Reslut【1】
一章の振り返りとキャラ紹介しつつ導入するのマジムズイ……。
あと投稿大分遅れたねぇ……すまぬ。
激動の一日が終わり新しい朝(というか時間的には昼)になった。
馴染みの宿屋のベッドで起床して、そのまま伸びをすると小気味良く関節がコキコキと鳴った。それでも尚伸びをしているとゴキッと一際大きな音が鳴り腰辺りに鈍い痛みが生じる。
ベッドの上で暫く身悶えしていると頭の中から高圧的な少年の声が聞こえてきた。
『朝から無様だな清人』
その声の主は『魔王』だった。
そう、『魔王』。間違いはない。
俺の中の姿無き同居人にして俺たちが回収している『欠片』に封印されている人物だ。性格はご覧の通り捻くれ者でツンケンしている。
高圧的な態度とソプラノボイスのせいで一昔前のギャルゲーのヒロインのような印象を受けるのだが悲しいかな男である。
「まぁな、実際昨日は死に掛けたし。いつも無様っちゃあ無様か」
『当然だ。お前は基本的に無様な性質をしている。だが……欠片を回収した事は評価してやろう。よくやった』
訂正、性格はツンデレらしい。
下らない茶番はさて置き、寝ぼけてた脳みそで現状を再確認する。
俺は異界『イデア』への邪神の侵攻を阻むべく、六つに引き裂かれた神々の最終兵器――即ち『魔王』を回収すると言う使命を与えられ、この世界へと転生してきた。
昨日までに集めた欠片は二つ。残るはあと四つだ。
転生してからギリギリ一カ月と経たずに二つ目を回収したのだとすると案外短期決戦になるのかもしれない。
そんな事を考えながらベッドから降りると何かを踏んづけた感触があった。
その正体は紅葉色とも煤竹色ともつかない不思議な色合いのローブだった。
「……今日は下に潜ってるのか」
ベッドの下を覗き込むと見慣れたカボチャ頭が「ハァイ清人」と陽気に挨拶をした。絵面はまんまペニーワイズである。
「どんな寝相だよ……」
「いつもの事かな、気にしない気にしない」
ジャックはそのままのそのそとベッドの下から這い出るとローブの埃を払ってその場で浮遊した。
昨日の戦いで頭の繊維質を飛び散らせながら俺を守った傷はどういう理由かは分からないが既に塞がっている。
「どうしたのかなぁ?まじまじと見つめちゃってさ」
「いや、何でもない。支度したら飯食ってギルドホール行くぞ」
「了解かな!」
こうして遅まきながらも一日が始まる。
♪ ♪ ♪
朝食兼昼飯を食べてからギルドホールに行くと随分と混雑していた。
いつもの人気のないカウンターまで行くとエンゲルさんが一昨日とは打って変わってニコニコと笑っている。
「上機嫌ですね。何かあったんですか?」
「分かるか? 原因は不明なんだがゴブリンの大繁盛が終息したんだよ。お陰で先行きの不安で胃を痛めることもなくなった訳だ」
俺はゴブリンの大繁盛が終息したと聞いて安堵のため息を吐いた。
ゴブリンの大繁盛の根本的な原因は『欠片』を保有したゴブリンであり欠片を回収すれば事態は収まると『魔王』は言っていた。
だが、それで本当に終息するかは実際の所半信半疑ではあったのだ。
それで本日答え合わせが出来て俺としても一安心と言うものだった。
『……疑っていたのか、お前』
『魔王』が恨みがましい視線(そもそも『魔王』にはまだ両腕のみで目がないのだが)を寄越した。
心の中で『魔王』に出来るだけの謝罪をしながらエンゲルさんの話に再び耳を傾ける。
「それにアラクニドの被害者も目撃報告も無くなってな。討伐報告は無いがどうやら場所を移動したらしい」
「そう……ですか」
アラクニド――アニ。
ギルド指定の危険人物にして今回の騒動で欠片を持ったゴブリン、ゴブリンの王を追い詰めてみせた少女だ。
ゴブリンの王を追い詰めた所からもわかるが見た目の可憐さに反してその強さは圧巻で特に格下相手には無類の強さを誇る。事実、多数のゴブリンを相手にしても凡その接近を許さなかった。つまるところめちゃんこ強い。
その上危険人物と言うのだから相当ヤバい人物像を想像するだろうが、それは否。
モンスターに育てられたという特異な経歴を持つが故に疎まれ、異端視されただけで内面は至って普通の女の子だ。言動が不思議で表情に乏しく思考が読み取り難いが、人柄は良好で年相応な天然気質で好感を持てるような人柄をしている。
「……そっか、移動したのか」
「報奨金目当てか? お前さんには荷が重いだろうし今回は素直に諦めとけ」
俺がボソッと呟いたのをエンゲルさんは耳聡く聞いていたのかそんな事を言った。
だが俺は報奨金の事など考えてはいなかった。
俺の失敗でアニに『欠片』が取り込まれて暴走した際に俺は『重荷を背負う』と言った。
離れてしまってそれが果たせなくなるというのは道理に背くような気がして罪悪感が湧いた。
「ところでお前さん……その片目どうしたんだ? 充血して真っ赤だぞ」
充血と聞いても当然思い当たる節が無くて首を傾げたが、エンゲルさんが手鏡を取り出してみせるとそこにはとんでもないものが写っていた。
「赤っ!?」
赤いのだ。
右目は普通の黒い目なのに左目だけアニの瞳の色と同じ赤色をしていた。
所謂オッドアイである。
『昨日言っただろう。『あの娘の処置が無ければ死んでいたぞ』とな。その処置の結果がその目だ』
視界は何一つ変わった様子はない。
いや、だからこそ今の今まで変化に気づかなかった訳なのだが。
『詳しくは後で伝えるが、視覚情報をあの娘に送信する一種の魔眼に近い。お前の目に写るものは漏れなく全てあの娘も見ている、と言う事だ』
「うっはぁ……プライバシーガン無視だな」
『甘えるな。重荷を背負うとはそういう事だ。それとも今更止めるとでも言うつもりか?』
「まさか」
自分のプライバシー程度、投げ捨てる程度、どうということはない。
『ふん、なら良い。存分に励め』
エンゲルさんからゴブリンの討伐報酬を受け取るとギルドホールを後にしようとして――足を止める。
「エンゲルさん……あの人は?」
その人物のいで立ちは冒険者がひしめくギルドホールでは酷く目立っていた。
ハシバミ色の長い髪、高く通った鼻梁。
――むさ苦しい男衆の巣窟には似つかわしくない美女。
「ああ、ここら辺の地域の警備を担当してる姫騎士様だよ。知らなかったか」
ただ、その美貌が問題なのではない。
「『デイ……ブレイク』」
俺を襲撃してきたのと全く同じ黒いローブは……間違いようのない『デイブレイク』のものだった。




