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Recapture battle【3】

極めて短いゾ。

 灯篝は幾度と無く間違いを繰り返し続けた。

 思い込みが激しく、思考は極めて直線的。婉曲という言葉にはおおよそ縁が無く、それ故に多くの事を間違える。

 しかし、間違えるからといってそれが彼女の弱点である……とはならない。


 間違えるからこそ、間違え方が分かる。間違えを繰り返したからこそ正解の輪郭が分かる。


 先の奇襲にしてもそうだ。返しが洗練されている。され過ぎていると言っても良い。

 そもそも篝の魔獣化たる『霞の穏鬼』は霧に紛れながらその剛腕をもって人を害する魔獣。奇襲のプロフェッショナルからすれば遮蔽物を利用した奇襲程度は児戯に等しい。


「良いか凩……真の奇襲とはこういうものだ」


 瞬間、篝の姿がいきなりかき消える。

 獣の眼でも篝の姿がを見失った凩は周囲を見渡すが濃霧もあってか人影は見当たらない。

 凩は焦燥を覚えながらも聴覚を研ぎ澄ませると、丁度自分の立つ直上から音が聞こえた。意趣返しのつもりらしいと結論付けると鋭利な爪を天に伸ばし――


「……凩。ハザミの人間にとっての刀とは何だ」


 凩のすぐ背後から、そんな声がした。

 そして凩は自身と背中合わせになる様にひたりと静かに立つ篝をようやく知覚する。


「っ!?」


 凩は急いで振り向くと防御の姿勢を取る。

 しかし、いつまで経っても想定した様な衝撃は来なかった。


「それを……託された刀をこんなにも容易く奪われるとは、恥ずかしいとは思わないのか」


 その代わりに握っていた刀がいつの間にか篝の手に渡っていたのが見えてしまった。

 養父から託された、大切な筈の刀が。


「ハザミの人間にとっての刀は魂と同義。戦闘中にそれを奪われるなど言語道断!」


「……っ」


 凛とした声で斬り付けるように言い放つ。

 それは正しく言の葉の刃だった。


「お前も、お前もワリャが足りとらんと言うんか!!」


「ああ、足りない。私も大概だが、思慮も、思い切りも、気概も、力も何一つ足りてはいない。だが何よりも――」


 更なる濃霧が吹き出し、篝のシルエットが段々と変化して行く。

 それはいつかの鬼の姿……ではなかった。


 二本の角を持つ鈍色の甲、全身を覆う同色の鎧。それは武者であった。


「――己に対する誇りが足りない」


「そん、姿は……」


 魔素からなる指向性を持つ奇跡は魔法である。

 魔素からなる悪しき具現は魔獣である。

 ではこれなるは一体何なのか。

 魔素からなり、しかれど悪しきに非ず。

 強き思いと魔素が結合したこの姿を何と呼ぶのか――


「知らん」


 ……その答えは「知らん」である。


「はぇ?」


 これには思わず凩も素っ頓狂な声が漏れる。


「だから知らんと言っているだろう。正直なところこれに関しては私も初めてで理解が追いついていない。……ただ、これだけは言える」


 篝はより深い色合いになった琥珀の瞳をすっと細めると、


「この姿は、お前への名状し難い巨大な感情で出来ているという事だ」


 大胆にもそう宣った。


「やっぱりや。……皆、皆、皆、ワリャだけ取り残して先に進んでく。誰も立ち止まっちゃくれん。容赦もしてくれんやないか……!!」


 しかし凩に言葉は届かない。

 凩にとっては今起きた理不尽な強化、それにこそ焦点が当てられていた。


「何を言っている。自ら先に進まなければ後ろの者の……いや、何処かの卑屈屋の手を引けないだろうが馬鹿者」


 しかしその偏った視点を壊すのもまた彼女の役割である。


「私は一凩を迎えに来た。お前の見るべき事実はただそれだけで十分だ」

因みにこの時の篝の目は種割れみたいな目になっております。

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