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Twin come devil【2】

 唯が加わった事により戦況は篝の優位に傾きつつあった。弾数にこそ制限があるものの当たれば確実に何らかの悪影響を押し付けれる魔弾による援護の影響は凄まじく、攻め手が完全に止まる事はなくなった。

 しかし、だからといって余裕があるとはならない。何故ならば、


「本ッ当に面倒臭い事しかしないわねぇ……ッ!! この駄メンヘラ男!!」


 自傷攻撃を始めたからである。


 2人がかりで優位に戦闘を続行したのも束の間、魔獣はそれまで使っていた生首を手放すと、半ばから折れた、しかし巨体が使うに相応しい巨大な刀を手に取った。今までに無い動きに警戒する二人だったが魔獣の取った行動は自傷攻撃だった。

 理由の無い自身への攻撃、というところに違和感を覚えた篝によって自傷は妨げられるが、完全には晒し切れずに左腕の一部が浅く傷が付く。

 瞬間、ほぼ同時に左腕に痛みを感じた。

 被弾なしにも関わらず齎された痛みに顔を顰めながらも篝は思考を研ぎ澄ませーーその正体を察する。


「……呪いか」


 その正体は凩がどこまでも過去に囚われている事の証左であった。

 現在の魔獣の姿は凩の両親の死に様に酷似している。だからこそ、母親のその死因たる呪いを魔獣が行使する事もあり得るのでは無いかと篝は考えたのだ。


 自傷を止めねば呪いにより削られ、かと言って止めれば刀による攻撃の範囲内。生首を捨てた為に遠距離からの攻撃がこなくなったのは幸いだが唯にしろ篝にしろ遠距離からの決定打が存在しない。

 故に取れる択は実質近接一択。


「なぁ、お前はどうしてそうなんだ。……どうして前を向いて歩けない、歩いてくれないんだ……!!」


 篝は叫ぶ。

 ここに至るまでに多くの祈りと願いがあった筈だと。

 ハザミに於ける強さとは「生き抜く事」ただそれだけ。今に至るまでに常に生存を勝ち取って来た凩はそれだけで強者足り得るのだ。

 例え無力を嘆いても、己の不甲斐なさに絶望しても、己の愚かしさに失望しても、誰かに守って貰った結果だとしても。今日まで生をつなげて来たという事実は間違い無く「強い」のだ。

 人が死んだとしてもそれは究極的には当人の責任でしか無い。そう決断した当人が「弱かった」だけに過ぎ無い。

 無論見知った人間の死に目を見れば悲しみもすれば嘆きもする。人によれば惜しんだりもするだろう。しかし真理は変わらない。だから、時間がかかっても割り切る事は出来る。


 だが、凩は割り切れない。ある意味都合よく非常に徹する事が出来ない。それはハザミに於ける強さの何たるかを知る前に両親が死亡したが故に本質を捉えられていない。


「で、どうするのよ、コレ。正直言って私のコレもあんまり使い熟せてる感じしないしこのままじゃジリ貧よ」


 言葉では伝わらない。伝えられない。

 そも、篝に出来ることなどたかが知れている。人より優れるはただ只管に斬る事。そんな具合だ。

 近接一択、敵は硬く呪いも用いる。

 ならばやはりやる事は変わらない。

 いや、違う。

 ここに来てより明白になった。


「唯は土足で人の心に押し入り、その心を引き裂く人物を軽蔑するか?」


「いいえ? 寧ろ……そうね。控えめに言って最高ね。だから、あれこれ考えず、やっちゃいなさい。そこに反省はあっても後悔は無い筈よ」


「そうか。……それは良い」


 硬いのならば一層の鋭さをもって切り裂けば良い。呪うのならばもっと近接して自傷の隙すらも与えなければ良い。苛烈な攻撃は全て叩き潰せば良い。

 元よりそれしか無いのだ。ならば一体何を悩む必要があるだろう。


 篝は更に一歩踏み出す。


「……父上、今だけは私に力を」


 そして篝は渾身の一撃を魔獣に向けて解き放った。



♪ ♪ ♪



 鬼を殺す。それこそが凩にとっての最重要事項だった。殺す為の手段が力で、力を得る為に養父に言われるがまま強さと関連性が見出せない事もやった。

 だが、いつからだろうか。

 自分の名前を呼ぶ人間に、数的優位以外の価値を見出したのは。

 梶が居て、篝が居て。そんな日常を快く感じ始めたのは。


 だから、意外に過ぎた。

 鬼との決戦中、鬼に深手を負わせた梶が真っ先に狙われて、挙句重傷を負った時、どうしようもない憤りを感じる自分が。

 数的優位、戦闘の展開、勝率。一番重要視していた筈のそれらがちんけに思えてしまうほどの激情が身体を満たした。


「また、足らんのか……? ワリャはまた見殺しにするんか?」


 地面に倒れ伏した梶の姿が在りし日の死体と重なり呼気が荒くなる。

 世界は途端に彩色を失い、黒白だけが凩の脳を支配していく。


「馬鹿者! 立ち尽くすな!!」


 そして、それが致命的な隙となった。鬼の攻撃に対して反応が遅れる。不味いと思った時にはもう遅く、


 凩は篝に突き飛ばされていた。


 凩を抱えた篝は直撃こそ避けたものの背後の樹木に勢い良く叩き付けられた。


「……あ」


 倒れた二人。残った独り。

 その図が凩の中で在りし日の光景と完全に重なった。

 カチリ、と頭の中でナニカが噛み合う。


 そしてそれは……許容量を超えて溢れ出した。


「凩っ!! 駄目だ戻って来い!!」


 しかし篝の呼び掛けも虚しく身体からはドロリとした黒い粘液が滴り落ち、その度に肉が腐り落ちて白骨化していく。


「強く……もっと、もっと強く!!」


 記憶の前後関係が、因果が、その全てが滅茶苦茶に砕け、或いは捏造され出鱈目に繋ぎ直される。


 真の姿、と言うには余りにも悍しい姿を晒しながら魔獣は咆哮する。


 殺意というには余りにも粘度の高い感情を乗せて、魔獣は眼前の鬼に肉薄した。

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