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Atlach-Nacha【1】

今回は前半部に新キャラが登場します。

主人公の正体のヒントが大分出揃って来ました。


一話目で出た清人少年とその彼女■の死亡

二話目で出た清人青年

十六話の回想

二度にわたり回想に出た『〜やんよ』の人物


これがこの話で少しずつ繋がります。


 杉原清人には竹馬の友……と言えるかどうかは不明だが、切っても切れない縁のある存在がいた。


「清人、新作のアーケードゲーム……ザ、ハウンターオブダークネス?ってのが稼働するみたいだな。結構気になるし一緒にやらないか?」


「……黙れよサボロー」


 サボローである。


 サボローと言っても別に黒塗りな訳でもない。清人がサボローをサボロー呼ばわりしているのは彼が楽観的かつちゃらんぽらんな性格をしているからだった。悲観とニヒルをドロドロになるまで煮込んだような清人の性格とはまるで正反対で、清人は底抜けに明るいサボローが大の苦手だった。


「外に出ないか?家に篭ってばかりだと気が滅入るぞ?」


「五月蝿い。お前と喋ってる方が気が滅入る」


 清人はタオルケットにくるまりながら隈のくっきりと浮かんだ顔でサボローを睨んだ。


 清人は最愛の人を事故で亡くして以降、生きる気力を失い半ば廃人と化していた。

そこに突如として現れたのが――サボローだった。


「汝は我……我は汝……。汝新たなる契りを得たり。契りは即ち、囚われを破らんとする反逆の翼なり。……あの、さ。突っ込んでくれないか?やっててめちゃくちゃ恥ずかしくなるからさ」


「…………」


これが二人の出会いである。

サボローの非常に気の利いたパロディーはガン無視されたのだった。


以降サボローが日夜「生を謳歌しよう!」だの、「取り戻せ青春の息吹!」だの、よく分からないスローガンを立てながらわーわーと騒ぎ立てた結果、清人は少しだけ会話出来るまでに回復したのだが――。


「どこかに行ってくれ……。俺は一人でいたい」


 その代わり、清人から心底嫌われ、辛辣な扱いを受けていた。何だか不憫な役回りである。


「俺が何処かに行ったらお前、自殺しようとするだろ? 意地でも隣にいてやんよ」


 しかし、サボローは清人に向かって笑いかける。屈託のない、悪ガキみたいな笑いを。


「大丈夫だって、俺がどうにかしてやっからさ。目指せ社会復帰だ」


 サボローはいつだって煩くて――底抜けに明るいのだ。


「……ゲーセンに行けば満足か?」


「応!! ビバ日常生活だ!!」


 清人がサボローの陽気に感化されつつあったのは言うまでもない。



♪ ♪ ♪



「……ッ!!」


 ……昼間のデスマーチは夜になったらデスパレードに進化していた。

 百鬼夜行もかくやというほど多数の異形を前に俺は杖をぎっちりと握り締める。


「行くか……!」


『全く、懲りない奴だ』


 やれやれと言った風な呆れた声色が頭に響くが――悲しいかな百鬼夜行に飛び込んだ俺には返答する余裕がない。というかいつも余裕が無い気がしなくも無い。


『そこ、右足を前に出し過ぎだ。そのまま杖を振れば体勢が崩れる。むやみに攻撃せずに一歩引け』


 国民的人気を誇るゲームの序盤に出て来る蝙蝠のモンスター……を数十倍エグくしたような見た目のモンスターと相対しながら言われた通りに一歩引く。


『間断なく敵を見据えろ。僅かな挙動を見逃すな。こちらからは最低限の動きのみで攻撃をいなせ』


 『魔王』の言葉をなぞるように敵を見据え、迫る攻撃を――避けられない。


『馬鹿者、対象を見過ぎだ。見るべきは全体像。戦況を俯瞰するようにしろ』


 全体像を把握……俯瞰。

 目の前から蝙蝠の翼が迫り、左からスライムらしき影が見えた。


「左から二体追加だよ! 頑張って!!」


 ジャックの応援に杖の一振りで応える。


「でぇやッ!!」


 だんだん杖を振るう動きが体に馴染んできたのか一つ一つの所作が洗練されていくのが分かる。


『動作は滔々と流れる水をイメージしろ。攻撃から次の攻撃までの動作を滑らかに、自然に行え』


「滑らかにっ…!」


 杖の先端が見事、巨大蝙蝠の脳天に突き刺さる。


『ふん、少しはマシになったな』


 何処か満足気な『魔王』の声が聞こえる。

 本体は腕のみなのだが、ドヤ顔をしているのが容易に想像できるような声色をしていた。


「今夜は……随分と、喋るんだな……っとい!!」


『宿主がヘマをして死なないか心配なだけだ。……それに知っておいて欲しい事柄もあったからな』


「知っておいて欲しい事柄?」


『安易に得た力は簡単に裏切る。確かに『スキル』は有用かも知れないが最後に頼れるのは培った技術と経験だけ。……自分以外の力など、虚しいものだ』


「それ、は――」


 かつて旅路を共にした仲間に裏切られた『魔王』の言葉は胸に迫る後悔が滲み出ていて、その深刻さに息が詰まりそうになった。


『余所見をするな馬鹿者。最後の五体だ。景気良く、思いっきりブチかませ!!』


「……応ッ!!」


 衛士の焚く灯に夜は燃え、巨大な火球が顕現する――!!


「今だよ清人!! バァンと決めちゃえ!!」



「『灼熱よ燃え盛れ(イルク・アルバ)』!!」



 放たれた極大の火球は最後の五体を跡形もなく消し飛ばしていく。


「ん!あれがスキルのスクロールじゃないかな?」


 消し飛ばした筈の場所に、これ見よがしに巻き物……スクロールが出現していた。


『……ふん、安易な力は好かないが。まぁそうこう言ってはいられないか。その力は良く考えて使う事だな』


 出現したスクロールを手に取ると自動的にメニューが開いた。


 『スキル、『加速アクセルLv1』を習得しますか?』


 →『Yes』


 『No』


 迷わず俺は『Yes』を選択すると――。

 光が俺の体を包んだ。それは俺の新たなる力を祝福するかのような軽やかな光だった。


 だが、対照的に身体は鉛のように重く今にも地面に沈み込むのではないかと思うほどだった。


『……馬鹿者め。そこを代われ。俺が手ずから宿に運んでやる。感涙に咽ぶと良い』


 そうして俺の意識は微睡みと共に遠のいて行く――。

公開されたハンドアウト

・サボロー


公開されていないハンドアウトへの回答

・『〜やんよ』を誰が言ったのか→サボロー


公開されていないハンドアウト

・サボローの正体

・主人公の正体


時系列に纏めると


A tragic summer experience=一話目の清人少年とその彼女■の死亡

NEW半ば廃人清人

二話目以降の青年清人


そして二度にわたり回想に出た『〜やんよ』の人物の正体はサボローです。これは間違いありません。


そして回想の十六話とこの話の前半部を読むと違和感を覚えることでしょう。

さて、そこから導き出される答えは……?


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