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幻想旅団Brave and pumpkin  作者: 睦月スバル
Report2.5
60/257

Continue【2.5】

ヤンデレとして弱い気がして来た……憎悪について書いていたにも関わらずそれに関係するエピソードをいれなかった私の失敗か……。

「……私の生前って本当に救いようが無いわよね。本当、ムカつくわ」


 唯はゆっくりと閉じていた目蓋を開けるとそう呟き――次いで空を睨み付けた。

 

 ……そう、唯の惨劇は――夏はまだ終わってはいないのだ。

 寧ろ死んでからが本当の惨劇の始まりだったのだ。



♪ ♪ ♪



 唯がニャルラトホテプを名乗る邪神によってこの世界へと転生した直後、かの邪神の口からとんでもない言葉が飛び出した。


「因みにですが杉原清人さん、貴女が死んでから活気を取り戻して日常生活をそれなりに楽しんでますよ♪」


「……は?」


 唯はそんな言葉をを耳にして素っ頓狂な声を上げた。


 唯は清人に忘れられたく無いという一心で自殺を決行した。だから肝心の清人が唯の事を綺麗さっぱり忘れて幸せになる事は彼女の中では最悪中の最悪な訳で、それを想起させる事柄は凡そ禁句である。

 無論、唯には胡散臭さが服を着て歩いているような物体の戯言を信じるつもりは毛頭無いが、禁句は禁句。言われてカチンと来ない訳もなく唯はいつになく苛々とした気分になった。

 

「……嘘ね。清人は絶対に私を忘れられないわ」


「おやおや、自身ありげですね。それもこれも清人さんのご主人としての自負ってやつですか?」


 そう戯けてみせるニャルラトホテプを鋭く睨み付けるとその邪神は大袈裟に肩を竦めて「おお、怖い怖い」と心にも無いような言葉を吐いた。


「ですが――貴女も少なからず疑念を持っている。違いますか?」


「何度も言わせないでくれるかしら。清人に限ってそれは絶対にあり得ないわ」


 唯がそう断言するとニャルラトホテプはクスクスと笑い始めた。

 その笑いは相手にするのも馬鹿らしいというような、そんな笑いだった。


「……何かおかしいかしら」


「いえいえ♪ 随分と幸せな事を口にしたものですからつい笑いがこみ上げて来まして。申し訳ございません」


 そう言って尚笑い続けるニャルラトホテプだったが、不意に笑うのを止めると酷く冷めた様子で再び口を開いた。


「さて、何がおかしいのか、でしたか。先ずはそれにお答え致しましょう。……()()です。私にとって貴女は全て滑稽に見えるんですよ。とても素晴らしい道化の才能をお持ちのように見えます」


 先程の気味の悪い笑みから一転し、能面のような――否、能面がそのまま喋り出したかのような酷く不気味な表情になった。


「ッ!!」


 ――目の前の邪神が怖い。

 唯は自身が得体の知れないものと対峙しているのだと再認識し、皮膚が粟立った。


「本当に。ここまで面白い事はそうそうありませんよ。『忘れられない』為に自殺したのに、その実杉原清人さんはその存在をすっぱり忘れてのうのうと生きているのですから」


「……そんな筈は――」


「無いと、そう言い切れますか?」


 ニャルラトホテプは唯に射竦めるかのような視線と言葉を投げかけるだけ投げかけると、すぐにまた例の妙な笑い顔に戻して「まぁ、嘘ですが」などと口にした。

 唯がやや安心したのも束の間、ニャルラトホテプは更に続ける。


「まぁ、忘れてる。と言うのは嘘ですが一人で楽しんでるのは事実ですよ。貴女の居ない世界で実に楽しそうに生きてます」


 ニャルラトホテプはそこまで言うと指をパチンと鳴らした。何の真似だろうかと眉根を寄せていると中空に良く見知った顔が映し出された。

 外ハネの特徴的なウルフカット。左右に揺れるアホ毛。そして……溌剌とした笑み。

 映し出された人物は杉原清人に相違無かった。


「清、人……」


「ええ、貴女愛しの清人さんです。貴女が死んでからご覧の通りとても良い顔をするようになりました」


「……ッ」


 唯の顔から血の気が引いていく。口角が痙攣し、苦悩の底に投げ込まれたような表情をより歪なものへと変わっていく。


「ええ、貴女が死んでからです。余程素晴らしい出会いが彼を変えたのでしょう。実に良い事です」


 ニャルラトホテプの言葉が唯の心をグサグサと無遠慮に、容赦無く突き刺していく。

 この清人は唯と交際していた頃の清人ではない。あの、痛ましい笑みを浮かべる清人ではなかった。

 この清人はどちらかと言うと唯と出会う前の清人がそのまま大きくなったような印象だった。

 無尽蔵の愛に囲まれて、それを当然のように享受していたあの傲慢さを、鈍感さを、身勝手さを無自覚に振るっていた頃の清人だ。


 自分ではない誰かが、清人を変えたのだ。……変えてしまったのだ。

 そう考えると胸の中は苦いもので満たされていった。


「おやおや、随分と良い顔をしていますね♪」


「清人は……私の、私だけの犬よ。それは絶対に変わらないわ」


 そう言うと唯は笑みを浮かべた。敵を前にした時の不敵な仄暗い笑みだ。


「ニャルラトホテプ。この世界に清人が来るのよね」


「ええ♪ 来ますよ、確実にね♪」


「そう。丁度良いわね」



「清人に仲間がいるのならば、その仲を徹底的に引き裂いて。清人に恋人がいるのならば、目の前で八つ裂きにして。清人の心を今度こそズタズタに引き裂いてやるわ」



♪ ♪ ♪



 唯は仄暗い屋敷の奥にて杉原清人の到来をを待ち続ける。

 翠緑の宝珠を弄びながら、ずっとずっと。


 清人に復讐する為に。


 清人の心を引き裂く為に。




今回は真面目に私の力量不足が露呈しましたね……。精進しなければ。

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― 新着の感想 ―
[一言] ここら辺、少し前にバトル展開していたとは思えない唯の悲痛な過去がとにかくえげつないですね……!! 心情ないし行動理念にも納得ですし、何より敵側にいるのが超ビッグネームのニャル様というのが、…
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