A lullaby dedicated to the devil【1】
字数少ないなあ……。
俺に今出来る事はたった二つだけ。
一つ目はテテに殺されないように必死こいて逃げ回る事。
そしてもう一つは……。
「一万年と二千年前から愛してるゥゥゥゥゥゥッ!!」
「貴方、一体何を……」
「うっさい! 俺の歌を聞けェェッ!!」
大音量で、歌を歌う事だ。
♪ ♪ ♪
叶人には果たさねばならない使命があった。
杉原清人を更生し、真人間に戻す事である。
しかし、清人は叶人が話し掛けても悲嘆に暮れるばかりで一度たりともまともな反応を得られなかった。更生を目指す叶人としてはそれは面白い訳が無く、若干辟易としつつあった。
「きーよーとー、遊ばないか?」
更生にはまず適切な休養、ガス抜きが必要なのだがそれのキッカケとなる会話の糸口すら掴めない。
清人が話をする場合に限り叶人は愚痴、猥談、雑談、何でもござれの総合デパートのようなものだったが清人本人に会話の意思が無ければ全くの無意味となってしまう。
「……」
困り果てた叶人はふと、とあるアニメを思い出した。『ミサイルよりも爆発力のある俺の歌を聴け!!』のアレだ。
隣でやかましく歌われたら流石の清人も無反応ではいられまい。そう考えるが早いか叶人は気合いを入れる。
「うっし、じゃあ歌うか」
クローズな部屋に閉じこもって出ないヤツにはシング&ダンスが最強なのだと、英国生まれの帰国子女の艦娘もそう言っていた。
果たしてその結果は……。
「……うるさい」
たった一言。たった一言であるがあの清人から反応を引き出せたのだ。あまりにちっぽけな戦果だったが叶人にとっては大勝利だった。
「よし、清人。俺と一緒に楽しいゲーム、しないか?」
そして、叶人はにっこりと悪ガキのような笑みを浮かべながらそう言った。
♪ ♪ ♪
経験則上、これが案外効くのを俺は知っている。
下手な言葉だと無視されるが、メロディーに乗せてやると自然と耳は俺に向く。
……まぁ、やってる方は良いがやられた方はめちゃくちゃウザがるのも知っているが。
「……新手の挑発ですか?」
テテはそんな俺の行動を挑発行為だとでも思ったのか更なる気迫で俺を追い回し始めた。
……まぁ、確かに煽っているように感じるのも無理無い話だが。
それでも俺は歌い続ける。ジャンルとか、意味とか、そんな事はどうでもいい。ただ一度、たった一度でいい。へこたれた『魔王』が俺を見てくれるのならば。
「一億と二千年後も愛してるゥゥゥゥゥゥッ!!」
肺を空気で満たして、吐き出して、また満たして。
元々スポーツマンという訳ではないし、そろそろ肺の方も根を上げ始めている。俺の限界が近いのは明白だった。
「ったく……『魔王』!! いつまでも拗ねてないで来いよ!!」
だが、『魔王』が応える気配は無かった。
……走って、走って、走り続けて。その上、歌ってみたが結局駄目だった。
……実に呆気ない終わりだった。
「魔王を再び出されては厄介ですね。……けどォ!!」
肩に衝撃が走った。
「こんなのォ!!」
そのまま肘の関節を逆方向に捻じ曲げられ。
「全然ッ!!」
グリグリと足で骨を踏み砕かれ。
「私にはァ! 通じないんですよねェ!!」
そのまま、腕を半ばから強引に引きちぎられた。
始めて見た、自分の腕の……断面、は酷く、歪、トロトロ、蕩けてるみたああ。
何、も。分からな――。
死――。
フルボッコだどん!!




