Even if it is folly ,I can only do it【6】
待たせたなあ!!
「それから、ワリャは自信を失くして、何を守るかすら分からんくなってしもうた。……せやから、守る理由が欲しかった。こんなワリャでも、守れる誰かが欲しかった」
凩はそう言い切ると沈鬱な面持ちのまま視線を落とした。その様はまるで受刑者のようで、とても見ていられなかった。
一人の親友を亡くし、もう一人の親友を魔獣にしてしまった挙句、刀まで折られる。その過去は壮絶と言う一言では片付けられないものがあった。
言うまでも無く最低最悪のバッドエンドだ。
「……君が大変な思いをしたのは分かった。悪意で清人を陥れた訳でもないのも理解出来た。けど、それとこれとは全く違う話かな。誰かを守れる自信を付ける為に清人を窮地に追い込んだのは見過ごせないよ。これに関して君はどう責任をーー」
「……ジャック、その辺にしておいてくれないか」
そう、間違いなくバッドエンド。
ならば、それを打ち壊すのは俺の仕事だ。三千世界のシリアスを殺し、誰かの幸福を導く。それはとても……素晴らしい事だとおもうから。
「凩、お前は篝を取り戻したい……って理解で合ってるか?」
「……ああ、ワリャがこんな事言う資格は無いかもしれん。けんど……掛け替えのない最後の親友はこの手に取り戻したい。梶の為にも、篝を『霞の穏鬼』のままにはしておけん」
俺が尋ねると凩は決意の籠もった視線を返して来た。
だから俺はこう口にする。
「……そうか、なら、やってやんよ」
それは意識を切り替えるスイッチ。
バッドエンドを跳ね除け、明るく笑える後日譚を願う覚悟の言葉。
「なら、取り戻そう。『霞の穏鬼』を倒して凩は親友と自信を取り戻す。それでハッピーエンドだ」
「清人!?」
ジャックは驚愕の声を上げた。凩の所業に思うところがあるのか、それとも俺のSANの残量についてか、将又戦力の不足を懸念しているのか。
けれども、そんな事はこの際どうでも良い。
「ジャック、打算とか勝算とかの話じゃ無いんだよこれは。俺が助けたいと思ったからそうするだけだ。余計な心配は止してくれ」
これは俺のエゴなのだから。
失意の底にいる人がいるならば救いたい。
不幸な結末を迎えた人がいるならば助けたい。
それが自分本位で、身勝手な事だと知っている。けれど、それでも俺は。
「凩、一緒に取り戻してみないか? お前にとって大切なものを全部」
その問いに凩は目を伏せた。その顔には苦悩がありありと見て取れる。
「……あんさんは、なしてそんな事を言えるん。あんさんはワリャのせいで一回死んだはずなんやろ。なのに、なしてそんな奴に手を伸ばせるん?」
震え声の問いに俺は笑みをもって回答する。
「それが、俺のやりたい事だからな」
「あんさん……!」
ふと腹の音がぐぅと一際大きく嘶いた。
そう言えば随分と腹にものを入れていないことを思い出し。
「……取り敢えず、飯にしないか?」
俺は、あまりの恥ずかしさに頬が燃え上がりそうになった。
♪ ♪ ♪
凩が昼食の買い出しに向かった頃、部屋で寝転んでいると唐突にオルクィンジェが声を掛けて来た。
『半ば予想していたが、やはりこうなったか』
「……SANとかヤバいのは分かってる。けど、それでも誰かを助けたいってのは曲げられなかった。……やっぱ辛そうな奴がいたら助けたいって思ってしまうのは止められそうにないな」
『分かっているのか? 今回、もし凩が救えなかった場合、お前は自責で絶望する可能性が高い。いや、『災禍の隻腕』をあと二、三回も使えばお前は確実に絶望するだろう。加えて前回の氾濫では『暴食』の助力があったが、次回もそうなる事に期待は出来ない。……敵に対してこちらの戦力が圧倒的に足りていない。それでどうやって『霞の穏鬼』を倒すつもりだ』
確かに現状は問題が多過ぎる。けれどその一つ一つを見れば解決は出来ないまでも対処自体は可能……な筈だ。
第一に氾濫。これは殲滅では無く、街に出ないように耐久する事が最終目標となる。だからヘイトを稼いで只管逃げ続ける戦略がある程度有効に作用する筈だ。
最終的には凩の飛ぶ斬撃を頼りにするのも良いし、火を気にしなくて良い場所に誘導出来れば俺の魔法でも十分な火力は出せる。
そして、最大の問題である『霞の穏鬼』。これを真っ当に倒すビジョンは全く浮かんで来ない。硬い皮膚、重量のある攻撃に透過能力。挙句の果てに火傷に対する耐性アリと文字通り鬼畜な性能を持っている。しかし、これはどうやっても倒さなければならないのだから厳しい。
「『霞の穏鬼』対策は何も思い付いて無いけど、少なくともデスマーチには対応出来る筈だ」
『では、正気度はどうするつもりだ』
正気度の対策。そんな事、最初から一つしか無い。
「オルクィンジェ、頼んだぞ」
SANは魂の同調ーー『シンクロ』で対処する。これは俺の中では半ば決定事項だ。
俺が無責任にそう言うとオルクィンジェはやれやれと呟いた。
『全く、他力本願な宿主だ。良いだろう。幾らでも手を貸そう。ただ、俺は暴れ馬だ、お前に俺が乗りこなせるか』
「乗りこなしてみせるさ。そっちこそバシバシ使ってやるから覚悟しろよな」
そう言うとオルクィンジェは一連の会話が余程おかしかったのか、ププッと吹き出した。
俺もなんだか笑えて来て腹を抱えながら上げながら笑った。
「……清人、一人で何をやってるのかなぁ」
……いつからそこにいたのか、ジャックが不審者を見たような目線を送って来た。
「ジャック、いつからそこに……」
「いや、『暴食』とは別の『欠片』の反応があったから伝えに来たんだけど、凄く笑ってたからどうしたのかと思ってさ」
「『暴食』とは別の……『欠片』?」
更新頻度があれなせいでPVがなあ……怠慢ですわー。




