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Nobody knows【3】

空気がとても悪い旅団。

これが220話目って本当なんですかねぇ…?

 取り敢えず比較的話のし易そうな雰囲気の篝に事のあらましを聞いてこようと決めた。流石に今にも自分の爪を噛みそうな顔した唯に話を振るのは憚られるし、それに何やかんや篝は天然が強いだけで本質的な部分は間違えないタチだ。こういうときにはこちらに聞くのがベターだろう。


「篝、何だか全体的に雰囲気が重いんだけど心当たりはあるか?」


「……すまない団長。どうやら私はまた何か失敗してしまったようだ」


 ……篝がベターって言った奴、誰だよ。いや、俺か。まぁそれはこの際どうでも良くはないが、取り敢えず横に置いておいて。

 俺はどうやら初手で一番引いちゃいけない奴を引いてしまったらしい。


「えっと、詳しく頼む」


「実はだな……」


 要約してみると、昨晩唯が魔獣化について色々と訊ねに来て、篝が魔獣化について色々と話した結果話が若干根性論みたくなり唯がキレたと。


「気持ちは分からないでもないけどもな……」


 篝の言っている事はジャックの言と大体符合する。と言うかはっきり言って正解だ。だが、時として感情は正解を捻じ伏せる時がある。

 唯にとってそれが今だったのだろう。


 根性論で全部解決出来たなら今の自分はない。


 もし仮に、もし仮にだ。

 清人との決戦の日、俺があのときいきなり現れたシュヴェルチェをいち早く察知して根性由来の魔素マジカルパワーでワンパンしていたなら。それはきっと最良の結末だっただろう。けれど現実はそうじゃない。死力を尽くした、限界まで振り絞った。清人の延命もギリギリまで行った。けれどどうにもならなかった。そうはならなかったのだ。だから、この話はお終いなのだ。

 そんなどうしょうもない事に俺は、俺たちはぶつかり続け、そしてその度に敗北の苦汁を味わってきた。

 だから、全部終わった後で都合の良いよく分からない力を提示されても懐疑的になる気持ちは理解出来る。だってそれを認めてしまえば全ての事柄に対して根性が足りなかったのだと言う暴論が罷り通ってしまうから。


「私は、間違いを口にしたのだろうか……」


「間違いでは無い。篝の言ったことは恐らくその通りだ。ただ、少しだけ間が悪かった。そんだけだ」


 ああ、全くニャルラトホテプはつくづく醜悪なシステムを構築したものだ。

 強い心があれば部分的にでも現実を塗り替える事が出来る。それだけ聞けば良い風に聞こえるが逆に言えば現実が悪いのであればそれは強い心の欠如を意味する。

 きっとかの性悪の邪神は苦悩の中にいる人物に対してこう言うに違いない。


「貴方の目の前にある苦難。それは全て貴方の心の弱さが招き、貴方が選んだ過程です。恨むなら余りにもか弱いご自身の心を恨んでは?」


「……」


 俺の脳内のセリフと全く同じセリフが聞こえた気がした。しかし辺りを見回しても邪神の姿は見当たらない。……ヤケにリアリティーのある、幻聴だ。


 ……俺が、俺の心がもっと強ければ、清人は生きてたのだろうか?


「ただこれに関しては完全に私の責だ。何か出来る事があるのなら幾らでも力を貸そう」


「その時になったら宜しく頼む」


 だが、どうする?

 どう折り合いをつける?

 俺もまだ完全に飲み込めたわけじゃ無いのに。


 凩の焦りと唯の拒絶。どちらも根深い問題なだけに解決は困難だろう。


「今考えても答えは出ない、か」


 暫く考え込むがそんなに簡単に最適解が浮かぶ訳も無く悪戯に時間が過ぎていく。

 そんな中、


「あー、雰囲気重い中で言うのもあれなんだけど、そろそろ拠点を大森林かロウファに移さないかな? いつまでも物価が高い上に治安も悪いところにとどまる必要はないしね」


「同意だ。ここにいたとて何も好転はすまい。加えて有限の資金が減るなら移動するのが無難だろう」


 ジャックの提案にオルクィンジェが乗る。ただそうなると今から大森林に向かっても途中に何も無かったとしてもロウファに着くのは遅くなる。野営するのも良いがそれはそれで現状では不安が付き纏う。結局のところ唯の屋敷に戻るのが一番良いがこの雰囲気でそれを言い出すのはキツいものがある。

 しかしこの旅団のリーダーは曲がりなりにも俺なのだ。たとえ地雷原であっても踏み込む必要があるのであれば足を前に出さざるを得ない。


「唯、移動を考えるとまた屋敷を目的地にしたいんだけど大丈夫か?」


「……ええ、構わないわ。それと、一応貴方は団長なんだから一々団員の顔色を伺うような態度は良しなさい。はっきり言って癪に触るわ」


「唯、そんな言い方はない」


 唯の発言を聞いて怒りを露わにするアニを視線で制する。

 誰も彼も心に余裕が無いのだ。一々めくじらを立てていればその間にセンパイに守ると約束した故郷ちきゅうはいとも容易く滅びる。

 ……悪い空気だ。


「じゃあ、決まりだな。突発的な話になるけども用意ができ次第ネイファを出て大森林に戻る。で、オッケーだな?」


 異論は無かった。

 ただ終始無言だった凩が唯よりも危ういような気がして何だか胸騒ぎがした。

叶人の胃が壊れちゃう……。

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