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People bound to the past【1】

 まだ幸せだった頃の夢を見た。

 ずっと二人で他愛無い話をして笑い合っていた頃の夢。

 昔の夢に名残惜しさを感じながらゆっくりと目蓋を開けると蒼玉の瞳と視線がかち合った。


「おっ、あんさん、やっと起きたんか」


「……俺、一体」


 凩に揺さぶられながらゆっくりと俺は意識を覚醒させていく。

 寝起きだからか酷く頭がぼうっとして、頭の中は大学の午後一の講義中みたいなことになっている。


「ここは……」


「何寝惚けとるん? 場所は変わっとらんぞ」


 ああ、そうだった。確か俺は自分用の木刀を購入しようとして、何故か凩と手合わせする事になっていたっけ。

 身体を起こそうとすると肘関節や腹部がズキリと鈍く痛んだ。


「イテテ……」


「無理せんとき、加減したとは言えワリャの奥義の一つをモロにくらっとるんや、安静にした方がええよ」


 飛ぶ斬撃、という言葉に反応して苦々しいものが胸に広がった。

 飛ぶ斬撃自体は初見で無かった為、避けられると思ったら思った以上に飛ぶ斬撃が凄くて手も足も出ずに負けた訳だ。何ともカッコ悪い敗け方だと思う。


『基本的にお前は無様だが、先程のはお前の中でも取り分け無様だったぞ』


「やっぱりそうなるよなぁ……」


 そうオルクィンジェに小言を頂いた時、ふと何かが足りない気がした。

 何かもう一回くらい俺を叱咤しそうなやつがいる気がするのだが、それが無い。

 いや、別に俺は叱咤されたいマゾヒストな訳では無いのだがーー。


「……あれ、ジャックどこ行った?」


 そうだ、ジャックがいない。

 いつからかは正確には分からないが、ジャックがしれっとフェードアウトしてそのまま消えてしまっている。


「およ、誰か連れがいたんかの?」


「実はかくかくしかじかでまるまるうまうまな訳なんだ」


「成る程の。要するに案内を任せていた南瓜みたいな妖怪がどっか行った訳なんやな……」


 むむむ……と凩は整った眉を寄せながら暫く考え込むとポンと手のひらを叩いた。


「それって、もしかして異邦人の女の子について行ったあれかの?」


「は?」


 俺は素っ頓狂な声を上げた。



♪ ♪ ♪



 俺は木刀選びを取りやめると急いでジャックが付いて行ったであろう方面へ向かった。

 勿論俺には土地勘が無いので凩同伴だ。……凩には終始おんぶに抱っこ状態で非常に申し訳なくなってくる。


「大体ここら辺やと思うんやけんど……」


 凩に連れられて来たのは多くの屋台が立ち並ぶ飲食店街だった。

 てっきりジャックは可愛い女の子とイチャコラするものだと思っていたから少し拍子抜けした気分だ。


「ジャックはあの見た目だから目立たない筈がーー」


 ふと、視界の端に見慣れたローブが目に入った。そこからやや視線を上げるとこれまた見覚えのある骨の腕が美味しそうな三色団子を持っている。そして更に視線を上げるとそこに見えるのはさも当然のようにローブの上に鎮座している顔の彫られたカボチャ。


 俺を差し置いて、優雅にティータイムと洒落込んでいた訳だ。


「ジャァァァアック!!」


 俺はジャックに向かって猛スピードで走り出した。


「あんさん!? まだ痛みが取れとらんのに走ってええんかの!?」


「それでも男にはやらないといけない事があるんだよォォッ!!」


 ドドドドと、爆音を響かせながらジャックの元へとひた走る。


「あれ……何処からか殺気が……って清人ォ!?」


 漸く俺に気付いたのかジャックは顔を青くした。鮮やかなオレンジ色が一転、見た目は完全にスーパーで一般的に売られている黒皮のそれになっている。


「や、やぁ。グッドアフタヌーンかな。……随分と元気そうだねぇ」


「……おかげさまでな」


 恨みがましい視線をジャックに向けながらそう言うとジャックはカタカタと震え始めた。


「……そう言えばジャック、喧嘩のくだりの途中から消えてたよな?」


「いや、だって巻き込まれたく無かったからねぇ……。酔っ払ってる人に油注ぎ出したからどうしたものかと思ってさ。どう火消ししようか考えたんだけど……」


俺が「だけど?」と、先を促すとジャックはめちゃくちゃ気まずそうにしながら。


「……どう考えても無理っぽそうだから他人のフリしてフェードアウトしたよ」


 成る程、成る程。

 整理してみよう。俺が酔っ払いに絡まれ、対応に失敗。油を注ぐ結果となりジャックが逃走……。


 あれ、対応としてはそこまで非難出来たものでは無いような気がして来た。


「まぁ仕方ないか。それでそのお団子の代金幾らだよ代わりに払っておくからさっさとーー」


 行くぞと、そう言おうとした時。


「ちょっと、待って。すとっぷ」


 聞き覚えのある声がしてその場で立ち止まる。


 振り返るとそこには俺の片目と同じルビーのような赤い色の瞳を持つ少女がいた。


「……アニ?」


「ん、久しぶり。清人」


 俺が彼女の名前を呼ぶと彼女は嬉しそうに顔を綻ばせた。


挿絵(By みてみん)

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