表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
242/257

最終決戦・イントロ

 各々が戦場に転移させられる。

 明日中指一本分の小さな勝ち星を挙げた彼らはしかし俯かない。何故なら俯いたところでジャックが死んだと言う事実は変わらないし、俯いては敵が見れない。


 それは誰よりも間近でジャックの死を見届けた叶人も例外ではない。

 叶人は杖を片手に自分の敵を真っ直ぐに見据えていた。



♪ ♪ ♪



【第一階層】


 敵も味方も、誰も介入しない事が確定しているこの階層。そこに立つのは『六陽』を抜け、『幻想旅団』へと鞍替えを果たした少女、高嶋唯。そしてそれに相対するのは『六陽』の真の最弱にして生存力最強の少年『色欲』のクロエ。


「にしても因果なもんだにゃあ、こんなおあつらえ向きの戦場で、怨敵を一方的に嬲るチャンスが訪れるなんて。それだけで無理矢理『六陽』にさせられたマイナス分を帳消しに出来る……にゃ」


「あら怖い。にしても女性の扱いがまるで全然なってないわね。嫌われるわよ?」


「ほざけ!」


 クロエの煽りを唯は柳のように受け流す。クロエが一方的に突っかかっている構図だ。そもそも同じ土俵に立っていない。

 しかしクロエの怒りは尤もな話である。何故ならクロエの前世たる黒猫のクロの直接の死因は清人による暴行である。しかしそこに至るまでの経緯として唯の占める割合はかなり大きい。それがこの返しをしたのだからクロエの怒りも当然と言える。

 対して唯の方はと言えばどこまでも真剣な風だった。いつもの挑発的な態度はなりを潜めている。怒るクロエも普段とは違う雰囲気を感じ取ったのか怒りの言葉を飲み込み、代わりに問いを投げかける。


「唯、お前……また何かロクでもないこと企んでるな?」


「企んでるとは心外ね。まぁ、あながち外れてはいないけれども。……そうね。まどろっこしいのは嫌いだから端的に言うけれどもこの第一層の戦いに関しては表面上貴方の完全勝利って事にするのはどうかしら?」


「は?」


 唯は誰の意思も介入しない場所で、自身が敗北するプランを提示していた。



♪ ♪ ♪



【第二階層】


 第二階層は第一階層とは違い、言葉を交わすまでも無く即座に戦闘に突入していた。

 その理由は大まかに二つある。

 一つは戦術的観点から。今回の戦闘は勝ち抜き戦。勝利した方が先へ進み、進んだ先で戦闘が行われていた場合それに介入する事が出来る。それ故にニャルラトホテプ直前の第五階層を除き即時戦闘、即時決着、即時進軍が定石となる。そしてこの階層を選んだオルクィンジェは例に漏れず即時決着での『捲り』を狙っていた。

 次の階層では叶人とエクエスの一騎打ちとなる。叶人の耐久性はオルクィンジェをしても目を見張るものがあるが、それにしても決め手に欠けるという弱点がある。だが、それを補う形でオルクィンジェが介入出来れば二人揃って進出、五階層で実質の五対一に持っていける。


 そして理由の二つ目だがこれは単純にーーお互いがお互いの事が大嫌いだから、である。


 片や邪神以外で初の黒星を付けられた少年。片や圧勝ムードからの手痛い反撃を喰らって敗北した女。これが出会ったならば戦わないではいられない。それは最早宿命と言い換えても良い。

 同じ種類の得物、全く同じ技術。同じ間合い、されど異なる思考。

 繰り広げられるのは力での戦いでは無く思考の読み合い即ち頭脳戦。


「相変わらず頭のおかしいスペック。これに関してだけは賞賛に値します。しかし単身の貴方では私に勝てない」


「単身? 単身と言ったか。だとしたら想定が甘いぞ傲慢女。俺を誰だと思っている」


 前回の様なマインドシャッフルは不可能な状況下でもオルクィンジェの平静は崩れない。


「俺はオルクィンジェ、『幻想旅団』の団員が一人! ……早々に退け、傲慢!!」



♪ ♪ ♪



【第三階層】


「……それは、どういう意味だ?」


「だから言ったまんまの意味だって。おっちゃんに戦うつもりは無い」


 転移が終わった瞬間、すぐさま俺はエクエスに向かって肉薄した。俺のステータスの中でも特に抜きん出た敏捷性は全力であれば視界に捉えるのも困難なくらいの暴力的な加速を生み出すに至った。

 そして肉薄。からの、杖による突きの一撃。

 ほぼゼロ距離から放たれる突きは加速も相まって敵を気絶させる程度の威力は十分に確保されている。

 万が一避けられたとしても俺の体を起点に全方位に向けて炎の魔法を使えば確実に一発は有効打になる。


 しかし、


「ういしょっと、全く老体にはキツいな本当に」


 予想に反して俺の突きは掴まれてしまった。流石に片手では無いが加速で威力の高まった一発目を止められ思考に一刹那の空白が生まれ――


「おっちゃん、戦うつもり無いから」


 二つ目のプランに入る前にそんな事を言われながら、やんわりと投げられた。

 そして冒頭に話は戻る。


「戦うつもりが無いならさっさと負けてくれ」


 これは偽らざる本音。俺たちには余裕と呼べる余裕が無い。常に細い綱の上を走る事を強いられているような有り様だ。

 戦わない? ああ、それは大いに結構。後々の勝率も上がるし、これほど嬉しい事はない。


「言われなくとも然るべきタイミングで負けるとも。……ただ、あくまでも戦うつもりがないだけだ」


 来るか。そう思って身構える。

 しかしエクエスの放った言葉はまたしても俺の予想とは違うものだった。


「ま、おっちゃんは『怠惰』だからな。『怠惰』らしく――青年を一端の強者に鍛え上げてやるよ」


 ……意味が分からない。



♪ ♪ ♪



【第五階層】


 第五の階層。ラスボス一方手前の部屋にして唯一の三対一がすでに繰り広げられていた。


「そらそらどうした! 三人いてもその程度かぁ!!」


 己の肉体のみを武器とするのは『強欲』の『六陽』シュヴェルチェ。グラトニーの権能を潜り抜け、意識の外からグラトニーの心臓を抉り抜いた人物だ。


「流石に強いの」


 凩は浅い息を吐く。

 第五階層は『幻想旅団』からすれば唯一の遅延戦闘が推奨される階層である。

 と言うのもラスボス戦手前であり、一番援軍の可能性が高いからだ。初戦の唯に関しては権能次第な面はあるが、後のオルクィンジェと叶人ならば捲って上がってくる可能性は大いにある。

 となると三人に求められるのは多くのリソースを注ぎ込んだ速攻ではなく後を信頼してリソースを可能な限り温存しつつ数の利を活かしての遅延戦闘。故に『幻想旅団』側は自身から攻撃をせずに回避に専念している。その為現時点でお互いにダメージはゼロ。スタミナの差で『幻想旅団』側がやや優位に立っている。


「はぁ、白けるやり方だ。折角の戦いだってのに。根性ねぇなぁオイ」


 しかしそれを理解して何もして来ない訳もなく。


「仕方がねぇ、開幕の号砲は俺が鳴らしてやらぁ!」


 シュヴェルチェの身体から夥しいまでの魔素が放出された。

現在の生存者:叶人、オルクィンジェ、唯、アニ、凩、篝

現在の死者:ジャック



初手から敗北宣言したり戦わない宣言したり何なんだコイツら……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ