最終決戦・『怠惰』と『団長』
さて、結果発表だ。
誰が勝ち上がって来たのかな?
三階層に勝ち上がって来たのは……人の体を成していない、怪物だった。
♪ ♪ ♪
ソイツが乱入して来たのはエクエスの指導を受けつつも、好きあらば首を狙おうという場面の最中だった。
「おいおい、ありゃあ青年の友達かい? 随分と趣味の悪い格好してるな」
下の階層と三階層を繋ぐドアがいきなり開かれ、ソイツは現れる。
ドロドロに溶けた黒い翼、普通の人間ではあり得ない4本の腕に、四本の足。包帯に包まれたそれらはキメラを連想させる。
そして……胸部には目の下に聖痕を刻んだ天使の顔。
「ぁばぁ……」
オルクィンジェが、半ば融合する形で捉えられていた。いや、捉えられていた、なんて生易しいものではない。捕食されて、体の一部になっている。
ピシリと亀裂が入る音がした。それはきっと心が壊れる音。悲しみと怒りと狂気が心を塗り替える音。
嘘だと思いたかった。
そう思えたら楽だった。
ああ、もう。
本当にどうして、こうなっちゃうのかなぁ……。
身体をエクエスから反転、異形の方に向けて杖を構える。
仲間と何の不安も無く、焦燥にも駆られる事なく、ただ普通に生きる日常を夢見た。その結果がこれだというのか。俺の願いはそんなにも罪深いのか。
「ごめんな、オルクィンジェ」
コレはもうオルクィンジェじゃない。
「……死ね」
ただの化け物だ。
ピシリ、ピシリと亀裂が入る。
それは骨の砕ける音。俺の骨が砕かれた音。
「ーーは」
肺から空気が逆流し、漸く何かされたのだと理解する。だが、一体何をされたのかが分からない。
「青年!! ソイツ多分テテだ!! どうしてこんな姿になったのかは分からないが青年の仲間の動きを完全模倣してる!」
完全模倣? いいや違う。これはそれすら容易く上回る何かだ。目で追う事すら許してくれなかった。オルクィンジェの動きを誰よりも一番知っている筈の俺が。
敵は二人、片方はオルクィンジェを超える化け物。対して俺は一人。この状況を捲る手段なんて見つからない。
……見つかる訳がないのだ。だって、俺は二人より弱いのだから。
「なぁ、俺ってそんな悪い事したか? 俺ってこんな目に遭う必要あったか? 何でこんな痛い思いしてんだ? 何で仲間が二人も死んだんだ? 身の丈に合わない願いって抱いちゃいけないのか? なぁ、頼むよ……もうちょっと容赦してくんねぇかな。……凡人には、キツ過ぎんよ」
思えば、何から何までハードモードだった。
生まれたと思ったら清人は滅茶苦茶病んでるし、幼馴染はレイプされた挙句自殺してるし、かと思えば学校では虐め横行してるし。
どうにか清人を立ち直らせたら今度は清人が俺を取り戻す為にクロと自分を犠牲にして俺を呼び戻すし。
高校と大学でやっとフツウに戻ったと思ったらいきなり殺されて転生させられて、『欠片』集めろって言われて。
で? 何回も死に掛けるわ、唯が敵として現れるわ、清人も敵になった挙げ句死ぬわ、本当に散々だ。その上追い討ちをかける様にジャックが死んで、オルクィンジェが敵になって?
冗談じゃない。
「こんなの、絶望――」
『それは……言い訳。……諦めないで。……悲しまないで。……無理、しないで』
『ココロは、肉体を越える……よ?』
「……本当、無茶言ってくれるよ」
けれど、そんな状況下でも彼女の声はハッキリと頭を過っていた。
敵はオルクィンジェを超える化け物、基礎スペックがクソ程高くて、マインドシャッフルみたいな絡め手が通用しそうにない。通用したとしても基礎スペックがオルクィンジェを超える以上勝ちには多分繋がらない。
なら、俺がやるべきことは何だ。やれる事は何だ。
「エクエス、ここは共闘だ」
「その心は?」
「単純にアレを相手したら全滅する。見た感じ理性も壊れてそうだし、お前もヤバいんじゃないか?」
「共闘も何も青年が既に死に体だろ。ただでさえ生き残るのも難しいのに青年のお守りもしろってのはキツい通り越して無理だわ」
「ああ、そうだったな」
『心は燃え盛らず、けれど未だ途絶える事無し』。
身体が燃える。痛覚がイカれているのか最早痛みも何も感じない。いや、身体よりも、多分致命的にイカれてしまったのは寧ろ心の方か。
心も身体も酷く鈍い。まるで自分の身体では無いみたいだ。
「これで、死に体はお終いだ」
けど、好都合。お生憎様俺は臆病な人間だ。痛みを感じないとて危機は危機と認識出来る。なら、痛みを感じないのはプラスでしかない。
燃えながら修復される身体を見てエクエスは面食らう。しかし俺が完治したと悟ると、
「なら、承った。おっちゃんの実力、しかとその目に焼きつけときな」
そう言ってニヒルに笑った。
そしてここに、『怠惰』と『団長』の共同戦線が誕生した。
現在の状況
【第一階層】
唯VSクロエ
【第二階層】
オルクィンジェ(LOSE)VSテテ(WIN)
【第三階層】
杉原叶人&エクエスVSテテ&オルクィンジェ(肉体)
【第五階層】
杉原アニ&一凩&一篝VSシュヴェルチェ
【第六階層】
VSニャルラトホテプ
幻想旅団側の戦績
ジャックVSニャルラトホテプ
ジャックが中指一本分勝利するもジャック死亡。
オルクィンジェVSテテ
オルクィンジェの敗北。現在は接収されており死亡が確定。
幻想旅団の残り生存者、五名




