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Reslut【2】

 俺はやっと役目を終えたんだ。

 俺にしか守れないもの、俺にしか守れない掛け替えのないもの。

 守り抜いたんだ。

 いつか見たアニメみたいな台詞だけど構やしない。


 俺はこんなにも幸福で、こんなにも――。


「サボ、ロー?」


 だからどうか悲しまないで欲しい。

 清人は俺がいなくても真っ直ぐに生きていけるって、そう信じてるんだから。



♪ ♪ ♪



「『デイ……ブレイク』」


 その名前は自然と口から溢れていた。

 忘れもしない転生して二日目、俺は『デイブレイク』に襲撃を受けたのだ。

 固い唾を飲み込みながらその美貌の騎士を見る。

 誰がどう見ても美しいと言うであろう整った容姿をしている。けれどもその威容に満ちた立ち振る舞いは紛れも無い強者のもので、俺には姫と言うよりも化け物の様に見えた。


「何だよ知ってるんじゃねえか。ここの地域を担当する『デイブレイク』の六人しかいない最高位幹部、『六陽』の一人『拒絶姫』のテテだ」


「拒絶……姫」


 不吉な渾名に思わず冷や汗が流れる。

 前回『デイブレイク』は俺が『魔王』の欠片を持っている者だと断定していきなり襲い掛かって来た。

ここで襲われる可能性はかなり高いだろう。


「っ!!」


 一瞬、拒絶姫がこちらに視線を投げかけた様な気がして意図せず体が震えた。


「何でも『拒絶姫』ってのは相対した相手のスタイルをそのまま真似するらしい。積み上げた研鑽に一瞬で追い付き、更にその上を行く……相手は気の毒だが、自分の努力を否定された気分になるのも頷けるよな……。ってお前さんどうしたんだ? 顔青いぞ」


「ああ、いや何でもない……です」


 口ではそう言ってはいるが額には絶えず脂汗が流れ続け、血の気が引いているのが分かる。


「お前さんどう考えても大丈夫じゃないだろ。冒険者は身体が資本、今日は宿で休んだ方が良い」


「そうですね……」


 仕方ないと今度こそギルドホールから出る。どうやら『拒絶姫』はこちらを認知してはいなかったらしく絡まれる事も無かった。

 だが、一安心とはならなかった。

 この街には俺を目の敵とする『デイブレイク』とその中で僅かに六人しか存在しないという幹部クラス『六陽』が堂々と闊歩しているのだ。

 現在『災禍の隻腕』はまだ使用不可であり戦闘になっても切れる手札が無い。

 となれば俺の取れる行動、取るべき行動は――。


「ジャック」


「何かな?」


「拠点をそろそろ移さないか?」


 ――逃げる事。

 思えばこの世界に来てずっと同じ宿に泊まり続けていた。これまでよく襲われなかったと思う。毎日多忙だったとは言え余りにも迂闊だった。


『ゴブリンの一件が沈静化した今、またこちらを攻撃する事は十二分にあり得る。いや……もしかしたらゴブリンの大繁盛と魔王おれを天秤にかけた時に俺たちが後回しにされたのかもしれないな』


 『魔王』の言は納得のいくものだった。

 まず俺が襲撃を受けたのはさっき言った通り二日目。その時は下っ端相手に苦戦しながら辛くも勝利をした。

 それから数日と経たずゴブリンの大繁盛――『欠片』が出現した訳だ。


 『デイブレイク』の立場からして『下っ端相手に苦戦し、尚且つ動く気配の無い俺』と『突然今までにない挙動を示したゴブリン達』では当然後者が重要度が高くなる。

 要するに俺程度ならいつでも処理できる為に後回しにされて来たということだ。

 お陰で今日までのうのうと生きてこれたのだが『デイブレイク』がいつまで俺を泳がせてくれるかは分からない以上可及的速やかに逃げるべきだろう。


 ジャックはうーんと言いながら渋面を作ると何やら考えるように顎をしゃくった。


「移動する、って言うのは口にする以上に難しいんだよねぇ。と言うのも他の主要都市も大体ヒュエルツの姉妹都市で内部構造は基本的に変わらないから……」


「……『デイブレイク』を受容している環境も、変わらない?」


 ジャックは控えめに頷いた。

 つまりこれは――『デイブレイク』からは決して逃げられない事を意味している。


「ああ、ただ悪い事だけじゃないよ! 勿論抜け道はあるんだ」


「どう言う事なんだ?」


 ジャックは懐を何やらゴソゴソと漁ると羊皮紙と言えば良いだろうか。マンガでよく見る宝の地図のような筒を取り出してこっちこっちと人の邪魔にならなそうな場所でそれを広げた。


「ジャンジャジャ〜ン、世界地図だよ」


挿絵(By みてみん)


 ……宝の、ではなかったがそのものズバリだった。

 地図の中央には巨大な大陸が、その東……東北部に島国と群島と言うのだろうか、そんな地形があって、その下に中くらいの大陸が描かれている。


「良いかい?この大きな大陸が僕たちの現在地だね。因みに言うと中央部に相当するかな」


「ふむふむ」


「基本的にこの大陸自体が統一された一つの国家と考えても良いよ。それでねぇ……。ここ見てごらんよ」


 ジャックが骨の指を指した先は大陸の臨海部……東北部の島国に近い地域だった。


「臨海都市ミロ=ヒュルツ。ここにはジョウキキカン船がこの都市から提供されててね、ハザミ……ここだね。ここに行く船が出るんだ」


 その後指したのは例の島国だった。

 成る程、脱走するにはもってこいな場所ではある。しかし、大きな問題があった。


「ここからは遠いな……」


 そう、距離。

 テルミドーランからミロまではかなり長い。縮尺は良く分からないが徒歩では凡そ絶望的だろうし、馬車等をつかっても相当な日数がかかる気がする。


「いいや、それは問題ないかな。このテルミドーランからはミロ付近まで一気に進めるジョウキキカンが出てるはずだから問題は無いと思うよ」


「ん? 待てよ。ここから海路で直進出来ないのか?」


 俺が指を指したのはミオとテルミドーランを分ける入り江。

 ここを利用しておけばミオまで相当早そうな気がするのだが――。


「無理だね。ここをショートカットすれば確かに速そうだけどここ、実は港が無いんだ」


 どういう事かと尋ねるとジャックは端的に一言「凶暴な水棲モンスターの生息域」と言った。


 二つの都市を分け隔てるこの入り江は基本的に穏やかな気候をしていて地球だったら自然の良港といって差し支えないのだとか。

 だが、穏やかな入り江に一歩足を踏み入れればそこはまさに地獄の有様。

 凶暴な水棲モンスター達が跋扈する魔境へと変貌するらしい。だから港も当然ながら無いと言うのだ。


「だから僕たちの取れる進路は陸路しか無いんだよ」


「それじゃあ、陸路で行くか。目指せ高跳び一発闘魂だ!」


「おー! かな」


控えめな声量で音頭を取ると俺達は早速行動を開始したのだった。

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