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A demon who disappears in the dark【2】

 俺が凩の元へと辿り着くと変なモヤが凩の直上にいる事に気が付いた。

 ジャックの言った最後の一体が恐らくアレなのだろう。

 しかし、対する凩は何故か目を瞑っておりモヤの存在に気付いている様子は無い。


「上から来るぞ!! 気を付けろッ!!」


 そう言うと凩は漸く目を開け、上を目視した。

 俺はアレが一体どんなものであるか知らない。だけれど、それが敵なのは理解出来た。


「死なせて堪るかよ、『災禍の隻腕』ッ!! からの『加速アクセル』ッ!!」


 だから俺は限りのある手札を切った。

 身体を突き動かすのは強い衝動。

 例えこの身体がどれだけ削られたとしても凩を救わなければならないという呪詛じみた行動原理。


 俺は力強く大地を蹴り飛ばすと一瞬で凩の所まで距離を詰め、突き飛ばす。


 そしてーー。


「へぶっ!!」


 俺は圧倒的な質量によって押し潰される。

 ブチブチと肉が断裂し、骨が砕ける嫌な音がした。

 そして、体内で無数の針虫が暴れ出すような劇的な痛みが俺を苛んだ。


 『災禍の隻腕』。その能力は酷く強力で、使用者の保有する『欠片』の数掛ける十分だけ仮初の不死性を付与し、再生箇所を攻撃した相手に炎のスリップダメージを与える事が出来ると言うものだ。


 しかしながら再生中の痛覚は消えない。

 故に本来死んで然るべき攻撃を受ければ死ぬ程身体は痛むし、治癒の際に身体から生じる炎は容赦無く身体を焼き尽くす。寧ろ蘇る分だけ苦痛度合いが増しているようにも思える。


「ぐ、っがぁ……」


 声にならない声が漏れた。身体が熱くて痛くて堪らない。きっとSANもゴリゴリと削れている事だろう。

 だが、今が削り時なんだ。今なんだよ。


 そして俺が完全に焼き尽くされたその瞬間。


「リボーンじゃオラッ!!」


 気付いたらそう叫んでいた。

 これぞ日本原産ーー本当の死ぬ気の炎だ。

 灼熱を身体に纏い、地面に杖を突き立てる。


「……これが杉原清人式死に続け。伊達に肉盾ステーシーやってないっての」


 ダメコンと盾は俺の得意分野だ。

 これだけは誰にも譲れない。


「わ、訳分からん。どうしてあんさんが生きて……」


 震えた掠れ声に俺は不敵な笑みを以て答える。


「ーーそういう、すげえ奴が杉原清人だからだ」


 先程のモヤを睥睨しながら杖を向ける。


「さぁ、来いよ。言っておくけど俺は完全解体されようが問答無用で蘇るから、覚悟しろ」


 俺は『加速アクセル』を使用しながらモヤに向かって杖を振るう。

 すると思いの外硬質な音が響き、杖を握る腕が痺れた。

 見た目こそモヤのようだが流石に俺を圧殺しただけあってその重量に見合う硬さを備えているらしい。


『清人、分かっていると思うが正気度が先程の蘇生で心許無くなっている。二度目の完全蘇生になったら……』


「分かってる」


 予想通りSANの残りが少なくなっているらしい。となると先程のような無茶はまず出来ない。

 となると回避するしか方法が無い。

 そんな場面で頼れるのはーー。


「全部回避して、致命傷は逸らす。……オルクィンジェ、指示を頼む」


 オルクィンジェをおいて他には居ない。


『分かった。二十分間、お前を一度も死なせない事を約束しよう』


 『魔王』の約束程心強いものがあるだろうか。いや、恐らくは無いだろう。

 だから、安心して戦える。


「凩、立てるか?」


「立てるわ。と言うか、色々飲み込めんのやけんど、清人こそ大丈夫なんかの? 体調もそうやけど、何よりもアイツは姿を消せるんやぞ」


「……確かに敵は見え難い。けど、俺の目にはーーその足が光って見えるぞ?」


 それは『災禍の隻腕』の副次効果。炎によるスリップダメージ。それによりモヤの足にあたるであろう箇所には微かな炎が生じていた。

 これならば見え難かろうが足の動きから次の動作が推測出来る。

 それは即ち、真っ向から戦っても勝ち筋があると言う事に他ならない。


「どんな方法で姿を消したかは分からないけどこれはーー」


 『対処出来ないようだな』と、格好良くそう言おうとした。


 しかし、希望の光は脆くも消え去った。

 ほんの一瞬で、実に呆気なく。


「嘘だろ……!?」


 驚愕の声が喉から漏れた。それはそうだろう。いきなり炎が消えたのだから。


「消えちゃったかな!? どうするの清人!?」


 ジャックの悲痛な声が森にこだまする。


「やっぱり消えたんか……くそッ」


 思考に空白が生まれる。


『見えない敵を想定して回避するのは困難だ。対処する為の策はあるのか?』


「……」


 消失した敵。凩ですら捕捉出来ない敵。

 そんな化け物を前に、現状ある程度無茶の出来る俺が出来ること。

 俺が選択すべき最善の策。


「こうなったら……ッ!!」


 俺は弾かれるように走り出した。身体は疲弊し切って重かったがそんなのは関係ない。


「あんさん、何を!?」


 臆病風に吹かれたか?

 それは否。断じて否だ。


 寧ろその逆ーー。


「これが俺の逃走経路だ!!」


 ーーそれは絶対的な生存への渇望。


 凩の元へと走り込むとお姫様抱っこの要領で凩を抱えて屋敷の方へと逃走を開始する。


「あんさん、まさか、逃げるって言ったんかの」


「ああ、そうだ。この戦場から離脱する。……俺の故郷にはこんな言葉がある。三十六計逃げるに如かず。不利になったら逃げる事も重要だ」


「そうだよ! 逃げるのは恥だけど役には立つかな!」


 今は俺も凩も万全とは言えない上、あのモヤについても情報が少な過ぎて何故炎が消えたのかとか、消失のカラクリもまだ見抜けてはいない。そんな中戦っても死ぬ可能性が高まるだけ。

 ならば三十六計逃げるに如かず。逃げるのが一番良いだろう。


 問答無用で圧殺されてみたり、ドヤ顔決めた挙句炎が消えたりと、色々とカッコ悪い面が目立つがこの際恥も外聞もかなぐり捨ててやる。


 生き残るのだ。


 俺は吐きそうになりながら肺を空気で満たし、走り続けた。


「あんさん……助けてくれた事には感謝するわ。けんど、ワリャはかがりを取り戻さなきゃならん。せやから、ワリャをここに置いて行け」


 だが、凩はいつもよりも憂を帯びた顔付きでそう言った。

伸ばしてしまった……。

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