Resonance of the soul【2】
前回のサブタイトルを変更しております。
その意味は……まぁ、読んで頂ければ。
『欠片』。それはオルクィンジェが封じられている輝石であり俺たちの捜索対象である。
それを取り込む事で爆発的な力を得る事が出来る反面、内包されているオルクィンジェの人格と馴染めなければ暴走を引き起こし、とんでもない惨事を引き起こす劇物だ。それを『暴食』が持っていると言うのだ。それも複数個。
「ジャック、それは本当なのか?」
「正直分からないかな。けど、『暴食』からは清人と同じような反応がするんだよね。何と言うか、体から少し『欠片』の匂いが漏れてるみたいな……」
『……相手は『デイブレイク』。俺の身体を六つに切り分けた張本人の作った組織だ。俺の『欠片』を複数個有していてもおかしくは無いだろう』
確かに『デイブレイク』ならばそれも可能な気がする。しかし、考えてみると少し引っかかるのだ。
オルクィンジェの『欠片』は全部で六つ。内の二つを俺が保有していて、『暴食』が二つ、ないしそれ以上の『欠片』を有しているとなると些か偏りが大き過ぎる。
「何か不気味だな」
だが、凩との戦闘を見るにその実力は凩よりも確実に劣っている。二つを取り込んだ俺と比較してもオルクィンジェにスイッチさえすれば勝ち筋はあるように思える。となるとジャックの言が仮に正しいとするなら俺と同数の二つと言う線が妥当だろうか。
「そう言えばオルクィンジェは何も感じなかったのか?」
『……いや、俺は何も感じなかった。勿論、暴走の気配もだ。だけども、『暴食』が清人同様、何らかの手段で適応したと考えれば俺が関知出来ないのも肯ける。一応、案内人と言うだけあってこの手の認知能力はジャックの方が上らしいからな』
となるとここで『暴食』を討てたなら……。
「ここで上手く動ければ一挙に『欠片』を奪取して『デイブレイク』を出し抜くチャンスになる訳か。……俄然燃えてきた」
皮算用なのは分かっている。しかし、SANにさえ目を瞑れば一人倒して二つの『欠片』、と言うはこれまでの旅を考えると非常に旨みのある話であるのも確かだ。
『となると此方にとっては中々好都合だ。俺は俺をバラした団体の幹部に絆される程緩くは無い。つまり、あちらには俺とのスイッチは使えないものと考えても良い。ならば後は『欠片』で得られる恩恵と『暴食』自体の特性のみに気を遣えばそれで終わり。実に簡単な話だ』
「ただ、戦うにしろ残りのSAN値には気を付けて欲しいかな。仮に修行が成功したとしても減る時は減るからね」
「分かってる。……ところでジャック」
話は纏まった。後は動くべし、だ。
「何かな?」
「どうやって修行すれば良いと思う?」
「は?」
この日、ジャックが初めて見せた心からの呆れ顔を俺はきっと忘れないだろう。
♪ ♪ ♪
それから何やかんやあり、俺はオルクィンジェの薦めで坐禅を始めた。
そして……やり始めてから気付いたのだがこの坐禅、只管地味である。慣れない姿勢のせいか相当足が辛いし、今のところクリアマインドの境地に辿り着く気配も当然ながら無い。
「…………」
確かにこれは正しく修行なのだとは思う。けれどこう……心の中に純粋な少年を宿している俺としては非常に退屈に感じてしまうのだ。
俺の見ていたジャンプ系の修行はバトル系が主だったものだったから読者を退屈させないように魅せ感が重視されていて、修行だけでも結構派手にやっていたと記憶している。少なくともずっと坐禅しているバトル漫画は無かった筈だ。
心躍るような新技を、とまでは思わないが刺激が欲しい感じはする。
『……無駄な事を考えるな。シンクロ率が落ちる』
そんな事を考えているとすかさずオルクィンジェがそう言った。
確かに無駄な考えを持つのは御法度かと気を引き締めるがーー。
「……ん? ちょっと待てよ、シンクロ率って何だよ」
何だか光差す道が出来そうな初出の単語をスルーする事は出来なかった。
するとオルクィンジェはほぅと息を吐くと、坐禅を崩すように指示した。
『今俺がやっていたのはシンクロと呼ばれるものだ。同調、或いは共鳴と言い換えても良い。要するにシンクロは精神を擦り合わせる作業だ。シンクロ率とはその同調の具合を示した言葉だと思えば良い』
成る程、よく分からない。
「シンクロ率ってのは何となくフワッと分かったけどそれが高まると何か良い事があるのか?」
『当然だ。シンクロは魂の同調。俺の強固な精神性をお前に付与する事でお前の精神の磨耗をある程度緩和出来る、と言えばその有用性が分かるか?』
イメージ的には一本の矢だと折れやすいが、二本になればその分折れにくいくなる、みたいなものだろうか。
確かにSANの減少を緩和すると言う点に於いて非常に有用そうだ。
『しかもシンクロはそれだけでは無い。お互いの精神がお互いの精神を補い合う事でその精神力は倍増し、より上位の力を振うことも可能になる』
と言うとスイッチとかの連携がやり易くなったり、ゆくゆきは新技もーー。
「あれ、何か既視感が……」
そこまで考えると言い様の無い既視感に襲われた。
恐らく既視感の源泉は地球で見た漫画か何かだろうと脳内検索をかけてみる。
すると、一件ドンピシャなのが見つかった。
精神を魂と読み換えて、同調を共鳴と置き換えてみると、あらまあビックリ。衝撃の真実が明らかになってしまう。
つまりこれは……健全なる魂は、健全なる精神と健全なる肉体に宿るってヤツなのではあるまいか?
『さて、解説は終わりだ。坐禅を再開するぞ』
「……応ッ!!」
この後めちゃくちゃ坐禅した。




