Even if it is folly ,I can only do it【1】
字数少ない&予約投稿ミスった……おのれ月末
照り付ける陽光で目が覚めた。
少しだけ緑色にボヤける視界を認めると身体を起こす。
時間は正午くらいだろうか。寝起き眼には少しキツい明るさが目を刺すようだ。
「いってて……結構無茶し過ぎたっぽいか」
身体に残る微かな痛みに顔を顰める。それは昨日の戦闘の残り香。オルクィンジェとの入れ替わりを長時間行ったせいか筋繊維がいかれたらしく筋肉痛が酷い。
「やぁ、起きたみたいだねぇ」
何処からか声がすると思い辺りを見回すとーーやはりジャックがいた。但し、何故かコウモリの様に逆さ吊りの状態で天井に張り付いている。
「……毎回だけどジャックのそれは一体何なんだ?」
「寝相かな。まぁそれはさて置き」
ふわりと辺りを漂うと俺の目の前に寄ってきて。
「昨日の事を色々と確認する必要がある……かな」
『確かにそうだ。お前は昨日の一件で正気がどの程度削れたのか自覚すべきだ。それに……『暴食』についても気になる点が幾つもある』
二人の言葉に対して頷くとステータスを開く。
戦いを乗り越えただけあってレベルの上がり幅は中々に大きい。しかし……。
「……分かってはいたけど大分削れてるな。昨日のアレが続いたらもって四五日が限界って感じだ」
そこにには嫌な現実も示されていた。SANの残りは僅か三十九。昨日と比べると八も低くなっている。
「……流石にこれ以上の戦闘は不味いかな。昨日だって『暴食』が共闘に乗ってくれなければ敗走確実だったしねぇ」
ジャックがそう言うとオルクィンジェは低く唸った。
それも当然の事で、『暴食』はその身に複数の『欠片』を内包しており『欠片』の回収を目的とする俺たちとは本来相入れない存在であるはずなのだ。
なのに何を思ってか昨日の俺は敵である『暴食』に共闘を持ちかけ、二人で数多の魔獣の退治に成功していた。
オルクィンジェとしては面白く無い話ばかりなので唸りたくなるのも十二分に理解できようというものだった。
『もしかして前提が間違っているのか?』
不意にオルクィンジェはそう口にした。
「どうしたんだ?」
『少し考えていたんだ。……お前は『暴食』を助けようとしたな。それはもしかするとシンクロ率が高過ぎるが故の弊害なのでは無いかと思ったんだ』
「……高過ぎる弊害」
ゴクリと硬いツバを飲み下しながら反芻する。
『そうだ。シンクロとは魂の共振。魂の相互理解が深ければ深い程その効力は増して行く。つまり平時からシンクロ率の高い二人はそれだけお互いの魂を理解している事になる』
お互いの深い相互理解がシンクロに繋がる……。
ああ、そうか。成る程。
「相互理解している相手とは敵対出来ないのか」
『その通りだ。相互理解を深めた魂はお互いを傷付ける事を良しとは出来ない。……それが例え敵であったとしてもな。お前が『暴食』と共闘すると言った時は心底憤慨したが、シンクロ率を念頭に置いて考えてみればこうなるのは寧ろ必定だったとも言える』
つまり俺と『暴食』は平時から異様にシンクロ率が高く、無意識的にそれを感じ取った結果敵対不能となり、共闘に至った訳だ。
……正直、人喰いと相互理解が深まっていると言われても手放しに喜べないのだが。
『ただ、これはこの状況に於いて珍しく良い傾向だ。『暴食』はお前に限り強襲して来る心配は無い。つまり、差し迫った問題からは除外しても構わないと言う事だ』
「と言う事は残るは一つか」
俺のSANそして『暴食』。その他にももう一つ考えなければならない事柄がある。
「丁度本人が来てくれたみたいだねぇ」
ずずっと襖が開かれる。
その先に居たのはーー。
「……凩」
沈鬱な面持ちをした一凩だった。




