Tell me how strong you are【2】
ほのぼの(?)気味。
夕食を取らないまま凩は自室に引きこもって布団に包まっていた。
先程から腹はぐぅぐぅとうるさいくらいに鳴って空腹を伝えているが凩は頑なに食卓に戻ろうとしない。
ただ、決して自尊心が邪魔をしているわけではない。昼間の鍛練に身が入らなかったからと無闇矢鱈に暴力を振るった人間の作る飯を食べようものなら何が起こるかわかったものでは無い。
そんな中、襖がバンと開かれた。一瞬件の舞が来るかと思い警戒したが自分と同じ赤い髪を見て少し安堵する。
「凩、飯持って来たで」
嵐は笹の葉に包まれたおむすびを見せながら凩に言う。
今夜の食卓にはおむすびなんて出ていなかったため嵐が態々握ったのだろうと思い布団から這い出ておむすびを受け取る。
「……あんがと」
一口齧る。変な味は……しない。寧ろ好みの塩加減だ。凩の好みを熟知していると見える。
凩は自分の父の見せた意外な才能に舌を巻きつつも真っ白なおむすびを夢中で頬張る。
「美味いか?」
首肯を返す。
「そりゃ、良かったわ」
ごくりと米の最後の一粒を飲み込むと嵐はわしゃわしゃと凩の頭を撫でた。
ゴツい手だ。力も強いし雑に撫でるものだから髪が絡んで少し痛い。けれどそんな撫で方が凩は好きだった。
「……なぁ、凩。凩は舞さん……母さんは嫌いか?」
「嫌いや」
しかしそれはそれ、これはこれだ。
撫でられつつも凩はすぐさまそう返答する。
「そいつは悲しいの。母さんはお前をちゃんと愛しとる」
「うそや! せやったらなんでなぐるん!」
「母さんはお前を強くしたい一心やったんや。……手法は褒められたもんやないけんど、でも本当なんや。本当のこと、なんや」
悲しい顔で、悲しい声で嵐は言う。
「ハザミは良いところや。同時にこわいところでもある。ワリャが事を損じればそんだけで何十人も死人が出る。……そもそもワリャも死ぬやもしれん」
「そんなわけない! とおちゃんはさいきょうや! おっちゃんもそういうてたし!」
息子からの純粋な賞賛の声に嵐の頬は少し緩む。けれどそれは少しの間。すぐに沈んだ面持ちへと変化する。
「それは違うんよ。ワリャより強いモンなんてこの世界にはごまんとある。例えばそうやな……西の国に居るって言う鳴羅門火手怖って現人神とかの」
「なるらとほてふ?」
「何でも、幾多の戦場に出て無敗。姿形が変わる事無く、指先一つで天候すら操るって話や。その上滅茶苦茶強い部下もおるって聞いたの。そいつらと戦ったら……多分、ワリャは手も足も出ずに負けるんやろなって」
凩は尚も否定しようとしたが、嵐の顔を見て口をつぐんだ。明らかに冗談を言っていないのは分かったし、本気で負けると思っているのが見ただけで分かってしまったからだ。
「勿論、やるからには死力を尽くす。けんど……そんでもとんでもない敵とぶつかったら死ぬことも充分有り得る。そしたらお前をもう守ってやれんくなる。自分の力だけで自分の身を守らんといかんくなる。だから、強くなって最低限自分だけでも守らなかん」
「……」
「正直な話の、ワリャが鳴羅門火手怖みたくずっと現役で長命で、その上もっとずっと強けりゃお前が強くなる必要なんて無い。けんどな、そうじゃ無いんや。ワリャがずっと守れば良いだけの話やしな。けんどな、街一つ守るために要求される力の量はとんでも無く高いんや」
「……」
「せやからの、母さんの事。せめて嫌わんといてや。やり方はどうかと思うけんどあれもお前を生かしたい一心でやっとる事や」
「……」
「因みに、お前がさっき美味そうに食ってたおむすび。あれ、ワリャが作ったんやのうて母さんが握ったもんや。腹空かせとらんかっての。お前はちゃんと大事にされとるんよ」
単に塩の味付けだけされたごく普通のおむすびだった。だけれどそれだけに美味しいと思わせるには好みの塩加減を覚える必要があるのは何となく理解出来ている。
たかだかおむすび一つ。塩の加減程度なんてやりたくないと思えば幾らでも雑に仕上げれる筈だ。
「……まぁ、そういうことだとおもっとくわ」
「かぁー素直じゃないの! ったく、舞さんも舞さんやけどお前も素直じゃないところがそっくりやわ。お前は間違い無く舞さんの血ぃ引いとるな」
そんな事を聞きつつまたガシガシと頭を撫でられる。
凩は舞に似ていると言われて嫌な筈なのに、何故かそう言われてほっとするのだった。
しかしこれは過去の話な訳で……ね?(闇のオタク)




