A disaster summer experience【6】
一話に絶望感ギッシリし過ぎてやばかったので二分割にします。
――六年前。惨劇が始まる。
唯はその日、珍しく風邪をひいた。
脇に入れた体温計は三十八度を示しており、体は重く熱っぽい。
大方、昨日のバケツの水で体が冷えたのだろう。とんだ厄日だ。
頭痛に顔を顰めながらリビングへ市販の頭痛薬を取りに向かうといつものように母親が寝こけていた。
昨日も深酒をしたのだろうか、お酒の匂いがプンプンする。
「……清人には会えそうに無いわね」
薬を飲みながら唯はそう呟いた。
今となっては清人と唯は相思相愛、恋人の関係だ。
ああ、恋人。何と素敵な響きだろうか。
とは言え、二人で居るときは良いものの一人で居るときは前よりも大分寂しい気分になるのは少し難点か。
かと言って唯は清人を家には上げたくはなかった。
唯の家庭事情は凡そ壊滅的であり家はゴミだらけ、母親は酒浸り、父親は何やら仕事が上手くいかないからと母親に乱暴を働いている。
そんな所に清人を呼ぶのは憚られた。
「まぁ、仕方ないわね。取り敢えず安静にしながら勉強でもするか」
薬を戸棚に仕舞うと自室に戻って教科書を黙って読む。
唯は特別勉強熱心な訳ではないが清人よりも勉強しておけば同じ高校に通う事も充分出来るだろう。風邪とは言え手を抜いてはいられない。
が――やはり風邪だと直ぐに集中が切れるもので三十分もするとウトウトと微睡んでしまう。
「はぁ……やってらんない。昼まで少し寝ようかしら」
そう言うと唯はイヤフォンを付けると寝落ちをすべくゆったりとした曲を流した。
清々とした昭和歌謡のようなメロディーが耳に心地よく、すぐさま唯は眠りの世界へと落ちていった。
♪ ♪ ♪
「ん……ぅん」
唯は玄関のドアが開く音で目を覚ました。
どうやらまた母親が酒を買いに行ったらしい。
ふと、自分が昼食をまだ取っていない事に気付きリビングの冷蔵庫を開くとそこには冷飯と昨晩の残り物が残っていた。
どうやら母親は自分の朝食よりも酒に御執心だったらしい。
食べ物がある事は僥倖なのだがその理由が理由なだけあって唯はチッと舌打ちした。
「……そんなに酒が好きならアルコール中毒になって死ねば良いのに」
唯はここにはいない母親に向けて侮蔑の表情を浮かべた。
♪ ♪ ♪
昼食を取り、体調も改善してきた唯の耳に再び玄関のドアの開く音がした。
一瞬、母親が帰って来たかと思ったが、その足音は酷く規則的でアルコールの僕である母親のヨロヨロ歩きとは全く違っていた。
となればこんな汚い家に来る人物は一人しかいない。――父親だ。
唯の父親は高嶋家の大黒柱ではあるが、その実態は毎度出張だと言って頻繁に家を開け、久々に帰って来たと思えば母親に性的な乱暴を働く真性のクズだった。当然歓迎出来る訳が無い。
唯はリビングの包丁を握り締めるとすぐさま自室に籠もった。
父親は唯を性的な目で見る事が度々あった。その度に身の危険を感じてはいたのだが、母親と言う体の良いスケープゴートのいない現状、今度は自分が犯されかねないと考えたのだ。
「どうしてこんな時に限って来るのよ……」
唯は自分の不幸を呪った。
もし、母親が酒を買いに行かなければ。
もし、今日風邪をひかなければ、こんな事にはならなかっただろう。
こんな不幸が無ければ清人の隣で一日を過ごせたはずなのだ。
「……無駄口叩く前にどうにか逃げないとまずそうね」
しかし悲しいかなこの家の玄関以外に鍵と言う概念は無く、一度開けようとすれば簡単に開けられてしまう。
唯は自室に戻ってしまった事を心底悔やんだ。
そして、部屋のドアは開かれ――。
♪ ♪ ♪
「今日は休みだったのか。ちょうど良い時に帰ってこれたもんだ」
♪ ♪ ♪
「反抗的な娘だ。全く、一体誰に似たんだか」
♪ ♪ ♪
玄関のチャイムが鳴った。
チャイムが鳴って、またチャイムが鳴った。
学校はそろそろ下校時刻か。
誰かがプリントを渡しに来たのかもしれない。
唯は父親を殺そうとゆっくりと手を包丁の方へと這わせる。
そして、包丁にほんの少し手を触れたその瞬間。
再び、自室のドアが開いた。
そしてそのドアの向こうにいた人物は唯の良く知る人物――杉原清人だった。
「ああ、こいつが唯の彼氏か。どうよ、俺の中古品」
―― ―― ――。
―― ―― ―― ――。
なろうで一時期NTRジャンル流行ったの何でだろ。
マジで。




