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Gluttony【3】

ネクロニカだと思ったか? 残念今回はクトゥルフだ。

 結局、俺は何もしないまま『暴食』が人混みを掻き分けながら走り去るのをただ見ていた。


 そして、『暴食』本人が暴れた事もあって俺の疑いは完全に晴れる事になり、俺を殴った男は屈強な男数人に囲まれて何処かに連れて行かれた。

 凩曰く『何もしとらんあんさんを勘違いでぶん殴った上、往来で刀抜いたからの。嫁を殺されて動転したとは言えある程度のお咎めは避けられんやろな』との事だった。


 それからは半ば放心しながら凩の屋敷に戻り折角買って貰ったおむすびに手を付ける事無く部屋に引き篭もり今に至る。


「……俺に似てる男が人喰い、かぁ」


 布団の上で胡座をかきながら『暴食』の事を考える。


 顔は狐の面で見えなかったが黒いローブから微かに覗いた髪色は俺と殆ど同じで、背丈もちょうど同じくらいで、その上声まで似ている人喰い。

 他人ではあるがやはり良い気はしない。


「……ただ、何だか違和感があるんだよな」


 妙なB級ホラー映画のゾンビのような挙動で走り去る『暴食』の姿を脳裏に浮かべる。

 それは確かに狂気的な絵面ではあったが不思議なことにそこに悪意を感じる事は無かった。それどころか一種の悲痛さすら滲んでいたようにも思える。

 まるで……そう。まるでフォアグラにするために食べる事を強制されているガチョウかアヒルのような。そんな感じがした。


 とは言え、今回の件に於いて『暴食』は人喰いであり加害者。そこに擁護すべき点などありはしない。


 だけど……それでもその事実に対して何処か納得し切れない自分が確かにいた。


「はぁ……一体どうしちゃったんだよ俺。悪い事は悪い。それでカタが付くだろ……」


 そう本日何度目かの溜め息を吐きながらボソボソと呟いた。

 丁度そのタイミングでコンコンと襖が叩かれ、「今少し良いかなぁ」と言う声が聞こえた。

 これだけ癖の強い喋り方をするのはジャック以外あり得ない。

 俺は襖を開けてジャックを部屋に入れたのだが、心なしかジャックの表情がいつもより幾分か険しく見える。


「さてと、早速で悪いんだけどかなり重要な話が二つ出来たんだ」


「……重要な話? それってさっきの『暴食』関連の話か?」


 そう言うとジャックは「一つはね」と先程よりも更に複雑そうな表情を浮かべた。


「ただその話をする前に、君に頼みたい事があるんだ。それがもう一つの重要な事柄なんだけど……」


 ジャックは少しの間言いにくそうに口をムグムグと動かしていたが、やがて意を決したように口を開く。


「君のステータスを見せてくれないかな」


 予想外の要求に俺は目を丸くせざるを得なかった。


 大分前、それこそギルドカードを発効した際に一度、俺はジャックに同じ事を強請られた事があった。その時にはステータスの低さを理由にしてのらりくらりと躱していた。

 それから特に追及されなかったので安心していたのだが、どう言う訳か今このタイミングで確認が必要になるような事態が起きてしまったらしい。


 俺はどうしたものかと頭を捻る。


 俺のステータスは名前欄は依然として黒塗りのままで年齢も六になっている。そうそう無いとは思うがそこから俺が『杉原清人』では無い事が露見したら最悪だ。

 俺はまだ杉原清人でいなければならないのだから。


「……どうしても、必要な事か?」


「そうだね。このままだと正直心配かな」


 ここで隠す事は多分不可能では無い。だが、それをしてしまえば確実に大きなしこりを残すだろう。それは長期的に見て余りにも大きな損失になる。


「……分かった。俺はステータスを提示する。ただ……表記が数カ所バグってるけど、そこは気にしないでくれ」


 だから俺はジャックにステータスを見せる事を選んだ。

 ただ、年齢や名前に突っ込まれては堪らないと予め『バグ』だと明言しておく。

 だが、ジャックは聞いているのか聞いていないのかすかさずステータス欄のある部分のみをじぃっと食い入る様に見始めた。


「やっぱり……不味いよ」


 ジャックはそう言うが、正直名前と年齢以外は別におかしな点は思い浮かばない。基本に忠実な敏捷系魔法使いのステータスが広がっているだけの筈だ。

 ああ、ただ。


「SAN値が減っちゃってる……」


 SANと言うステータスが少し低くなっているのだったか。


「最初に自己申告していたとは言え、まさかこんなに下がってるなんて……」


「ん? 自己申告?」


「最初に言ってたよねぇ、十四低いってさ」


 確かにそんな事は言ったが誰もSANとやらが低いとは言った覚えは無い。これはジャックの勘違いだ。


「いや、違ーー」


 違うと、そう口を滑らせそうになり慌てて口を閉じる。

 恐る恐るジャックの様子を伺ってみるが別段気にした様子は見えず、ただただ難しい顔でステータスを覗いているだけだった。


 そしてややあってからジャックは油をさしていないブリキのおもちゃのようにぎこちない挙動で此方を向くと。


「清人、ちょっと最悪な事態が起きつつあるんだけど……正直どうすれば良いかなぁ?」


 途方に暮れた様子でそう口にした。


\(・ω・\)SAN値!(/・ω・)/ピンチ!


\(・ω・\)SAN値!(/・ω・)/ピンチ!


\(・ω・\)SAN値!(/・ω・)/ピンチ!

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