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Fragment of the devil【2】

謎かけ回。回収まで大分遠いですが、ここまでで結構伏線張りました。

……前のやつよりも清人が酷い事なっとりゅ。

 エリオットの護衛を引き受けた俺とジャックは無言で敵襲に警戒していた。

 創作物では貴族の護衛を引き受けると大抵危ない人が登場して戦闘になるのが定番で。警戒するに越したことはないというのが俺とジャックの出した結論だった。


 だが……現状に明らかに違和感があった。


「……ジャック。現状をどう思う?」


 そうエリオットに聞こえないようにジャックに尋ねる。


「妙だよね。エリオットは貧民区では身なりが良い……良過ぎる。貴族っぽいし金品とか身代金とかを考えれば襲われて然るべきだと思うよ」


 俺とジャックの考えていることは概ね同じだった。

 金銭的にひっ迫している貧民区。それなのに貴族然とした容貌のエリオットが全く狙われているような様子が無いのだ。


「確か……この道を真っ直ぐ行くと中央部までショートカットが出来るはずです」


 そう言って慣れた足取りでエリオットは仄暗い路地裏へと向かおうとするのをジャックが制した。


「ダウト、その先は行き止まりかな。案内人に誘導は無駄だよ」


「……おや、誘導に気付いていながらそれを今まで言わないとは貴方も相当に意地が悪いようだ」


 エリオットの口元が三日月型に歪んでいく。これまでの温厚そうな表情は跡形も無く消え去り、醜い嘲笑を湛えた男がそこに現れた。


「改めまして……私はエリオット。魔素師カルマンのみを扱う奴隷商を営んでおります」


 ゾワリと背筋が凍る様な感覚があった。

 それは全身の皮膚が粟立つような濃厚な死の匂い。それは女神様が俺の首を落とした時と同種のもので――。


「ジャック逃げるぞ!!」


「承知だよッ!!」


 俺の選択は手堅く――逃げ。

 エリオットがいくらこの辺りの地理に明るいとしてもジャックの案内があれば切り抜ける事も可能なはずだ。


「無知」


 しかし、企みは――得てして簡単に打ち砕かれる。


 脇腹に衝撃が走りボロ屋に転がり込んだ。

 朽ちかけた木のささくれが肘をチクチクと刺し、手の甲辺りを申し訳程度に出血させる。

 蹴り飛ばされたのだと遅まきながらに理解し――横に転がるように避ける。

 次の瞬間、測ったように正確な蹴りが数秒前に俺がいた場所にめり込んだ。


「ほぅ、今の蹴りを避けるか」


「マジかよ……」


 大きな音が出たはずだが一向に人が集まる気配が無い。

 それも当然か。なぜならここは貧民区の路地裏。戦闘に好き好んでやって来る人間など、存在しないのだから。


「避けるのも構わないが、私の蹴術のレベルは達人級、君の回避が何度も通用するなどと言うのは――」



「思い上がりも甚だしい!!」


第一魔素ファースト・カルマッ!!」


 ハールーンは驚愕に目を細め、慌てて距離を置いた。

 勿論今の宣言はブラフだ。

 俺は火の発現に適性があるらしいが残念ながら使い方が分からない。

 エリオットから距離を離そうと疾駆を開始して――視界の端に緑色の蔓を捉えた。

 余りにも場違いなそれを握り込むと、物凄い力で引っ張られズルズルと引き摺られながらジャックの前に転がり出る。


「危なかったねぇ……」


 だがこれで一安心とはいかない。

 距離は開いたが先ほど転がった際に足を捻ってしまったようで足首が鈍く痛んだ。

 これでは全速力で走っても簡単に追いつかれてしまうだろう。


「……戦うしかないのか」


 逃げたら捕まる。ブラフはもう使えない。俺にはもう、勝ち残る他に道は無い。


『ヒーローって言うのは己が信念の為なら何でもするもんだ。形式美なんて要らねぇ。傲岸不遜、慇懃無礼、何でも結構じゃねぇか』


 ふと、ゲームの主人公の台詞が頭を過った。


「……そうだ。ヒーローは諦めちゃならない」


 自分に言い聞かせるように呟く。するとジャックのローブから赤い光が零れた。


「『欠片』が反応してる……!?」


 自分だけでは力が足りないのは分かりきっている。けれど、それでも現状を打破する力が要る。

 他力本願は百も承知だ。でも……それが神の誇る最強の切り札の断片であるのならば。


「……頼む。力を貸してくれッ!!」


 藁をも掴む気持ちで俺は叫んだ。


『その利己的で、自己中心的な叫び……この『魔王』が聞き届けた。喜べ宿主。今日は特別に俺の力の一端を見せてやろうじゃないか』


 すると、頭の中で少年の美しいソプラノボイスが響いた。

 その声はとても傲慢で、冷たくて、そして何より……震えてしまいそうになるほどに強大だった。


 赤い『欠片』はひと際強く輝くと粒子となって俺の中に入り込んでいく。その光はまるで封印を破り、再び渾身の力を振るわんとする赤い焔のようにも見えた。


「折角稼いだ時間を自分からふいにするか。……愚昧ここに極まったな」


「愚昧? ……それはお前の事だろう?」


 俺の肉体で、俺じゃない誰かが……いや、『魔王』が喋っている。

 いきなりの高圧的な態度にジャックまでもが目を丸くしていた。


「全く……『魔王』の前で奴隷商人如きが威勢よく吠えるなんて嘆かわしいにも程がある」


 エリオットの杖が高説垂れる俺……いや『魔王』に向かって振り下ろされた。

 ……はずだった。


「俺が話しているのに襲うなんてな。この非礼……お前はどう償うつもりだ?」


「ど、どういう絡繰りだそれは!! さっきまでは手元に武器なんて無かった筈だ!!」


『魔王』の持った一振りのショーテルがエリオットの杖を易々と受け止めていた。


「ああ、これか。これは俺の得物だ。本来は二本一対なんだが……まあお前程度一本で事足りる。いや、過分か」


 それからは一方的過ぎる展開だった。

 俺の体を借りた『魔王』は笑顔でエリオットに圧倒的な力量さを見せつけながらジワリジワリと心を追い詰めていった。その笑みは純粋無垢。けれどもそれはどこか狂気的でもあった。


「慈……、慈悲を……」


「『魔王』の俺に慈悲なんて……期待するだけ馬鹿らしいと思わないか?」


 そして……絹を裂くような絶叫が、耳朶を打った。

 飛び散る鮮血が仄暗い世界を赤色に彩っていく。


「お前の負けだ。お前の全て、俺に奪わせろ」


 『魔王』はエリオットだったものから情け容赦なく金品から服、武器を略奪して腰に付けた無限収納へと放り込むと溜息をついた。


「……随分力が落ちているらしいな」


「き、君は一体――」


 ジャックの弱々しい問いにやはり『魔王』は尊大な態度でこう答えてた。


「俺は『魔王』。この世界を滅ぼし、新たなる秩序を齎す災厄だ。……どうだ? ジョーカーを託されたと思ったらババを握らされていた気分は?」


夕陽が落ちて来たみたいな、何処までも赤い緋色の空が血糊と俺の姿をした傲慢な王の姿を照らし出す。


「……清人は無事なのかな?」


「ああ、勿論無事だ。無事、と言うのも却っておかしな話だけどな」


「どういう事?」


 そうジャックが尋ねると『魔王』心底おかしいといったように笑みを深めた。


「現在、この体には俺と宿主の二つの魂が同居している……そう考えてみろ。となるとどうなると思う?」


「……一人当たりが占める部分が少なくなる?」


「そう、同じ肉体の中に常に他人が入り込むとその分窮屈になる。俺はともかく……そのストレスが常人に耐えられるものとは到底思えないけどな」



「さて、『魔王』の謎かけはここまでだ。精々早く集めろよ? この俺の――『魔王の欠片』をな!!」


公開されたハンドアウト

・『欠片』の正体


公開されていないハンドアウト

・何故『魔王』が『欠片』に封じられていたのか。

・杉原清人は何故『魔王』を憑依させても無事だったのか。

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