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A hidden story【3】

どうして過去編こんなに長いんですかねぇ……(白目)

 とある日、日課となりつつある凩の鍛錬もそこそこに簡素な自室に娘である篝を呼び出した紅蓮は……異様にソワソワとしていた。

 その様を例えるのなら、娘が見繕った番と初めて顔合わせする親、というのが近いだろうか。貧乏揺すりが酷く、見るものが疲れていたのなら揺れる足が残像を残している様にも見えるかもしれない。

 兎に角、紅蓮はソワソワしていた。


 ややあって、篝が部屋に入って来た。淡い色の着物姿に目の覚めるような美しく長い銀髪。しかしその立ち姿は堂々たるもので腕組み仁王立ちである。見目麗しいとは言え、ここまで堂々とされると少女という感じもしない。


「父上、何か用があると聞いたが、何だ」


 そしてこの言葉遣いである。紅蓮は育て方を間違えたかと天井を仰ぎ見た。とは言え紅蓮自体言葉遣いや態度が良くない事に対して自覚的である。子供の健全な育成が望みとは言え自分ですらままならない事を押し付けるのは筋違いかと小言を喉元で押し留める。

 その代わりに、紅蓮はふぅと大きく息を吐くと、


「篝、手前は凩のことをどう思ってんだ?」


「好ましいと思っている。それがどうかしたか?」


 即答であった。

 薄々こうなるのではと思っていた紅蓮は少し苦々しい表情を浮かべる。


♪ ♪ ♪


 事の発端は数日前、凩の鍛錬をしている時だった。二人が稽古場で模擬戦をしていると視線を感じた。

 殺意は無し、悪意も無し、興味関心はあり。

 ついでに対象は紅蓮では無く凩。それも結構熱烈な視線だ。

 凩はかつて貢ぎ物として美女が贈られていた時期もあった一族の長子という事もあって面の造形は非常に整っている。それに恐らく凩を同世代の子供とぶつけようものなら単身で全勝出来る程度には強い。魔獣に近しい事を除けばモテる要素は多分に含まれている。


「餓鬼も色を知る時期ってかぁ……?」


 しかし覗きとは感心しない。紅蓮は手にした木刀を視線の方に投擲すると、


「むっ」


 ……非常に、聞き覚えのある声が聞こえた。

 紅蓮とて人の親である。一人娘の声を聞き間違えたりはしない。

 餓鬼も色を知る。真相は確かにそのものズバリであった訳だ。



♪ ♪ ♪



「して、それがどうかしただろうか」


「どうした、じゃねぇよ。何だ……その、恋愛的な意味合いで言ってんのか?」


 紅蓮にとってはこれは二重の意味で悩ましい話であった。引き取った子とは言え凩は最早家族同然だ。血縁関係は無いとは言え、それが実の娘とくっ付く事を想像すると何だか背徳的な思いに襲われる。


「父上の言う恋愛とは何かは知らんが。凩を見ていると、こう、その、何だ……胸の奥が熱く昂る。あれ程の強者と戦えたらさぞ楽しいだろうな……!」


「勘違いさせんじゃねぇよこの馬鹿娘が! だから手前は近所からもののけ姫って呼ばれんだ!」


「ふむ、良い呼び名だと思っていたのだがな」


 馬鹿だった。篝もそうだが、一瞬でも篝の情緒が健全に育っているのではと思ってしまった紅蓮もまた馬鹿だった。


「それで、話はそれだけか?」


「……いや。こっからが本題だ」


 紅蓮は言葉を区切ると、真剣な眼差しで問い掛ける。


「今の凩は完全な人でも魔獣でもないってのは、いつだったか話したよな?」


「ああ、いつだったか確かにそんな事を言っていたな。……もしや凩に何かあったのか?」


「何かあったって訳じゃねぇ。単にこれからそうなる可能性が高いってだけだ」


 今でこそ凩の態度は年相応のものとなっているが、その根底はやはり獣。いつ暴れ出すかなんて皆目見当もつかない。それに現状は力ずくで諸々を教え込む手法は明らかに健全ではない。

 紅蓮は応急処置として力ずくを選んだ。しかしいつしか力任せにしておけば当面は安心だと思い込み、その手法の不味さに気付きながらも改めようとする事をやめてしまった。

 それが余りにも効くから。


 魔獣化については未だに分かっていないことが多い。だが、魔獣化しかけた人間の意識を刈り取った場合一時的には魔獣化は止まるものの既に魔獣化した分がどうなるのかは個人差がある事がある事は分かっていた。しかもその個人差は極めて大きく、過去の例を調べたとて碌に参考にならないという事も。


 だから、どう接すれば良いのか分からなくなった。


「もしや凩が心配なのか」


「馬鹿野郎、誰が野朗の心配なんかするかってんだ。それよか、手前の態度がどうやったら直るのかをだなぁ……」


「いいやそれは違う筈だ。父上はこの頃ずっと凩を案じている」


 凛とした声だった。

 馬鹿な筈なのに、状況を把握している訳でも無い筈なのに。なのに、どうしてか全てを見通しているかのような、そんな気がした。


「……可愛げのない娘だよ、手前は。ああ、そうだ。そうだよ。ここ最近の凩の様子を見て正直、儂が対処を失敗しちまったんじゃないかと思ってな。これといって解決策も浮かばねぇしそもそも凩がどんな状況なのかも分からねぇ。それでも人の道踏み外さねぇようにしてやりてぇが、儂もずっと近くで目をかけてやる事は出来ねぇと来た。あいつの事を頼まれてんのにこの体たらくだ、情けないったらありゃしねぇ」


「だから、私を呼んだのだな。承知した」


「あぁ?」


「要するに、目をかけてやれないのが不安なのだろう? ならば、私が代わりに見ていれば良い訳だ」


「……手前はそんで良いのかよ。常々貰い手に困るかも知れんっては言っちゃいるが、ありゃあ冗句に近ぇ。こっから先は長いしその可能性は言うほど低くはねぇ筈だ。だが、凩に目を配るとなりゃあ手前自身も強くなる必要がある。そんで鍛錬ばかりに傾倒すりゃあいよいよ行き遅れと呼ばれる日が来るやも知れん」


 直情的な紅蓮にしては珍しい、理屈を捏ねるような物言いだった。


「私はそれで構わない。いざとなったら凩にどうにかして貰う」


「はっ、親も他人任せならその子も他人任せと来た。全く、出来の悪い合わせ鏡みたいな奴だよ、手前は」


 紅蓮は自嘲するように吐き捨てる。


 凩を人の道に縫い留める為には錨が居る。誰かが錨にならなければ凩はそう遠くない未来に魔獣になるだろう。

 だが、紅蓮では錨にはなれない。一夫妻が戦死した穴を一人で埋めているが故にその余裕が無い。そこで思い付いたのが、篝を凩にあてがうという方法だった。

 しかしそれは強さを求め自ら危険に赴こうとする凩と同じ地平に立つという事。生半可な強さでは着いていく事は不可能。ともすれば犠牲を許容せねばなるまい。

 幸い篝には武道の才がある。ならば要るのは鍛錬に充てる時間のみ。ただし、莫大なという枕詞が付くのだが。

 それ故に紅蓮は自分の口からは言えなかった。

 実の娘に向かって、ハザミに生きる平凡な女性達の持つ幸福の一切を捨てる覚悟を持て、などと。


「じゃあ、凩の事、頼まれてくれるか」


「無論だ。凩の事は私がずっと見守ろう」


 胸を張ってそう宣言する愛娘に、紅蓮は思わず目頭を熱くさせるのだった。

あ、それはそうとブレパン2周年なんすよね。

ヤバいわよ!

七月末までずっとレポートまみれで記念のssやらイラストやらとか書けてませんが落ち着いたら上げると思います多分。企画とかもやりてーな。


え? レポートが忙しいのに更新してるだって?


……勘の良いガキは嫌いだよ。

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