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最終決戦・是、暴れ食う叛逆

オルクィンジェVSテテ

 オルクィンジェは背中に生える二つの羽根で空を自在に駆け巡っていた。

 全く同じ技量、同じ力量を発揮する『傲慢』の能力に対してオルクィンジェが思い付いたカウンター。それは模倣出来ない肉体の部位でアドバンテージを得る事だった。

 考えればこれは単純な話で、『傲慢』の能力はジャックの蔓など元々肉体に備わっていない部位は模倣出来ないという欠陥が存在する。つまり羽根を模倣するならばテテも同じ羽根を持たなければならない。

 しかし羽根をこの場で取り付ける事は不可能である以上テテは同じ力量と技量でこそあるもののオルクィンジェの高さというアドバンテージを覆す事が出来ない。


「猪口才、なっ……!!」


「いつかとは立場が真逆だな。……このまま押し切らせて貰う!」


 そしてオルクィンジェは高さというアドバンテージを持つ事による最大のメリットをここで活用する。即ち、


「はぁぁぁぁぁッ!!」


 自由落下。

 世界の重力を味方に付けた一撃はオルクィンジェが本来備える膂力と合わさり必殺の威力を孕む。それは正しく力こそパワーを体現した一撃。

 同じ技量と力量だからこそ重力を味方に付けた一撃はそのまま力の差として顕著に現れる。

 テテは剣でガードを試みるが、圧倒的な力に押されて踏ん張る足が地面を砕いている。『傲慢』の能力が無ければ既に足は砕け、防御も突破されて絶命していた事が容易に想像出来る。

 と、そこでテテは自ら弾かれると身を翻して壁面へとひた走る。勢いと尋常ならざる脚力に任せて壁を垂直に走ると意趣返しとばかりにテテも上からの攻撃を狙った。


「だが、甘い!!」


 しかしそれを黙って受けるオルクィンジェでは無い。体制がやや悪い状況ではあるが羽根がある分機動力はオルクィンジェに軍配が上がる。すぐさま羽根をはためかせると、オルクィンジェも空中へと戦場を移す。

 自由落下しか出来ないテテ。自由自在のオルクィンジェ。同じ空中とは言えその差は圧倒的だった。


「重力の重み、身をもって知るが良い!」


 オルクィンジェはテテの更に上を取るとテテを地面に叩きつけるように剣を、


「つ、か、ま、え、た、ぁ!!」


 振るう寸前。出血も厭わずにテテがオルクィンジェの剣を掴んだ。本来であれば掴んだ指が切断される筈だったのだが、オルクィンジェの頑強さがそれを食い止めてしまっていた。

 嫌な予感がしてオルクィンジェは剣から手を離すが時既に遅く、驚異的な身体能力でテテはオルクィンジェの背中に飛び付くと、


「ぐぁっ……!?」


 羽根を食いちぎった。思いもしない行動にオルクィンジェはたじろぎ、オルクィンジェはテテごと地面に墜落する。


「片翼の天使、とは笑えないな、クソッ」


 即座に傷を癒そうとして視界に嫌なものが映り込む。それは包帯に包まれたテテの背中から悍ましい色をした泥が流れ出ている光景だった。


「まさか……!!」


 そして泥は……ドロドロの翼へと変貌する。


「身体的特徴すらも模倣すると言うのかッ!!」


 ガラガラと音を立ててオルクィンジェの優位が崩れ去る。それと同時に恐ろしい考えが思い浮かぶ。

 もし、仮にオルクィンジェが敗北した場合、テテは一層強化された状態で次に進む。それはつまり素のスペックがオルクィンジェと同等……いや、それを更に上回る化け物が捲って来るという事。ただでさえ難敵だらけのこの状況下でそれが起きたら悪夢としか言いようがない。


「絶対に負けられん……ッ!!」


 オルクィンジェは強く決意し、それと同時に状況に応じて切り札を切る覚悟を決める。


「あハッ?」


 理性の擦り切れた嘲笑が合図だった。翼を展開したテテは上からオルクィンジェを襲撃する。それに対してオルクィンジェは身体を捻って回避――


「チィッ、連続攻撃か!!」


 間を開けず放たれるのは痛烈な蹴り。剣の腹でこれを受けるが予想以上の威力に思わずたたらを踏む。

 その威力に長期戦に持ち込まれたら負けると悟るとオルクィンジェは意識を完全に切り替える。


 切り札を使用した、パワープレイに。


 次いで迫る攻撃を――オルクィンジェは避けない。いや、寧ろ攻撃に自ら飛び込んだ、というのが正しいか。


「?」


 剣が身体を貫通し、腕も体内に半ばまで埋まっている。そんな状況下で、


「……はっ!」


 オルクィンジェは凄惨な笑みを浮かべていた。


「分からないか? 分からないだろうな。真似をするだけの能無しには俺の真意は分かるまい!!」


 関係無いとばかりにテテは腕を引き抜こうとして、抜けない。

 オルクィンジェがその隙に斬撃を放つ。片腕を腹部に埋め込まれながらの一撃はしかし恐ろしい程正確に首に吸い込まれる。オルクィンジェ由来の頑強さによって今はたらりと血が流れる程度で止まっているがそう遠く無い未来にその首は切断されるだろう。

 テテは剣を退けようとして……埋まった腕に違和感を覚える。


「漸く自覚したか……お前の身体が消化されている事に」


 刺し込んだ腕が溶かされていた。シュウシュウと煙を上げながらジワリジワリと。


「俺を食らった馬鹿者の情報から擬似的に再現した……自分の内部を消化器官に変える権能、『是、暴れ食う叛逆(グラトニー)』だ」


 それはランクダウンした『暴食』の権能にしてオルクィンジェの切り札。

 身体の欠損前提の、不可避消化能力。

 『暴食』は触れたもの全てを消化の対象にするが、これはあくまでも体内に入って来た物を消化する能力でしか無く、効果範囲では大幅に『暴食』のそれに劣る。

 しかし体内に入って来た対象に関しては話が変わる。オルクィンジェは対象を狭める代償に完全体となった自身の身体すら溶かす事が出来る最強の消化機関を作り上げたのだ。

 つまり、体内に入って来さえすれば大概のものは溶かせるという事である。


「溶け落ちて死ね、我が怨敵の一人」


 天使の死刑宣告が部屋に響いた。

オルクィンジェ:腹部欠損。翼欠損。

『是、暴れ食う叛逆』:杉原清人から受け取った『暴食』の権能から再現した擬似権能。体内を強力な消化器官に変える能力。吸収や回復能力はないものの消化一点に絞られたためその能力は自身と同程度の強靭さを持つ肉体であっても消化可能。ただし、常時発動ではなく任意での発動である他、権能の使用には莫大なリソースを割く必要がある。


テテ:???

『傲慢』:相手と同じ技量、同じ力量になる能力。叶人とオルクィンジェのマインドシャッフルに負けてからニャルラトホテプに自ら肉体改造を志願。包帯だらけの身体からも分かる通りグラトニーと似たような性質を付与される。作中ではオルクィンジェの羽根を食いちぎる事により擬似的な翼を獲得しており『身体的特徴』の模倣すら可能となった。


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