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A bit of brave 【5】

こっからはサクサクと書けるだろうか……。

魔獣戦終幕!!

「いや、だって辛いだろ!?」


 霊衣の袖で涙を拭いながら訴える。

 特に、肩書きだけが一人歩きして嫌だったという所にシンパシーを感じてついつい涙を溢さずにはいられなかった。


「……お前こそ情緒不安定かよ」


 一方男性なのだが、俺のいきなりの号泣を見て何だか冷静になったようだった。

 これも計算の内とか言えればカッコいいのだろうが残念、素だ。

 辛い経験談とかを耳にするとこう……自分の思い出したくない記憶を入れた引き出しがカタカタと音を立てるようで俺まで泣きたくなるのだ。


「悲しいもんだからつい。気を悪くしたならすまないけど」


「ああ、別に構わないんだけどよ」


 そう言うと男性は大きくため息を吐き、そして「……何か、気が抜けた」と言って空を見上げた。

 それから真顔で。


「何か、アレだ。ほら、夜中の暗い中歩いてても隣に自分より怖がってるやつがいると冷静になるってやつ。あれなんだよ」


 そんな事を宣った。

 先程まで凄い苦悩していたのが一転、清々しい程の無表情だった。悟りを開いたとか、解脱しかけてるとか、イメージ的にはそこら辺が近いのかもしれない。


「…………」


「あー、いや。うん。あんたには感謝してもしきれない筈なんだけど、なんか、アホ臭くなってきたわ。と言うかどうでもいい気がする」


 自分の涙が段々と引っ込んで行くのが分かった。目付きも自然とジトっとした物に取って代わる。


「………………」


「何か、全部アホ臭い茶番に思えてきた。燃え尽きた気分だ」


 とか言いつつさっき渡した携帯食料をもっちゃもっちゃし始めた。

 絶望したばかりとは思えない強かな態度である。と言うか、そもそも何故こんな強かな人が深く絶望したのか分からなくなって来た。


「……別に、愛されたいとか。見て欲しいとか、もうアホらしくてやってられない。どうせ誰も俺だけを見てくれやしないんだから」


 ああ、今になって理解した。

 彼は冷静になったのでは無く、自棄を起こして全ての事柄に対して冷笑的に振舞っているだけなのだと。

 ……諦めてしまえば、その事で気に病む事など無いと考えているのだと。


「それは違う」


 だから俺はそう断じた。

 いきなりの否定に男は不快そうに眉をひそめる。

 この人は天才という肩書きが一人歩きして自分が見てもらえていないと言う錯覚に陥っているのだろう。だが、俺にはそれが通じない。何故なら。


「少なくとも、俺はあなたの事を知らないし。そもそも天才って言われてもそんな所見てないからな」


 俺には前情報がまるきり無いのだから。

 もしかしたらこの人はこの世界に於いて知らない人がいないような高名な画家なのかもしれない。だが、異世界から来たばかりの俺がそんな事を知るはずが無いのだ。

 知らないから当人を見て話すしか無い。

 それは究極的に――。


「あなたの才能とか良く知らないけど俺はあなたと話してる。これってあなたの事だけ見てるって事にならないか?」


 男性の望んだ肩書きとかの存在しない当人同士の世界の始まりと言える。……かも知れない。


「……それは、そう、なのか?」


「おう、多分な」


 どうにかごり押しが功を奏して男は複雑な面持ちで頬をポリポリと掻いた。もしかしたら気恥ずかしいのかもしれない。


「……何か、上手く担がれてるような気がしなくもないけど……まぁ、それも悪くはないか」


「そうそう。そんでもって飛び出すんだよ……そう、グランドライン後半の海、人呼んで新――」


「何かそれ以上言ったらダメな気がするかなぁ!?」


 俺の口からネタが飛び出る前にジャックが飛び出してきた。見事な割り込みである。


「兎に角、自分の事を全く知らない人達がひしめく新しい世界にGOって事かな」


 そしてジャックはそんな風に締め括った。


「まぁ、グランドラインとか色々意味不明だけど参考にはしてみるか」


 男がそう言うと何故かジャックの方がウンウンと頷いて如何にも自分が解決したよ感を出している。


「これにて一件落着だねぇ。これで金貨五枚の報酬が……」


「ん?金貨五枚?何のことだそりゃあ?」


「いや、張り紙には魔獣を討伐すると金貨五枚だって書いてあったかな」


 男性はふむ、と少し考え込むと。次いでハッとした表情になった。


「……金貨五枚、そう言う事かよ。ったく、その張り紙、もしかして結構絵が上手くなかったか?」


 そう言われて思い返してみるとグロテスクな見た目に気を取られてはいたがあの絵は写実的で文句なしに上手かったような気がする。それに、『魔獣から息子を救出して欲しい。もし救出してくれる勇士がいるのならテオ=テルミドーラン第二支部受付まで来てくれ』というのが依頼だった。


「……多分依頼主は俺の親父だ。実は親子二代で絵師をやってるんだよ。当たりがキツくてクソ親父だと思ってたけど、そうか。……俺に目を向けてくれる人はずっと側にいたのに俺が気付かなかった訳だ。ったく、綺麗な女の子とかだったら良かったのによりによって不器用な親父かよ」


 言葉に反して男性の声は震えていて――。


「……伝えてくれなきゃ分かんないだろうが!!」


 防波堤が決壊したみたいに、その男性は滂沱の涙を流した。


「……それじゃあ、行くか。ジャック」


「そうだねぇ。これで安心かな」


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