Continue 【7】
次回より落陽決戦編突入!
斯くして、心持ち晴れやかな表情で叶人達と合流した三人だったのだが合流早々にとんでもない光景を目にすることとなった。
「……ワンコが巨大な蜘蛛背負っとる」
身の丈程の大きさのある犬が、ほぼ同等のスケールの蜘蛛を背負いながらあちこちを歩き回っていたのだ。
それを見た三人は新手のモンスターや魔獣の類かと一瞬警戒する。しかし呑気にルンルンとお散歩を決め込む様はお世辞にも驚異とは思えず、加えてオルクィンジェも複雑そうな面持ちで一頭と一匹を見守るばかりで特に何かしようとする様子が無い為に警戒を解いた。
「漸く戻ったか。また随分と時間が掛かったようだな」
奇妙なドッグランを眺めているとオルクィンジェがゆっくりと口を開いた。
少し皮肉っぽい口調ではあるが、奇妙なドッグランを見続けていたせいか完全に毒気が抜けている。
「すまない。以降は気を付けよう。それで、団長とアニはどうしてああなってしまったのかについて聞いても良いだろうか」
「あれ叶人と蜘蛛子だったん!?」
改めて蜘蛛と犬を見てみる。暫定蜘蛛子は蜘蛛だから言わずもがな。暫定叶人に関してはよくよく見てみれば魔獣化した際の大犬の姿に似ている様に見える。成る程、言われてみれば確かにと思わないではない。
「……あいつらがああなったのは魔素の仕様の検証によるものだ。魔素の本質は願いの顕在化。だがそれがどこまで適応出来るかについてはまだまだ不明だ。もし仮に顕在化の範囲が広いのであれば戦闘時に切れる手札は自ずと増える。つまり身体能力に依存する戦闘を展開する必要性が減る訳だ」
「成る程。そして顕在化を使った結果身体を別の何かに変更する事が出来る様になった、と言う事か」
「曰く、そう簡単な話では無いらしいがな」
オルクィンジェはそう言うとピュウと指笛を吹いた。すると件の犬が尻尾をブンブン振りながらオルクィンジェの足元まで寄ってきた。
人懐っこそうな表情で擦り寄る犬に対し……魔王はそれを全力を以って蹴り飛ばした。
するとカエルが轢き潰れた際に出す様なグェェという非常に汚い声と共に犬と蜘蛛が諸共彼方へと吹き飛ぶ。
「あんさん!?」
「案ずるな。加減はしてある。見ろ、現に立ち上がっているだろう」
目を凝らしてみれば砂埃が舞う中確かに二人の人影が立ち上がっているのが見える。
「ってて……アニ、大丈夫だったか?」
「ん、へーき。全く問題ない」
「それなら良かった。……にしても魔素を使った変身も不可能じゃ無いけどこの分だと変身先に意識が引っ張られて戦闘は出来なさそうだな」
「ん、使えそうだけど、正直びみょー」
人間の形に戻った二人はそんな事を言い合っていると視線に気付いたのか唐突に凩達の方に視線を向けた。
「戻って来てくれたんだな」
♪ ♪ ♪
特訓は最大のソリューションである。古事記にもそう記されてある。
と、冗談はさておくとして特訓である。
現状そんな事をする雰囲気でない事は百も承知だがこれをしない選択肢は俺には見当たらなかった。
「確かに特訓は良いけど……時と場合とかさぁ」
「いや、ジャックの言わんとする事は分かる。けど、俺とかオルクィンジェが出たら話が拗れる可能性もあるし、何より篝は必ず連れ戻すと言った。ならそれは確定事項だ」
「でもさぁ……」と尚も食い下がるジャックに対し「それに」と言葉を重ねる。
「凩の一連の行動の根底は強くなりたいという意思と焦燥感にある。タイムリミットがある都合上後者はどうにもならないかもだけど、強くなるって方には多少なりとも貢献出来る筈だ。例えば、身体的な強化じゃなくて魔素の特性を使って強くなるプランを立てるとかな。だから、その為に特訓するんだ」
「それ、特訓と言うよりも研究の方がニュアンスが近い様な気がするけども……まぁ、それなら納得かな。それで、具体的には何をするのかな?」
「魔素が顕在化出来るギリギリを探す。これでもし巨大ロボなんかを建造出来たりなんかしたらとんでもないからな」
「いきなり凄いところをぶち込んで来たねぇ!?」
やんややんや。
何やかんやありつつ特訓もとい研究を進めて行くと朧げながらも魔素の性質が見えて来た。
先ず第一に少なくとも俺は魔素でロボを作れない。当たり前と思うかもしれないがこれは結構重要な気付きだった。
少し本旨からは外れるがこの世界には魔法というものが存在する。
魔法、それは即ち魔素を用いた現実改変の奇蹟。火をバンバン打ち出せたりする世界なのだしロボの一体や二体出せても良いと思うのだがところがぎっちょんそれは問屋が卸さない。魔法には適性が存在するのだ。
今となっては懐かしい話だが、俺はエリオットに六属性の内の炎が適性だと言われていた。当時はそういうものだと理解していたが、これが魔素の性質である『願いの顕在化』と絡めて考えるとある事実が浮かび上がる。
願いとは突き詰めれば個我の欲求。そしてそれを叶えた結果が魔法になる。と、するのならば、欲求さえあれば誰でも六属性を扱えて然るべきだろう。しかし現実はそうではない。そうではない以上何処かに壁……限界が存在する。
それも『礫の塊は幾らでも出せる魔素士がどれだけ願った所で水の一滴も出せない』みたいなレベルでごくごく近い位置に。
長くなったが、結局俺がロボを出せないのは『パーソナルから来る適性が無かった』と言うのが俺の考えた結論だ。
さて、そこで俺は再度考えた。
現実をこれこれこの様に改変するから適性が必要になるのであって、『俺が、俺たちが、ガンダムだ!』してしまえば……自分をそのように変革するのであれば不要になるのではないか。
端的に結果から言おう。
それは半分正しく半分間違いだった。
♪ ♪ ♪
「あんさん、その……すまんかった。独りよがりな考えで散々和を見出してあんさん達に散々迷惑掛けた」
「謝罪は要らないけど、代わりに感謝を伝えてやってくれ。ほら、凩の調子下がってた時にアニとかオルクィンジェとかが穴埋めに走ってたりしたしな」
「……あんさんは責めんのか? 自分で言うのもあれやけんどワリャの態度、酷かったやろ? せやから見放しても文句は言えんと思ったったんやけんど」
確かに凩の行動は傍目からすれば少しアレではあった。だが、俺はそれを責められないし責めるつもりもない。と言うか最初から責める権利なんて持っちゃいない。
凩のやった事なんて精々墓石に名前を彫っていた時に注意した程度。しかも行動原理として見れば何も間違ってはいない。それに不調は誰しもある事だし、それで苛ついても仕方が無い面も存在する。
「文句も何も、凩は凩なりの考えに基づいて動いたってだけだろ。時間的に余裕が無いのは事実だしそういう考え方を持つこと自体は何ら咎められない。それに何より、俺は許したいんだ。お前だってあの時に俺を責めなかっただろ?」
「ワリャが、責めなかった?」
忘れもしない唯の家の捜索の時。俺は唯の権能によって不調になっていたとは言え暴言吐き散らかすは仲間を危険に晒すわ、挙句魔獣化するわで散々な醜態を見せた。
けれど凩は責める事をしなかった。とんでもない事をしでかしたにも関わらず。
許したいと思うのは、許されたいから。
往年のヒットタイトルのゲームの主題歌にもそんなフレーズがあった。要するにこれはそういう事なのだ。
「だから、俺としては責任とか何とかを口にはしないしするつもりは無い。それよりも一足飛びでさっきまでの特訓、もとい研究の成果をひけらかしつつ強化の可能性について色々と意見交換したいまである」
「強化って、それは……」
「俺たちは強くならないといけない。なら、ああだこうだ言いっこナシだ。強くなる方法、一緒に探そうぜ」
そこまで言うと凩はわなわなと身体を震わせながら俯いた。
何か不味いことを言ってしまったかと若干不安に思っていると凩は俺目掛けて真っ直ぐに突撃して、
「あ゛んざぁぁぁぁぁん!!」
泣きながら、抱き着いて来た。
「お、おう? よしよし……」
咄嗟に抱き留めたは良いもののこうなるのは予想外だったのでどうして良いか分からず取り敢えず頭を撫でてみる。
何だかアニの方から若干の嫉妬の篭った視線を頂戴しているがそれもきっと気のせいだろう。多分、ぱはっぷす、めいびー。
「きっとこっちの方が素の凩なのだろうな」
「あの、篝サン? 訳知り顔で腕組みしながら頷くのは良いんだけどお宅の凩をどうにかしてくれませんでしょうか?」
「ふむ」
いや、「ふむ」じゃないのだけれど。
こうなったら唯にでも助けを求めようかと思い視線を彷徨わせると、先程俺が名前を刻んだ石の前で手を合わせる唯の姿が見えた。
「……」
目を瞑り一心に拝む姿からは絶望の気配は全く感じられない。きっと彼女にも何かしらの心境の変化があったのだろう。
「……それじゃあ。きっとまた巡り逢いましょう。清人」
そんな中、人よりも鋭敏になった聴覚が唯の呟きを捉えた。
「叶人、どうかした?」
「いや何でも……無くは無いけど。そうだな、儘ならないもんだなぁと、ちょっと思ってた」
俺は直接的に彼女を知っている訳では無い。
だがその代わり知識として唯の性質を熟知している。だから、何となく考えている事が分かる。分かってしまう。
「終幕に欠員は避けられない、か」
俺がそう言うと、何故かジャックがビクッと反応した気がした。
不穏オブザイヤー




