どうなんだ」
俺の娘の成れの果て……。ああ、そうだ。凩の幼馴染である篝は養父の実の娘だった。そして、その篝が絶望に染まった姿が『霞の穏鬼』。養子が実の娘を倒すと言うのは立場的に思う所があるのだろう。
「……はい、俺がそうしました」
だから、俺は素直にそう口にした。
唆した、と言うのはあまり好ましい言い回しでは無いのだけれどやった事は結局は同じだ。ならば下手に弁明するよりもスパッと言ってしまった方が良いだろうと思っての返答だった。
果たして結果はーー。
「保身が透けて見える返答だ。一時の間に合わせに過ぎない。お前さん、そう言うのなんて言うか、知ってるか。それはな、『姑息』と言うんだ」
「っく……」
心臓がギュッと握り潰されたような心地がした。
俺が誠実な対応を、正直に話そうと、そう考えたのは一重に自己保身の為。
養父は核心を突くその言葉に冷や汗がタラリと流れた。
「手前勝手なんだよ。どいつもこいつも。凩も、篝も、死んじまった梶の小僧も。そして……手前も、儂も」
そこまで言うと凩の養父は重い腰を上げると、近くに置いてあった刀を一振り手に取った。
「こいつの銘は『野分』。造りは太刀拵、糸直刃。……儂の長年連れ添ってきた刀だ」
俺には刀についての知識は無い。けれどその刀が良いものである事ははっきりと理解出来た。けれど、それを俺の手にしっかりと握らせて何をーー。
「……もし、凩が負けるような事があったら。その時は、コイツで己の腹を掻っ捌け」
「なーー!?」
一瞬、思考が飛んだ。
養父は自分の腹を、これで掻っ捌けと、そう言ったのか?
「他人の事に首を突っ込むんだ。その位の覚悟、とうに出来ているのだろうな」
あまりの圧に肌がビリビリと痺れ、手に持っている刀がやけにズッシリと重く感じられる。
つまり、失敗は即ち死を意味すると、そう言いたい訳だ。
ならばーー。
「……分かりました」
ーーならば俺は頷こう。
失敗が死に直結する場面だって今まで何回でもあった。いや、実際に死んだ事も数回あった。
それは、今までと何ら変わる事の無い俺の戦場ではないか。
「……手前、何でそんなにも嬉しそうな顔をしやがる」
「へ?」
微かにでも表示が緩んでいたかと頬に手を添えるが別段おかしな点は無い。
「まぁ良い。異邦人に任せるってのは良い気分ではねえが……頼んだぞ。儂の馬鹿な一人娘と……萎びた青菜みたいな、たった一人の大切な馬鹿息子をよ」
そう言うと養父は何処か部屋の奥に向かって行ってしまった。
漸く心を落ち着かせられると思ったけれど、そうは問屋が卸さない。俺はとんでもないやらかしをしている事に気付いてしまった。
そう、肝心の凩の所在を聞きそびれたのだ。
ガックリと肩を落としていると不意に背後の扉が開いた。
そこから入って来たのはーー。
「凩……?」
「およ、あんさんこんなところにおったんか。珍しいの」
俺の探していた一凩その人だった。
ハンドアウト
・主人公のニタァ
該当部分
「……手前、何でそんなにも嬉しそうな顔をしやがる」
……死にたがりかな?
ここまでの流れとしては。
初期
「絶対死にたくないッ!」
↓
そのちょいと後
「助ける為なら命も惜しくは無い!」
↓
オルクィンジェから「てめー■■だろ」って言われた後
「失敗したら腹捌けや」→「ニタァ」
順調にSAN値が下がってますねクォレハ。
まぁ、単純にSAN値が下がったから、と言うよりオルクィンジェの看破が悪い風に作用したって面が大きいのだけれど。




