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最終決戦・怠惰教導

 『怠惰』のエクエスことエクエス・フォン・ゼッケンドルフは騎士を育成する教官だった。

 幾度となく若き騎士たちを教導し、戦場へと立派に送り出してきた経歴を持っており、そこだけを切り取って見るなら『六陽』に籍を置いているのが不思議な人物である。

 ……そこだけを切り取るのであれば。


 エクエスという男は優秀極まりないが、その代償としてか刻苦を厭う性質があった。何かと理由をつけて教官の立場に立ったのはこれが理由だ。即ち、『自分でやりたくないから他人にやらせたい』。

 勿論、人を教え導くのは並大抵のことでは無い。寧ろ労力の釣り合いを考えるのであれば自分でやる方がまだ少ない労力で済む。エクエスの考えは目的と手段が根底から逆転している。


 だが、エクエスはその逆転を己の才覚で無理矢理捻じ伏せていた。

 剣術、体術に始まりサバイバル術や乱戦の心得、人身掌握術に詐術に弁論術。それらは全て最初から備わっていたし、教官としての才覚も当然のように備えていた。それに加えて家柄の面でも恵まれているのだから鬼に金棒と言うべきか。故にエクエスは労力もそこそこに省エネな人生を送る事に成功していた。


 それが変わったのがほんの数年前の話。エクエスはいつも通り随所で手を抜きつつ慣例である実地での演習を行っていた。

 この演習は対人では無く対モンスターや対魔獣を想定して、騎士学校付近の森でのモンスター狩りを行うと言うものだ。

 騎士たちにとっては死ぬ可能性のある緊迫感に溢れた演習、なのだがエクエスにとっては毎年のように行われる行事の一つに過ぎない。

 だからこそ、その認識の相違が大惨事を引き起こす。


 弱いモンスターしか居ない筈の森、しかしそこには平時では考えられないようなモンスターが跋扈していたのだ。エクエスは即座に思考を撤退へと切り替えると若年の騎士見習い達に指令を飛ばす。しかし、若年の騎士は動かない。否、動けない。

 命懸けの演習、格上の敵。討ち果たすイメージはまるで浮かばず、寧ろ逃げようとしたら即座に背後を狙われるという強迫観念じみた理解が騎士たちの頭を支配していたのである。

 エクエスは己の才覚でそれを察すると……何も出来なかった。

 己の力量で捌けるモンスターの数には限度がある。だが、眼前のそれはエクエスのキャパシティを明らかに凌駕している。省エネを心掛ける男だからこそ、その事にすぐ様思い至ってしまう。

 信条に基づくのならば、付近の数人を連れて逃げるのが最良。そうすればやむを得ない事情があったのだと説明も付く。他の教官連中であれば全滅も有り得る状況だ。お咎めはあってもそう多くの責は問われまい。


 だが、そうやって信条を理由に眼前の犠牲を許容出来るほどエクエスという男は冷徹では無かった。確かに男の望みは怠惰である。手を抜き、決して全力を出さないもののそこには確かに教官という職への誇りと、若年の騎士たちに対する愛着はあったのだ。


 だからエクエスは己の信条を捨てる事にした。しかしその決断は……余りに遅かった。ただでさえ一呼吸遅れた対応。それに加えて一刹那の逡巡。それだけあれば異形共が恐慌状態の若人の未来を摘み取る事は容易だった。

 エクエスの考える間に命が消える。

 優先順位を付ける前に命が消える。

 行動を起こしても命が絶える。


 もっと教えていれば、或いは生き残れたかも知れない。そんな後悔だけが胸に募る。


「えぇ、これは全て貴方の怠惰が招いた結末です♪」


 その声は果たして幻聴だったのか。

 ただ一つ確かな事は、この失敗はエクエスの胸に深く刻まれたという事だ。


 故にエクエスは決意する。こと教導に関しては一切の手抜きも容赦もしないと。



♪ ♪ ♪



「おっちゃんの大罪系統セブンス・シリーズスキルは、おっちゃんの戦闘経験をコピーして、そのコピーしたモンを他人に譲渡する能力だ」


 初手から戦わないと口にしたエクエスは聞いてもいないのに自分の能力の詳細を話し始めた。

 だが、俺としてはそんな事は心底どうでも良い。ただ勝ち進む。今はそれ以外に考える必要は無い。自己申告の能力なんて信用するに値しない。罠かブラフの可能性も考えるとエクエスの言をガン無視して真の能力に警戒しつつの速攻。それこそがこの場に於ける最適解だ。

 例え敵意があろうがなかろうがどちらにせよ勝ち進まなければならないのだ。


「さて、教導をって思ったんだが……あっちゃあ、やっぱ相当応えてるっぽいな」


 無視して杖を振るう。感情を殺せ。理性を保て。思考を絶えず回し続けろ。足を絶えず動かせ。


「心を殺して目的に心血を注ぐ。ウン、間違っちゃいない。けど、それは悪手だ」


 不意に視界が霞んで、体が地面に打ち付けられる。なんて事は無い、掴んで投げられたのだ。だが、幸いな事に重傷はない。直ぐに体制を立て直して、反撃を。


「不相応な重責に、仲間の死。凡人にゃあどれもキツ過ぎるモンだ。それを背負っちまったのは不運といか言いようが無い。死にが出たからこそ先に進まなけりゃなんないってのも理解出来る。が、後々の勝率を上げてやるってんだ。ちょいと位大人の言う事に耳傾けろや」


 ゴチンと脳天に拳が落ちる。だが不思議とそこまでの痛みを感じなかった。ただの、ゲンコツだ。


「……敵じゃないのかよ」


「おっちゃん個人としては敵のつもりは無いな。まぁ、倒さなきゃ先に進めない仕様上必然的に敵にはなるが、未来ある若人、それも身の丈以上の大望を抱きながらもがき苦しむような奴の芽を嬉々として刈り取るような外道じゃねぇつもりだ」


 息を吐く。一旦整理だ。

 ……駄目だ、ジャックの一件を結構引き摺ってる。あの馬鹿、勝つにしろやり方が他にあっただろう。馬鹿。……死んでちゃ意味ないだろうが。


「何となく、フワッとだけど言いたい事は理解出来た。それで、戦わないならどうするんだ? まさかずっとここで待機してろって言う訳じゃ無いよな」


「おっ、調子が戻って来たらしいな。つってもおっちゃんのやる事なんて教導。そんだけだ。お前さんにゃあおっちゃんの知識と経験をその身体に叩き込んでやる。現状、お前さんが総長に勝てる確率はゼロだ。仲間込みでと数パーセントあるかってところが精々。だから、一人でもゼロの彼方にほんの少しの一を添えてやろうってんだ」


「何でそんな事を?」


「決まってんだろ」



「俺が『怠惰』だからだよ」

ゲーム的にこのイベントの解説


このイベントの発生条件

・仲間とのコミュが一定値以下

・プレイヤーのレベルが一定以下

・仲間が一人でも死亡


この内一つでも該当するとエクエスとの戦闘は発生せず、代わりにン熱血指導ゥが始まります。


尚、この内一つでも引っかかるとニャル戦が……?

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