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Even if it is folly ,I can only do it【2】

これは前の話にくっつける予定だったのですが……止む無しかねぇ……。

「……凩」


 凩は部屋に入ると直ぐに頭を深々と下げた。


「すまん……。本当にすまんかった」


「一体あれはどう言う事なんだ」


 朝が来るのと同時にモヤの魔獣が消失した場面を思い返す。

 しかし、俺の記憶が確かなら凩は朝が来れば魔獣が消えるだなんて一言も口にしてはいなかった筈だ。


「……あんさんも見たと思うんやけど、ハザミの魔獣は夜にしか出れん。つまり、朝焼けと同時に消える」


「どうしてそんな重要な事を隠していたんだ」


 別段咎めるつもりは無かったのだけれど、その口調は思ったよりも刺のあるものになってしまった。


「それは……」


 俯き加減に口を開閉するその姿は自分の悪事を告白する直前の子供の様にも見える。


 そして、意を決したように視線を俺へと向けると一言。


「それは、あんさんを……窮地に追い込みたかったからや」


 脳が一瞬理解を拒むのが分かった。

 しかし凩の悲痛に歪んだその顔が、哀傷に掠れたその声が、現実を俺に突き付ける。


 凩は俺を危険に晒す為に情報を伏せたのだと。


「俺、やっぱり迷惑だったか」


 ただ、思い返すとやはりと思わないでも無かった。

 俺は異邦人。彼が長年慣れ親しんだ土地の者では無いし、部屋を借りるだけ借りて、挙句飯までお世話になっている。街を騒がせた人喰いである『暴食』と類似する点が多い、なんて決定打もあったりしてマイナスポイントを挙げればキリが無い。

 凩が俺を捨てようと思うのも無理なからぬ話だろうと思う。


 しかしーー。


「違う……違うんや。あんさんが迷惑とか、邪魔やったから危険に晒した訳や無い」


「じゃあ、一体何で君は清人に朝になれば魔獣が消える事を言ってくれなかったのかな?」


「……確信が、欲しかったんや」


 凩は己の罪を吐き出すように吐露する。


「ワリャは弱い。だけど、まだ誰かを助けられるって思い上がりたかったんや。弱いワリャでも誰かを助けられるって確信が」


 その声は酷く弱々しかった。

 『烈風』と呼ばれ、ハザミの守護を一手に担う男の声とは思えない程、震えている。


「……ワリャは昔親友を同時に二人無くした。それからずっと不安やったんや。果たして、ワリャは誰かを守るに値する人間なのか。その力が本当にあるのか」


「守るに値する人間、か」


 その言葉を反芻すると胸がジクジクと痛んだ。

 ああ、やはり凩は何処か俺と似ているのだろう。

 真に守りたいものこそを守れず、失った人。ずっと大切なものばかり取りこぼした人。……きっと凩もそういう人種なのだろう。


「せやからワリャはあんさんをここに置いた。情報を伏せた。ワリャの下らない欲望を満たす為に……その命を危険に晒した」


「守る自信をつける為だけに君は清人を利用したんだね。そして、結果的に守り切れないどころか、清人に庇われた」


 ジャックが最後の審判を下すようにそう告げると凩は一層項垂れた。肩を小さくすぼめて、唇を噛み締める凩を見ると息が詰まるようで見ていられなかった。


「ジャック、その辺にしてくれないか」


 だから、俺はそう口にしていた。


「清人……?」


「大切な人を失うと、人は弱くなる。どうしようもなく打ちのめされて、立ち上がる気力も根本から折られる。だから……仕方ないんだよ。仕方ないんだ」


 少し言い訳がましくなったがこれは偽らざる本心だった。

 俺は凩が悪だと糾弾出来ないし、俺が凩を悪だと断ずる資格もまたないのだ。


「……とは言え、昨日一緒に逃げなかったのは解せない。あれは守るとか、そう言うのとは別種の感情からくる行動に見えた。……凩、お前とあの魔獣の間には一体何があったんだ」


「……ちょいと、長い話になる。それでも良えんか」


 俺が微かに頷くと凩は大きく息を吸い込んだ。


「ほいじゃ、クソつまらん話をしよか。ワリャが親友を失い、刀を失い、誇りを失った日の事を。そこまでに至る経緯を、の」

訳一名凩の話がモロブーメランになってる人がいる……。

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