A disaster summer experience【5】
予約投稿ミスってやがりますよコレ!?
高嶋唯と杉原清人は同じ中学に入学し、両名共に虐めに遭っていた。
杉原清人は唯と寝たと言う事実無根の噂話のせいで常時妬み、やっかみ、嫉妬に晒され直接的な暴行を度々受けていた。
唯の流した嘘は思わぬところで芽を出していたのである。
そして高嶋唯もまた似た理由から虐めに遭っていた。
「本ッ当にキモい女!!」
バケツの水を被りながら、高嶋唯は俯く。
「ずっと清人君にベタベタ媚びて? そのせいで清人君が虐められてるのってどうよ? おかしくない!?」
中学になってから清人は変わった。
髪の毛のハネは変わらないがウルフカットになった事で元から悪くはない顔立ちと相まってウケが良くなったのだ。
その上清人は誰に対しても優しく、運動神経も悪くはない。
運動部のような暑苦しさも無ければ、文化部のような暗さも無い。
女子にとって実に都合の良い物件となっていた。
そして、それを過剰に独占しようとする唯は女生徒の反感を買い、虐められるに至っている。
加えてあの噂に尾鰭がついて誰とも寝る女のレッテルを貼られ、勘違いした男子に迫られる事もままあった。それをすげなく扱えば……男女共に嫌われる少女の完成と言う訳だ。
「私は……」
「はっ、小学校では一番上でも今は一番下。そこんとこちゃんと理解してなくない?」
小学校で一番上だった。でも今は一番下。
中学校は小学校よりも余程年功序列がはっきりとしてくる。
良からぬ噂はガラの悪い女子の先輩にも伝わり、虐めを受ける羽目になったのだ。
ただ、噂の源泉は小学校の時に唯が言った嘘だ。
自業自得、と言うには些か苛烈過ぎるが凡そ唯に非があった。
「……先輩の有難いお言葉は終了。どう? 胸に響いたっしょ?」
高嶋唯は下唇を噛み締めながら耐え続ける。
そんな唯を嘲笑うかのように夏空の下、蝉は泣き始めた。
♪ ♪ ♪
「……唯、それ」
「ただの極めて局地的な通り雨よ、気にすることは無いわ」
清人は唯の身を案じていた。
だが、唯もまた清人の変化を感じ取っていた。
「清人……その傷……」
「ああ、ちょっと」
ちょっとと言うには大きすぎる赤く腫れた頬。暴行の跡だと言う事は一目で分かった。
そして、浮かべる笑みも前より陰があって罪悪感が募る。
「……私のせいだ」
「それは違う。きっと……俺がダメだったんだ」
一人称を俺に変えた少年からはあの純粋さが消えていた。
唯が、その純粋さを殺した。
あの純粋さを深く憎んでいた。
だが、その憎悪は……きっと深い愛の裏返しで。
だからこそ悲しかった。
「泣くなよ、唯。ほら、笑ってくれよ。そうすれば俺はいつだって大丈夫だからさ」
気付いたら涙を流していた。
いつだって大丈夫?
確かにそうだ。宿題や教科書を盗んだのは他ならぬ唯なのだから。だから、大丈夫なのは当たり前なのに。
なのに犬みたいに、ずっと尻尾を振ってついて来てくれる。
そこに愛おしさを感じずにはいられなかった。
「……清人」
「何だ?」
「……ずっと言えなかった。……ずっと言いたかった」
「私は清人の事……好き」
ずっと得る事だけを考えて生きてきた。
だから分からなかった事。
唯は清人が好きであると言う純然たる事実。
共に落ちるところまで落ちて初めて飲み込む事が出来た。
「清人がどれだけ馬鹿で、アホで、鈍感でも。これからは私がずっと守るから。……私に守らせて」
贖罪、恋慕、独占欲、依存。
その全てが混ざり合い唯の瞳に宿る。
ハイライトが消えて、茶色の瞳は底無しの沼のようにドロドロと蠢いていた。
「俺も、唯を守る。……後出しみたいでカッコ悪いけど、俺もずっと好きだった」
二人はそう言うとどちらからともなく口付けを交わした。
出会ってから五年目の夏、初めてのキスは制汗剤の匂いがした。
はい、清人×唯成立回でしたー。
今のうちに砂糖を存分に吐きましょうね♪
多分ここからは砂糖吐けなくなるから。




