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最終決戦・怪物

おまたせ。

 時は少し遡る。


 勝利を確信したオルクィンジェはしかし行動不能に陥っていた。それもそうだろう。自ら望んで重傷を負ったのだから。

 しかしそれも仕方のない話。『是、暴れ食う叛逆』は全身を消化器官へと変化させる能力ではあるが、それ以上の効果は一切ない。全身が消化器官化することで実質全身武器が実現するが、残念ながらオルクィンジェは元が全身武器のようなもの。そこに大した違いなど存在しない。手傷を負わせる事に関してこの権能は何ら意味がないと言っても良い。

 だから、リスクを取ってでも手傷以上の結果を手にする必要があった。その結果がこれだ。

 腹で受けたのは結局面積が一番取れるからという理由。


「……初戦から、相当リソースを持って行かれたな」


 一対一、それも技量力量が完全に同一な相手との死闘はオルクィンジェの気力を大幅に削り取っていた。

 だから、オルクィンジェは唐突に臓物を食い破られた。


「ガァッ!?」


 有り得ない痛みに顔を顰める。勿論痛みの出どころは刺し入れられた腕から。

 しかしそこは天使。眼前の女が何かをしたのだとアタリを付けると一層の力を込めて剣を押し込む。

 剣の位置は首半ば。死んでも良い位置。だと言うのに死なない。首は落ちない。


「まさか……食っているというのか! この俺を……ッ!!」


 テテの能力。それは完全模倣。今のテテは身体的特徴すら任意で模倣が出来る。それ故に……『是、暴れ食う叛逆』は模倣され、オルクィンジェに牙を剥く結果に至ったのだ。

 首を切り落とすが先か、食い潰されるが先か。

 剣は半ば、消化のスタートはオルクィンジェが先。臓物を食い漁られながらもオルクィンジェの優位は揺るがない……筈だった。


「何故、俺が……負けている!?」


 テテがただ模倣するに留まってさえいれば。

 テテの刺し入れた腕は面積こそ少ないもののオルクィンジェの消化能力を上回ったのだ。


 テテはオルクィンジェを喰らい自身の持つ力、模倣を昇華していた。

 それは子供の最強理論にも似ている。


『じゃあ、これはそれよりももっとずっと強くて凄いヤツ』


 そんな後出しの、完全上位互換。

 テテはオルクィンジェの血肉でその領域にまで到達していた。

 斯くして首は落ちず、オルクィンジェは捕食されるに至る。



♪ ♪ ♪



「魔装」


 今切れる中でも特に強力な札を切る。魔獣化のシステムを紐解き、その性質を反転させる事なく形を与え見に纏う魔法の一種。それがこの魔装。

 獣の四肢を象った鎧は魔法であるが故に重さは無く、一層の加速と力を術者に与える人ならば誰しもが到達し得るちょっとした手品だ。


「はぁっ!」


 疾駆。

 先程までとは違う風を切る音を聞きながら歪な翼に狙いを定める。

 短い期間ではあるがオルクィンジェとの模擬戦を繰り返したからこの高さというアドバンテージが如何にヤバいかは身をもって体感している。早いところこれを潰さなければ勝利はまずないと思って良い。


「……」


 肉薄までの一刹那、そこで感じる違和感。

 確かに今の俺は速い。単純な速度で言えばオルクィンジェに次ぐものの他の前衛と比べれば圧倒的な脚を持っている。

 けど、逆に言えばオルクィンジェには負けるのだ。


 だからこそ、全力とは言えオルクィンジェを取り込んだテテが俺如きの攻撃に反応出来ない筈がない。なのに現実は反応なし。


 いや……これは寧ろ反応する価値すら無い、という事か?

 そんな思考と一緒にを振り切って、杖の先が翼に届こうかというタイミングで、怪物は羽ばたいた。

 押し出された風はまるで津波のように俺の身体を遥か後方へと押し流す。


「青年!」


「問題無い!」


 咄嗟にそう返す。

 すると今度は入れ替わる形でエクエスが前に出た。エクエスの手にするのは俺と同じに杖。それでもって怪物に迫り、一振り。

 そもそも当たらないのではないかという予想に反してその一撃は硬質な音を立てて左腕の一本を強かに打ち付ける。


「……おかしい」


 明らかにおかしい。

 オルクィンジェなら避けれた。いや、それどころか反撃のオマケすら付けられた。にも関わらずそれが無い。これは明らかな異常だ。

 いや、追求はやめておこう。今はダメージを蓄積させる事が優先だ。

 杖を再び構えるとありったけの力で地面を蹴り飛ばす。助走から繰り出されるのは突き。通常攻撃の中でも最速にして最高威力の一撃にして唯一オルクィンジェに回避を強いた攻撃でもある。

 最高速で異形に肉薄すると、ガンと硬質な感触が手に伝わる。


「当たった……?」


 皮膚が異様に硬い。けれど全力の一撃は当然のように当たったし、当たった部分は微かに傷付いた。反撃のつもりか雑な狙いでもって放たれた腕を回避しながら後退する。


「もしかして、体術が使えないのか?」


 オルクィンジェは自分の体術を動作の極致と呼んだ。曰く、人体構造の完全な理解から来る最適化された動作なのだそうだが怪物となって人体からかけ離れた肉体になったせいでそれが上手く機能していないのではないだろうか。

 だとすれば、十分に勝算はある。


「たぁっ!!」


 硬さと機動力と一撃の重さ。それだけが強い敵と見做せば攻略は然程難しい事は無い。

 硬さに関しては対処の術はないが、機動力でトントン、一撃は喰らえば死に掛けるだろうが回復も効くしそもそも絶対に避けれないものでもない。


 再び攻撃を仕掛けようとして、


「ッ、青年! 逃げろ!」


 とても、嫌なものが見えた。

 それは黒いモヤを身体に纏う怪物の姿だった。


「……は」


 間違いなく、それは魔装のなり損ないだった。能力の模倣。テテが元であればあって然るべき能力。それを俺は見逃していた。

 ああ、全くこれにどう勝てと? 反則ではないか、こんなの。

 反射的に横に飛んで回避を試みたが魔装状態の怪物の動きは余りにも機敏で掠めた右腕が嫌な音を立てた。


「……ッ!!」


 痛みの代わりに感じるのは焦燥感。そして二人掛かりで尚倒せない現状に対する絶望感。

 これは勝てない。

 素のスペックで大幅に上回っているのに加えて何かしようとすればパクられる。自分が加算した分だけ相手も加算されて差が一生埋まらない。

 ネガティブな感情に反応して魔装がブレる。


「……こりゃあ、流石に切らざるを得ないか。おい青年! 強化無しの状態のコイツ……テテとタイマンしたら勝つ自信はあるよな?」


「強化なし、なら」


「うっしゃ、そりゃあ重畳。ここいらで『怠惰』納めと行こうかね」


 エクエスが前に進み出る。


「さて、それじゃあ……『怠惰スロウス』発動」

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