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A bit of brave 【4】

おや、口調違くない?

 高火力の一撃を叩き込む方法は正直無い。

 加えて負傷した肩は上がらないし、『災禍の隻腕』もまだ使えない。


 ……いや、待てよ。


「『魔王』、二つ目の欠片を回収したんだし何かしら追加されてないのか?」


『気休め程度だが、『第二魔素セカンド・カルマ』の行使が可能になってはいる。だが、あの娘のように氷結の魔法が使えるわけでは無い。出来ても冷却や水を出すのが精々だ』


 アニが暴走した時に使っていた氷の刃。あれが使えるのであれば現状が大きく変わると思ったのだが、現実はそうそう簡単にはいかないようだ。

 だがこれは決して悲観するべき事ではない。寧ろこれは喜ぶべき事だ。単純に切れる手札が一枚増えたのだから。


 『第二魔素セカンド・カルマ』は水の属性を司る魔素カルマだ。水や冷却やらで何か出来る事と言えば……。


「あった……飛び切りの一撃をお見舞いする方法が」


『随分と前に考えていたアレか。また随分と久しいな。……にしてもこの土壇場でおかしな事を考えるものだ。俺ならば対象が死に絶えるまで殴るだけで事足りた故に小賢しい立ち回りなどとは縁がなかったのだが……』


 まぁ、確かに『魔王』なら確かにそうだろう。

 言うまでもなく『魔王』は圧倒的に強い。そしてそれの強さは小細工無しの術理の強さ。

 一つ一つの動作の無駄を省き、最小かつ最低限の動きで敵を倒す。そういう類の強さだ。俺には到底真似出来ない。


 だが、俺にだって『魔王』に勝てる点は少ないながらある。

 それはゲームやライトノベル由来の知識。

 日常では死蔵するしかない無駄な知識がここでのみ活きてくる。


「ただ問題があるんだよなコレ」


 その問題とは――ズバリどうしたら反動を小さく出来るか、だ。

 一撃の威力は多分出るだろうし威力の面では大丈夫だろうがその威力が負傷している肩に来たら目も当てられない。


『つまり身体に掛かる反動を軽減したいと。そう言う訳だな?』


 『魔王』の問いに無言で頷くと『魔王』は「成る程」と余裕をにじませながら言った。

 きっと今の『魔王』は獲物を前にした肉食獣のような笑みを浮かべているのだろう。


『身体の制御は俺がやろう。お前は魔法の制御を抜かりなく、だ』


「応ッ!!」


 良い感じだ。日曜朝の展開のようで……燃えるッ!!

 身体が俺の意識を汲みつつ俺の想像を超える挙動を取る。

 その動作はまるで流水。滔々と流れているかのようで止まる事がまるで無い。


 さて、今回追求するのは熱。

 それも圧倒的な熱だ。派手な演出は後にして只管熱を上げる。


 その結果生まれたのは拳大の大きさの火の玉。――否、火の玉では済まない熱の塊。

 存在するだけで辺りの風景が歪むほどの熱を帯びた球だ。


「ぼく、ヲ、見ろ……。天才じャなイ俺でも愛してクレェェェッ!!」


 魔獣は苦しげに呻く。きっと辛いのだろう。

 だから、せめて一撃で絶望の皮を剥ぐのみだ。


「気合い一発……ッ!!」


 魔素カルマをコントロールして正確にそれを魔獣の体内へと埋め込む。


「『灼熱よ熱く滾れ(イルク・マグラ)』ッ!!」


 ただそれだけだと自己回復で止められるのは目に見えている。

 だから――。


「『魔王』!!」


『また随分と遅かったな。だがまぁ良い。……肉薄するッ!!』


 手の平にキンキンに冷えた水の球を生み出す。飛ばす事などを考えずただただ冷たくする。


「詰めだッ!!」


 それを火の玉へと強かに打ち付ける。

 アツアツの火の玉、キンキンに冷えた水の球。何も起きない筈が無く――。


 とんでもない大爆発を引き起こす。


 その現象の名前は水蒸気爆発。

 俺の適性が火だと判明した時からずっと考えていた。最高に頭の悪い一発技だ。


 ――そして、平原に爆音が響き渡った。


「ナイスだ『魔王』」


 肩で息をしながら爆心地を眺める。

 今回は『魔王』の力を借りたから無事だったが俺の力だけだったら自爆していたに違いない。


『この程度造作もない……とは言えないか。そもそも肉体が俺のものと比べて脆弱過ぎる。何だこの身体は、少し背後に跳んだだけで腱がイカれかけたぞ』


 腱がイカれかけたと聞いて顔が青褪めないではいられなかった。

 だけれどお陰で他には大事無い。

 ただ、一体どういう跳躍をしたのだろうか、爆心地からここまで点々と地面が踵の形で抉れている。


『さて、後処理の時間だ。煮るなり焼くなり好きにすると良い』


 そして爆発した跡には一人の男性が横たわっていた。彼が魔獣となってしまった人なのだろう。

 頬はこけていて目にも生気が感じられない。


「……天才じゃない僕を見て欲しかった。僕の才能じゃなくて、僕を見て欲しかった。ただそれだけなのに」


「……」


 戦闘中はずっと絶望を打ち倒す事だけを考えていた。だから、改めて一人の男性の絶望を見ると何とも言えない悲しい気分になる。


 俺はゆっくりとその男性に近付くと男性はビクリと身体を震わせた。


「僕を殺すのか……? 僕を……」


「殺す訳無いだろ」


 落ち着かせるように穏やかな口調でそう言った。

 次いで隣にどっかりと座り込むと無限収納からちょっとした携帯食料を取り出して男性に渡した。


「ナイスファイト。めちゃくちゃ強かったよ」


 そう言いながら別の携帯食料を一口。街でコスパだけ考えた代物だから当然のように美味しくはない。


「殺さない……?」


 あぁ、確かギルドでは魔獣になった人間の後処理は文字通り煮るなり焼くなりが推奨されていたのだったか。如何にも堅牢なる人類種の防衛ラインらしい記述があった気がする。


「絶望しても死んだら駄目だ。美味いもの食べれないし……その、ほら申し訳ないだろ?その、色々と」


 因みに携帯食料は不味いけど、なんて茶化してみる。


「……人に見てもらいたくて精一杯絵の練習をしたんだ。そうしたら僕は絵の天才だって言われて皆んなが褒めた。けど、僕は絵の天才って言われて嫉妬されて僻まれて、肩書きだけが一人歩きして。もう、嫌だったんだ。……ところで、何で無関係なあんたがそんなにボロボロ泣いてるんだ?」


 そんなの、答えは一つしか無い。


「いや、だって辛いだろ!?」


 悲しけりゃ泣きたくもなる。

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