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A lullaby dedicated to the devil【4】

漸くここまで来たか……。

 確かにテテの『傲慢』は強力だ。どんな相手でも単純な身体スペックのみの力比べに持ち込め、尚且つ当人の身体スペックが高い為真っ当な攻略は至難だ。

 言い換えれば真っ当にぶつからなければ攻略出来る。


 例えば道具。テテの『傲慢』はスキルを模倣出来ても装備や持っている道具は模倣出来ない為、最悪札束で殴る……金にものを言わせて煙玉やら手裏剣をしこたま用意すれば身体スペック差を無視して戦えるだろう。

 つまり――テテの『傲慢』は決して無敵の能力ではなく、いくつも抜け穴が存在する訳だ。


「さぁ、反撃開始だ」


 抜け穴が存在する以上、馬鹿正直に正攻法で戦ってやるつもりは毛頭無い。


 俺の作戦でオルクィンジェを勝たせてやんよ!!



♪ ♪ ♪



 火を纏って調子付いていますが、はてさて私にそんな虚仮威しが通用するとでも思ったのでしょうか。

 確かに肉体を再生する炎は脅威です。しかし、それは私も炎による再生が出来るという事に他なりません。

 とは言え実質ノーダメージな私には再生能力は不要ですが。


「傲慢の罪を負いし我が禍罪の権能よ、今こそ神羅万象を読み解きかの物の倨傲を写し取りなさい。『傲慢』起動」


「――それを待ってた」


 そして、私は明らかな違和感を感じました。


「これはッ!?」


 『参照』の画面が目まぐるしく変わっていて安定しないのです。

 いえ、『参照』画面を閉じても閉じても私のメニューには『参照』の二文字が無限に増殖していると言うのが正しいでしょうか。


「隙ありだ、下郎」


「――ッ!?」


 迫り来る拳を上体を逸らす事で回避――。


「かぁらぁのッ!!」


 したら急に身体が重くなった?

 その上突き出した拳を起点に炎の球が発生?


「貴方ァ!! 一体何を……!!」


「――聞きたい事は、それだけか」


 瞬間、視界が真っ赤に染まりました。

 その表示は見慣れた『参照』の二文字。

 ですが――何故それが視界を埋め尽くしているのです!?

挿絵(By みてみん)


「お前を打倒し、俺は俺を取り戻す。――覚悟は良いな」



♪ ♪ ♪



 マインド・シャッフル。

 表人格と裏人格を定期的に入れ替える事で模倣を実質無効化する作戦だ。

 勿論、俺が窮地になって思い付いた――訳では無い。『人格が二つあるんだし使えない筈がない』と某アニメで使っていた作戦をそのまま流用したのだ。

 『傲慢』も某千年眼と同じく肉体では無く人格を参照したスキルの模倣を行う事が確認出来ていた為、メタ的な観点から見てマインド・シャッフルが有効だと判断した。

 要するに俺とオルクィンジェの人格が共生する俺たちだからこそ出来たウルトラCって奴だ。


「……行くぞッ!!」


 ただ、やはりオルクィンジェ状態では肉体の負担が大きい。俺と入れ替われば『災禍の隻腕』で回復出来るとは言え、長期戦に持ち込まれれば敗色は濃厚。

 だから、一気にカタをつけるしかない。


「はぁっ!!」


 俺の加速アクセルで肉薄し、裂帛の気合いと共にオルクィンジェが再び拳を放つ。


「その動きはァ……既にィ見てるンですよォッ!! 加速アクセルでも体術でも対応出来るッてんですァ!!」


 入れ替えは慣れが一番の敵となる。その場その場で対応されると勝ち目が無くなる。

だから、フェイントだ。


 俺に入れ替えてから、直ぐにオルクィンジェに戻る。そうする事によってテテは加速アクセルから体術へ瞬時に移行しなければならなくなる。

 テテの適応力は不明だが、これをやられたら困る事は明白!!


「ぐっ、何回入れ替えたんですか貴方ァッ!!」


「さぁな、文句なら清人に言え。俺はあいつの指示通り追い詰めるのみだ」


 拳がテテの腹部を抉る。


「……こんな脆弱な屑に負けたとは俺も情けないものだ。だが、そうだな。一つだけ感謝しよう」


 くの字に曲がり、身動きの取れないテテに拳の雨が降り注ぐ。無慈悲に、一片の躊躇いも無く。


「お陰で今、とても爽快な気分だ。感謝しよう――噛ませ犬!!」


「何故!! 何故この私がァ……!!」


 幾多の打擲により口の端が切れ、高く通った鼻筋からは血が流れ、切れ長の目は腫れぼったく充血し、元の美女の面影が段々と消えて行く。


「これで、終わりだ」


 振り上げた拳がテテの顔面へ向かって迫る。

 これが決まれば間違い無く俺たちの勝ち――。


「はいはい、そこまでですよ♪ テテも、貴方達も」


 そんな喜悦に満ちた声が聞こえた。

 木々の合間から響く落ち着いた甘く蕩けるようなテノールは何処かで聞いた。いや、ごく最近聞いたような声だった。


「女が――消えた?」


 拳の先にあるはずの顔が忽然と消えてしまったのだ。


「えぇ、テテは先に回収させて貰いました♪」


 木立から現れたのはシルクハットを被った一人の男だった。

 その足取りは酷くゆっくりとしているのに、なのに何故だかゆるゆると蠢いているかのような違和感があった。


「――どんな物語にも黒幕がいます」


 男は何処か楽しげに語り始める。それはまるで世界の破滅を告げる預言者のようにも見えた。


「例えばそれは這い寄る混沌、燃える三眼、盲目にして無貌のもの、血濡れの舌の神、エジプトから来た高貴なファラオの如き預言者」


 一体何を言っているのか俺には全く分からない。ただ、その男が口を開く度にこれまでにない恐怖が背筋に走るような、そんな心地がした。眼前の男が敵である事には間違い無い。だが、逃げられる気もしなければ戦う気も起きない。


 ――あまりにも圧倒的すぎる。


「人は私をこう呼びます。そう」


 その男は徐に黒いローブを脱ぎ捨てると声高にその忌まわしき名前を唱えた。


「――ニャルラトホテプと、ね♪」

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