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Resonance of the soul【1】

サブタイトル変更しました。

「ところで、結局SANって何なんだ?」


 一人で途方に暮れるジャックにそう問い掛ける。


「SANは正気度の事だよ。その人がどの程度正気なのかを表すステータスなんだけど……取り敢えずこれを見てよ」


 ジャックが俺のSANの欄を指差した。その数値は前に見た時の五十二よりも減り、四十七にまで減っていた。


「このステータスは清人自身が強いストレスを感じたり、精神的な悪影響を受けると減少するかな。それで、これが一定値より下がると場合によっては発狂するリスクが高まるんだ」


「……発狂」


 ゴクリと硬い唾を飲み下す。まさか異世界ファンタジーでそんな言葉を聞く日が来ようとは思わなかった。

 あれ、この流れは何処かで見たような気がする。具体的に言うとギルド加入前辺りだったか。


「そして、その数値がゼロになるとーー」


 何故だろうか。『魔法少女になってよ!』なラテン語のタイトルの曲が唐突に思い浮かんだ。

 いや、そうか。この流れはギルド加入直前のアレまんまだ。


「ーー君は絶望して、魔獣になるよ」


「嘘だろ? そんなのあんまりだ……こんなのってないよ」


 営業のBGMと共に重々しい雰囲気が辺りを支配した。

 数日前に戦った歩くホヤの様な魔獣を思い出す。あんな怖気のする生命体に自分がなると思うと背中に氷水を流し込まれたみたいにゾッと背筋が震える。


「ただ、回避する方法は一応あるかな」


「どうすれば良いんだ?」


「それはズバリ……レベル上げ、だね」


「じゃあ、SANもステータスだからレベルが上がると回復するって事なのか?」


 そう口にはしたが、何だかそう単純に行くものかと懐疑的になる自分がいた。と言うのも、俺がレベル二十になった時には四十七であり初期値の七十一を大きく下回っていたからだ。

 レベルが上がった事によって減少分を賄えると言うのは些か楽観的過ぎる。


 やはりと言うかジャックも渋面を作りながら首を横に振った。


「そうは行かないんだよねぇ。SANはPOWの五倍の値になるけどーー」


「いや、それはおかしいだろ。だって俺の初期のSANは七十一……」


 俺の初期のステータスでは精神力、POWは十七。POWの五倍であるならば八十五が正しい筈だ。


「? だから君言ってたよねぇ、十四低いってさ」


 ジャックの奇妙な勘違いの源泉が今になって漸く分かった。

 俺は年齢が十四低いと言っていたのだが、実際はSANも十四低かったのだ。恐らくはその前のエリオット戦のせいでSANが削られてしまったのだろう。


「まぁ続けるんだけどさ。ここで重要なのが、SANはレベルが上がっても上限しか上がらないって事なんだ」


「って事はレベルを上げてもSAN自体は実質変化無しか。結構キツイな、終いには泣くぞ」


「いやいや、しっかりと休息を取ったりとか、精神を安定させればSANはジワジワ回復するよただーー」


 そこまで言うとジャックは表情を陰らせた。


「ただ、何だ?」


「ここでは毎晩戦闘を余儀なくされるし、その上タチの悪い人喰いもいる。休養によるSAN値の回復はここにいる限り見込めない、かな」


 それは半ば死刑宣告の様にも聞こえた。

 粘り気のある汗が吹き出し頬を伝う。


「となると、俺はこのままだと魔獣になるのか?」


 そう問い掛けるとジャックは「このペースだと確実にね」と目を伏せ気味にしながら頷いた。


 つまり、このまま何の手も講じないままでいたら俺は確実に魔獣ルート一直線になってしまう訳だ。

 俺としても魔獣化は是非とも避けたい。と言うか全力で避けなければならない事柄だ。


 でも、どう言った手段でこれを回避すれば良いのだろうか。


「…………」


 考えろ。考えるのだ、俺。クールになれ。

 メンタルがボロボロになった主人公は一体どう行動する? 俺の好きなゲームのキャラクターはらばどう難所を切り抜ける?


 瞬く間に幾つものストーリーが脳内を駆け巡る。その中から解決に向かいそうなアイデアを収集し、検討する。


 そして、天啓の如き一つのアイデアを閃いた。


「そうか……修行か」


 修行の二文字は自然と口から溢れていた。


「やっぱりこう言う時は修行だよな。修行は最大のソリューションだ」


「君は一体何を言ってるのかなぁ!?」


 そう、俺が中学生の頃には丁度ジャンプアニメの黄金期だった。勧善懲悪、友情努力勝利。その最盛期を俺は生きていた訳だ。

 中でも主人公が修行して、それまで倒せなかった敵を倒す展開は俺の大好物で、修行を終えた主人公が新技を引っ提げて劇的ビフォーアフターする熱い展開は俺の魂に刻み込まれている。


 ならば、それを俺がやってやろう。

 

 元々ウジウジと悩むのは俺の性分では無い。俺ならばとことんネタに走り、メタいことをやりまくるのが正解だ。それでこそ俺なのだ。


「ソリューション。ソリューションねぇ」


 ジャックは何だか消化不良を起こしたみたいな顔をしたが、意外なことにその意見に肯定的な人物もいた。


『ふん、やはり修行か。いつから初める? 俺も助力してやろう』


「オルク院ジェ」


『要するに俺がお前に常在戦場の精神を叩き込んでやれば正気度の喪失を抑えられると言う訳だ。中々理に叶った事を考える』


 脳裏にニヤリと怖気のするような笑みを浮かべた少年の姿が過ぎった。


『ふん、良いだろう。かつて『魔王』と呼ばれた男の『魔王』じみた修行を見せてやろう』


 俺は話が変な方向に拗れてしまった事を漸く悟った。


「ま、まぁ修行は良いんだけどさ。重要な話はもう一つあるんだよねぇ……」


「っと、そうだったな。それでもう一つってのは何なんだ?」


 ジャックは「僕もあまり確証は無いんだけど」と前置きしてから先程よりもトーンダウンした口調で。


「『暴食』。あの人喰いから微かに『欠片』の反応を感じたんだよ……それも複数のね」


 そう、告げたのだ。

すんません! オルクィンジェをオルク院ジェにしたのはしょーもないネタなんです!!


元ネタは……。


「やはりエジプトか……いつ出発する? わたしも同行する」

「花京院」


それを踏まえて。


『ふん、やはり修行か。いつから初める? 俺も助力してやろう』


「オルク院ジェ」


なんとしょーもない……。

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