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A bit of brave 【2】

短い&遅れてすまない……。

 ――大切な人を失ったからだと、清人は言った。


「俺さ、守りたい人がいたんだ。そいつはめちゃくちゃ捻くれ者で、素直じゃなくて、でも凄く優しくてさ。ずっと守ってやりたいと思ってたんだ」


 だけど……と影のさした面持ちで清人は続ける。


「きっと……俺は間違えたんだろうな。いなくなったんだ。そいつはさ。俺の前から、消えたんだ。俺の親友も、同時期に亡くなった。全部……俺の責任だった」


 ジャックはふむ、と頷く。

 確かにありがち――と言うにしては余りにも悲劇的ではあるが、理由としては納得のいく話だった。

 ただ、漠然と。ジャックはその話の何処かに違和感を感じていた。

 少しの間考え込むと朧げながら違和感の輪郭が見えてきた。


「成る程、ねぇ……」


 更に頭を捻ると段々とその正体が鮮明になり、遂にその違和感の正体に思い至った。


 ――精神性。

 清人の精神性があまりにも歪である事。それが違和感の正体だった。


 ジャックが清人と初めて会った時は如何にも内向気質で、エリオット戦ではやけに『生き残る』事に固執しているように見えた。

 ところが、いつからか急に自分の命を投げ打っても他人を助ける意思を持つに至っているのだ。

 はっきり言って心情の動きとしては異質過ぎる。

 先程の話を聴くと尚更の事初めて会った頃が異様に感じられる。

 だからと言って話には嘘偽りの気配は無かった。

 ジャックの中で清人の人物像が段々とブレていく。

 沈んだ面持ちの内向的な青年。

 快活で時折茶々を入れる青年。

 サブカルチャーが好きな青年。

 それとも自己犠牲を美徳とする青年か。

 一体、どれが本当の杉原清人なのだろうか。そんな事をジャックは考えた。


「だから俺は悲劇を繰り返さないように、助けたいんだ。……いや、違うか」


 ふと、涼やかな風が吹いた。

 夏の気配のする、少し熱気の混じった風とは違う、冷ややかな風が。


「もう、俺は他の人が苦しむのを見たくないんだ」


 そう言うと清人は寂しげに微笑んだ。

 その微笑みには痛々しい程の後悔と、狂おしい程の惜別の念が籠っているかのようで知らぬ間に息を飲んでいた。


「……ごめん、かな。思い出すのも嫌だろうに。そんな事を言わせちゃってさ」


 清人は何とも言えないような顔をすると少し困ったようにまた微苦笑を漏らした。



♪ ♪ ♪



 ギルドテオ=テルミドーラン第二支部は第一支部とは随分と趣が異なっていた。

 誰もがしんと静まり返りっていて凡その人の気配というものが希薄だったのだ。

 第一支部は時折重い雰囲気を醸し出しているが、基本的には精力的に活動している人が多い印象がある。だが、第二支部にはそれが無い。

 内装に大した差は無いのだがそこにいる人の雰囲気は大きく異なっている。


「なんか静かだねぇ」


「……そうだな。なんだか不気味だ」


 受け付け嬢に例の張り紙を見たという旨を伝えると受け付け嬢は渋面を隠しもせずに溜息をついた。


「この状況を見ても尚、魔獣に挑もうというのですか?そんなにもお金が欲しいのですか?」


 受け付け嬢はそういうと俺達の後ろにいる冒険者達を指さした。

 ……無気力状態になった例の冒険者たちだ。


「魔獣。それはそのまま具現化した絶望と同義です。他人の絶望に抗い、戦う行為は心を著しく摩耗させます。その結果がこの有様です。これが私たち第二支部。モンスター対峙に重きを置く第一支部や、危険人物拿に重きを置く第三支部とも違い、街に蔓延る絶望と戦う最前線フロントライン。それこそがこの第二支部なのです」


 受け付け嬢は突き放すようにそう言った。

 絶望と対峙するその意味の重さを教え込むように。


 だけど俺だって「はいそうですか」と簡単に諦める事は出来ない。

 確かに報酬金額は魅力的ではある。だが、今はそれ以上に助けなければならないと言う強い思いが湧き出ているのだ。

 目的と手段が逆転しているのは分かっている。

 ただ、この手の届く範囲で苦しむ人がいるのならば助けたいと、そう思うのだ。


「それでも、俺はやりたいです」


「承知しました。ではギルドカードの提示を。……今回の魔獣は相当な強さを持っている模様です。危険だと感じたら直ぐに逃げて下さい」


「分かりました」


「それではご武運を」



公開されたハンドアウト

・清人の過去

大切な人が消えたのと同時に親友を亡くした。

……という事は?

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