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For the settlement【2】

あと少しだ……頑張れ私!

あと少し書けば年内にこの章を終えれるんだから!

まだ日数は残ってる。来年からは唯編に入るんだ睦月!


次回、睦月死す。デュエルスタンバイ!


 消失能力のタネは分かった。対策も打てる。

 しかし、勝利にはまだ足りない。最大の関門がまだ残っているのだから。

 攻め手。そう、攻め手が無いのだ。

 如何に行動を見切ろうともこちらの攻撃が届かなければ意味が薄い。生存自体は可能だろうがそれだけで終わってしまう。

 今回求められるのは勝利である以上現状は芳しいとは言えない。


「さて、これをどうしたものか……」


 再び凩の屋敷に戻った俺は溜め息混じりにそう漏らした。

 『霞の穏鬼』には俺の攻撃は届かず、凩の攻撃も弾かれる。しかも、素で防御力が高いだけだから手の打ちようが無い。


「うーん、『灼熱よ熱く滾れ(イルク・マグラ)』を使えば突破出来ないかなぁ……」


「やっぱりそれしか無いのか……」


 ジャックの提案に眉根が下がる。

 ジャックの言った『赤熱よ熱く滾れ』は水蒸気爆発を利用した凶悪極まりない俺の必殺技だ。この方法で一度はリジェネ持ちの硬い魔獣を倒した事もあるし、『霞の穏鬼』にもきっと通用する事だろう。

 しかし、それをするにも難点がある。

 それは発動までにかかる時間。前回の魔獣は耐久性が高い代わりに動きが遅かった。だからこそ水蒸気爆発なんて事が出来たのだが、今回の『霞の穏鬼』はそこまで遅くは無い。故に発動に気を取られたら最後、俺を積極的に潰しに来るのは目に見えている。


「足止めも凩一人じゃ難しいし、『灼熱よ熱く滾れ』は出せそうに無いな。ジャックは拘束とかで足止めは出来ないのか?」


「僕の蔓も拘束は出来るけどやっぱり直ぐ千切られちゃいそうかな。やっぱり僕は『霞の穏鬼』の観測が精々だよ」


「成る程な……。拘束には別に何かしら用意しないといけない訳だ」


 となるとやはり予め罠を張ったりして行動を阻害する必要がーー。


「ん、分かった。拘束は得意」


「本当か!? ……って、あれ?」


 つい反射的にそう口にしてしまったが、一体誰がそう口にしたのか分からなかった。

 ジャックに視線を向けたがフルフルと首を横に振った。どうやらジャックでは無いらしい。

 となると一体誰がーー。


「二日ぶり。元気そうで何より」


 そんな風に思案していると不意に背後から何者かが抱き付いて来た。肩から薄桃の髪が溢れ、落ち着いた甘い香りが漂う。

 視線を斜め上に映すと、そこには長い睫毛と俺の片目と全く同じ真紅に染まった瞳があった。


「ーーアニ?」


「ん、ざっつらいと」


 俺が彼女の名前を口にすると彼女は少しだけ口元を綻ばせた。

 墓参りに行くと言っていた彼女がどうしてここに居るのか、何故いきなり俺に抱き付いているのか等々疑問に思うけれど。

 何よりもーー近い。

 耳元には息が吹き掛かりそうだし、首筋には髪が掛かってこそばゆいし、兎に角ヤバい。


「え、えっと……師匠のお墓参りはもう済んだのか?」


「……済んでない。けど、戻って来た」


 恥ずかしさを誤魔化そうと質問をするとアニは眉根を困ったように下げながら。


「一回、死んだのを見たから」


 そう、口にした。

 一瞬誰が死んだのを見たのかと疑問に思ったが、少し考えてみるとその答えは極々近くにある事に気付いた。

 ……死んだのは、俺だったのだ。


 俺の視界はアニと共有されている。故に、昨晩、俺が死んだ際の光景もアニと共有されてしまったらしい。


「……嫌なものを見せてごめんな」


 視界に血肉が広がり、炎が燃え盛る光景を見れば心配にもなるだろう。こればかりは避けようが無かったとは言え俺の落ち度だ。


「構わない。……けど、もっと自分を大事にして」


「……善処する」


 そう言うとアニは何処か満足気に頷いた。


「取り敢えず目下の問題はこれで解決だね。後はしっかり休んで夜に備える。これに限るかな」


 とは言え、意図しないにしろ『霞の穏鬼』対策が取れたのは純粋に心強い。

 『災禍の隻腕』の再使用が出来ないのが辛いがこれだけの面子が揃っているならば絶対に勝てないと言う事はあるまい。

 一撃を決める俺、拘束要員のアニ、ヘイトを稼ぐ凩、敵を観測するジャック。大体こんな割り振りにすれば一番安定するだろう。


「一丁、やってやっか」


 心の奥が熱く燃える。それはゲーマー特有の高揚感だった。

 対策を打ち、夢のメンバーで臨むボス討伐。勝てばハッピーエンドと『欠片』の両取り。ここで燃えない訳が無い。


「ーー『霞の穏鬼』を、ブッ倒す」


 凩はここまでずっと苦しんで来たのだ。ここで救われないなんて、そんなのは嘘だ。俺が許さない。


「ん、全力でさぽーとする。抜かりは無い……と思う。多分、めいびー」


「今回は珍しく僕にも仕事が割り振られてるからね。全力を尽くすよ」


 俺は策を弄した、仲間を募った、勝つ術を見出した。


 けれどーー熱く滾るこの胸に蟠る一抹の不安の正体を俺はまだ知らないでいた。

蜘蛛子再再登場……ぶいっ!

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