Gluttony【2】
『暴食』の六陽が登場するんで修羅場に必要な主要なメンバーが全員揃います。
私のモチベは止まらない……加速する!
「そいつが……そいつが俺の妻を喰い殺したんだッ!!」
男は俺を指差しながら興奮冷めやまぬ様子で叫んだ。
「……喰い殺したってのは、そのまんまの意味で取って良いんかの?」
「ああ、そうだ。なんなら俺の家を見てくれて構わない。今でも家は血で……。畜生!! 畜生ッ!!」
「……人が人を喰い殺すとは到底思えへんのやけんど。それに、ワリャの客人が喰い殺した証拠ってのも全く出とらん。手前の言い分は通らん」
飽くまでも冷徹に振る舞う凩を前に男は一瞬たじろいだ。だが直ぐに。
「証拠ならあるッ!!」
噛み付くようにそう宣言した。
「その真っ黒な髪、背丈、声!! ああ、間違いない!! 自分を『暴食』と名乗った男のものに違いないんだよ!! 周りの奴らも皆んなそれを見たし、聞いてるんだ! 間違いなんてある訳無いッ!!」
「暴……食?」
俺は『暴食』と言う言葉に言い知れぬ既視感を覚えた。デジャブと言い換えても良いだろう。
『暴食』。それは『傲慢』『強欲』『嫉妬』『憤怒』『色欲』『怠惰』に並ぶ七つの大罪の一つだ。
そして、その内俺は『傲慢』の力を使っていた人物をよく知っている。
それは……『デイブレイク』の六人の幹部通称『六陽』のうちの一人、テテ。
ここで起きた白昼堂々の人喰い事件との関連は分からないが『デイブレイク』が関わっている事は可能性としては全くあり得ない話では無い。
ジャックもその事に気が付いたのか露骨に顔を顰めた。
ただ、解せない事がいくつか出て来る。
先ず、ハザミに何故『デイブレイク』の幹部クラスが居るのか。
そして……テテの時点で気付くべきだったのだろうが、仮に『デイブレイク』の『六陽』が七つの大罪をモチーフにした権能を有する人間の集まりであるならば一人足りない事になる。この不自然な欠けは一体何なのか。
今考えた所で分かるはずもないのだが中々に謎の多い集団だと思う。
「顔は見とらんのかの? それに派手に血が飛び散ったように聞こえるけんど、見ての通りこん人は口の端を殴打されて血が出たるけどそれ以外は血の一滴も着いとらん。ちょいとその理屈は無理があるで」
「いいや! あいつは異邦人が着る黒い外套を着ていた!! アレを一枚脱げば中身は綺麗でもおかしくは……」
脳内の歯車がガチリと噛み合った音がした。
『異邦人の着る黒い外套』その一言で解は出た。
「多分……分かった」
俺はゆっくりと立ち上がるとそう口にする。
「人喰いの犯人が誰かはまだ分からない。けど……どんな奴がやったのかは、分かった」
今まで俺が出会った『デイブレイク』の団員は下っ端であろうが全く同じ黒いローブを着用していた。そして、今回もその例に漏れず黒いローブ姿で現れた。
となるとこの白昼堂々の人喰い事件の犯人は『デイブレイク』のメンバーであると見てもそう的外れな話ではないだろう。そして『暴食』を自称した事から『六陽』クラスの人間と見るのが妥当。
「煩いッ!! お前がやったんだろうがッ!!」
俺は首を横に振りながら口を開こうとするとーー。
絹を裂くような女性の悲鳴が聞こえた。
「ッ!?」
凩が悲鳴の聞こえた方に向かって走り出す。
俺も一拍子遅れてそちらへ駆け出すと、血塗れの家の前に辿り着いた。
そして凩がその玄関を開けると、その先には紛れもない地獄が広がっていた。
「何なんだよ……コイツ……」
暗い部屋の中、男の口から手が生えていたのだ。
いや、違う。
ローブを着た男性らしきシルエットがまるで蛇のように人間の腕を丸呑みにしている、と言うのが正しいだろうか。
いや、分からない。少なくとも今までここまで悍しい光景を見た事は無いだろう。
「うぷっ……」
急に吐き気が込み上げて来てその場でまた胃液を吐き出した。
ーーあまりにも、あまりにも冒涜的過ぎる。
「お前が人喰い、って事で良いんかの?」
だが、俺が吐いている間も凩は怪人の前へと進み出ていた。
その怪人は凩の姿を見るなり手首を前歯でもって手首を噛み千切ると、手近にあった狐の面を着けて凩と対峙する。
「はぁはぁ……。まだ消えたくない。消えられない。……喰わないと。喰らって、喰らって飲み込んで……存在を繋ぎ止めないと……」
「そこまでや、悪党」
それはまるでよくあるヒーローもののワンシーンのようだった。
昼間に現れた狂気を振り撒く狐面の怪人と、そこに木刀を突き付ける凩。
「養分だ……喰いたい! 喰らいたい! 違う……違う違うッ!! 俺は、俺はッ!!」
そう怪人は身悶えしながら絶叫すると明らかに正気を失ったようや動きをしながら玄関を飛び出そうとした。
こっちに来ると思い、身を硬くしたがーー。
「ワリャに背中見せたな」
しかし、怪人が此方まで飛び出す事はなかった。
「ガラ空きな背中、悪いけど叩き割ったわ。これで当分は動けんやろ」
怪人の背骨に沿うように凩の木刀が閃き、怪人を地面に叩き付けたからだ。
「まだ、移動系のマニューバが残ってる……逃げ、喰う。まだまだ、足りない……嫌だ、もう喰べたくない。……『ほね』ぇぇッ!!」
そう絶叫すると怪人はズルズルと非人間的な動作で玄関を抜けると俺の直ぐ真横を通り抜ける。
俺の手には武器は無く、怪人を止める術も無ければ自衛すら覚束ない。
万事休すかと思った刹那。
「かーーと?」
狐の面の奥の瞳に微かに動揺が走ったのを俺は見た気がした。
はい、この話はよくよく読んでみるとだいぶ前の伏線が回収されている話となっています。
主人公はゲーゲーしていたから分からなかったようですが、『暴食』はとんでもない事を口にしています。
以下手掛かりとそこから導かれる結論を挙げますので見たく無い方は避けて下さいまし。
暴食の吐いたとんでもないセリフ該当部。
「まだ、移動系のマニューバが残ってる……逃げ、喰う。まだまだ、足りない……嫌だ、もう喰べたくない。……『ほね』ぇぇッ!!」
23話の何気ないセリフに含まれていた伏線。
「せめて『ジャッジ』とか『ラピッド』とかの表記にしてくれたら楽なのに……」
このセリフはスキルの使用タイミングについての話の際に出ていました。
まぁ、この時点でおおよその人は「ゲーム関連やろな」と何となく当たりは付く感じですね。
プレイ済みの方は「このゲームアレやんけ」ってなるかもしれない。
そして『暴食』の言ったマニューバや『ほね』。
此方も元ネタが主人公のセリフの時と共通します。つまり、『暴食』にはゲームの知識がある訳です。
つまり、それが何を意味するかと言うと。
『暴食』は元来この世界に居た人間では無い。




