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People bound to the past【2】

「美味いなこの味……凄く久しぶりな気がする」


 俺はみたらし団子を頬張りながら思わずおれはそう口にしていた。


「ん、うまうま」


 アニも小さい口にお団子を詰め込みながら幸せそうにしている。その姿はハムスターのようで見ていてとても和やかな気分になる。


 そんなアニの姿に釣られてもう一口団子を齧ると、何て言えばいいのだろうか、田舎のお婆ちゃんの家に遊びに行った時のおやつみたいな感じが一番近いだろうか。甘じょっぱくて、落ち着くような、そんな味がした。

 これには俺もニッコリせざるを得ない。幸せだぁ……。


「あんさん達もここいらの味を気に入ったようで何よりや」


 俺と凩はジャック、アニと合流してからなんやかんやあってみんなでお茶していた。

 異世界の住人二名と指名手配一名と現地人一名とカオスなメンバーではあるが信じられない程和気藹々とした時間が流れている。

 こんなふわふわ時間を過ごしていると後で手痛いしっぺ返しが来るのでは無いかといっそ不安になるくらい穏やかな時間だ。


「そう言えばどうしてアニがハザミに来てるんだ?」


 俺がそう口にした途端、何故かピシリと空気が凍る音がした。


「ん、それは……」


 アニは俯向きながら言い淀んだ。そして暫く視線を彷徨わせるとか細い声で「ししょーの、お墓参り」と言った。

 ……考えた側からいきなり最悪なフラグ回収だ。


「……悪い。その、そんな事を言わせてしまってさ」


「……ん、構わない」


 そうは言っているが瞳を伏せたその姿は弱々しくて、罪悪感で胸がギュッと締め付けられた。


「そ、それよりさぁ! 清人何か忘れて無いかなぁ?」


「……うん?」


「僕に何かしら奢るってやつ。ほら、ミロに行くジョウキキカンの時に言ったよねぇ?」


 ジャックに何か奢る約束? そんな事ーー『うぅ……ハザミに着いたら何かしら奢ってもらうから覚悟して欲しいかなぁ』ーーあったし、言ってたな。


「……そう言えばそうだったな、それじゃあここは奢るか」


「やったね! 清人の奢りだよ!! アニちゃんも凩もたっくさん食べてね!!」


 と、ジャックは喜色満面の笑みを浮かべるとそう声高に宣った。


「ちょ!? 待てよ!?」


 一人や二人ならまだ貯金的に行けるがここに居る面子全員となるとかなり金が消し飛ぶ。正に貯金にダイレクトアタックな訳だ。

 だが、俺が和を乱したのは明白。となるとやはり俺が奢るしかないのか?

 んん? んんっ?


「そりゃあありがたいわ!! ほな、もうちょいと食べるかの」


 凩はもう完全に乗る気で、「乗るな凩戻れ」と言っても「やだ!!」と断られそうな気がする。


「そー、だね、私ももう少しだけ」


 そしてアニの方もお茶を啜りながらまた顔を綻ばせている。守りたい、この笑顔。


 そう言うと再びもちゃもちゃとした咀嚼音が響き始める。

 はぁ、とため息を一つ吐くと俺はヤケクソ気味に宣言する。


「あぁもう!! 分かったよ、俺が奢ってやんよ!!」


 ……金、足りるだろうか。



♪ ♪ ♪



 お金を支払うと俺の手元は夏を目前にも関わらず寒々しくなってしまった。素寒貧と言うやつだ。そこにこれから木刀を買うとなるとあまりにも心許ない。


 金を入れた袋を覗きながらため息を吐いていると、ふと横からたったっとアニが近付いて来た。


「清人、これ」


 そう言うと俺の手に数枚のお金を握らせて来た。


「えっと……これは?」


「お金」


 今お金を渡したその意図を読み取ろうとして彼女の顔を覗き込むのだけれど平時では起伏に乏しいミステリアスな顔付きを前にしては全く分からない。


「お金は大事。いんぽーたんと。持ってるに越したことは無い」


「そうだけど……悪いって」


 実際、どんな木刀を買うかにもよるが金は喉から手が出るほど欲しい。

 それにこっちでの宿もまだ決めていないし、資金を集める手段も無い。お金が欲しくない訳が無い。

 けれどアレだ。武士は食わねど高楊枝。今から大切な師匠のお墓参りに向かう女の子からお金を貰うだなんてのは絶対にナンセンスだ。


「じゃあ、これは……お礼?」


 そう言うと白くてほっそりとした指が頬に触れた。


「お礼って、何のーー」


「色々な世界を見せてくれたから。清人の目を通して、色んな景色を見せて貰ったから。その、お礼」


 そう言うと呆然とする俺の手を閉じさせた。

 手の中には確かな重さと、体温の温かさが残っている。


 心臓が高鳴り、何だか顔が熱くなって来たので自分の手から視線を外すと、その先には長い睫毛とルビーの瞳があった。


「ッ!?」


「ん? どうか、した?」


「いや、何でもない。何でもないったら何でもない!!」


 アニは首を傾げた。どうやら誤魔化せたらしい。……今更女の子に対してドキドキしている、だなんて恥ずかしいにも程がある。


『ふん、女々しい事だな』


 オルクィンジェはそう言うのだが生憎返す言葉も無い。女々しくて辛いよぅ……。


「それじゃあ、私はここでまたお別れ」


「そ、そうか。いや、その……ありがとう、な?」


「んっ!」


 半ばーーと言うかガチめに挙動不審になりながらも俺がそう言うとアニはグッとサムズアップした。

 そして踵を返す彼女はーー。


「……師匠のお墓参りが終わったら、私も旅に連れて行ってほしい」


 そう口にしながら去って行った。

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