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Blood is thicker than water【2】

ほぼギャグ回

 叶人がジャックを連れて酒場に行き、凩がオルクィンジェが凩をのしていた頃。何の因果か高嶋唯もまた行動を開始していた。

 唯が向かうのは宿の一室。唯は控え目にドアをノックすると即座に「入って来ると良い」と返事が来る。


「ふむ、今日は何やら方々で色々な事が起こる夜らしい」


 唯がドアを開けると目的の人物……灯篝が座禅を組みながら待ち構えていた。


「あら、片割れさんは不在なのかしら」


「凩ならば少々前に部屋を出た。凩に何か用があるのならば伝えておくが」


「いえ。居ないなら居ないで退かす手間が省けて助かるわ。私の用件は貴女だもの」


 篝はやや考え込むような仕草をして、ややあって「魔獣の件か」と口にする。


「ええ、正直なところ侵食が悪化しててもう少しで腕一本は完全に魔獣化しそうなところ。……私の権能でどうにかしょうと思っても悪化させる様な能力しかないから打つ手もナシ。叶人みたいな覚醒の気配も無いから先達の意見も聞きたいと思って」


「成る程。確かにその件なら私が適任だろう。ただ私は自力で戻った訳では無い。団長や凩、アニやジャックの健闘の賜物だ。魔獣化から戻る方法や魔獣化を律する術にも心当たりは無い。それでも構わないか?」


 唯は首肯する。


「しかし何処から話したものか」


「そうね。差し当たってはそれの説明からお願いしても良いかしら」


 唯が指すのは篝の頭部から生える鈍色した双角だった。

 今まで誰もツッコむ者が居なかった為半ばそう言うものなのだと理解していたのだが魔獣についての理解を深める中でその特異性が浮き彫りとなったのだ。

 それは篝に魔素の反転が起きている気配がない事。魔獣というものは往々にして一種独特の気配を持っている。しかし篝の角からは魔素が反転した事による独特の気配が一切感じられない。魔獣化の後遺症ではないかと予め説明されていたもののそれでは叶人の容姿に何の変化もない事の説明がつかない。


 叶人がイレギュラーなのか、篝がイレギュラーなのか。将又その両方ともがイレギュラーなのか。しかし唯はそこにこそ光明を見出していた。

 絶望による魔素反転現象の封じ込め。それが成功すれば叶人のように自らの戦術の中に魔獣化を組み込む事も夢では無い。


「角か。これに興味があるなら試しに持ってみるか?」


「は?」


 篝はそう言うなり自分の角をごくごく普通にばきりとへし折った。手慣れた動作には一切の躊躇いが無くその手捌きはまるで職人、いや何処ぞやかの顔面を千切って他人に食わせるアンパンの聖人の様にすら見える。


「何やら相当驚いているように見えるが……何かしてしまっただろうか?」


「ソレ、着脱式だったのね」


「? いや、ただ単に膂力でもって手折っただけだ。着脱式とは違うだろう」


 唯は頭を抱えた。しかしそれも仕方の無い事だろう。折角のイレギュラー。それを自らあっさりと手折るなんて思いもしなかったのだ。


「角の事なら心配無い。また生えてくる」


 そしてこの追い討ちである。山菜狩りでもしている気分なのかこの女はと唯は呆れを通り越していっそ笑いがこみ上げてきた。

 そもそもの話、篝との初対面は唯の張った陰湿かつ悪質な罠を力こそパワーと言わんばかりの脳筋で無理矢理解決しての相対な訳だ。こうなるのも半ば必然と言える。


「そんなに驚く様な事だろうか。就寝の際には邪魔にならないように常習的に折っているのだが……不味かっただろうか?」


「まぁ、そうでしょうね。これだけの角だもの。折らないと邪魔になるわよね……」


 カルチャーショックである。しかしそんな中唯はある事に気が付いた。


「ソレ、戦闘中は邪魔にならないの?」


「これが何とも奇妙な話なのだが全く邪魔にならない。何と言うか、寧ろコレがある事で力が湧いて来る様にも思う」


 見た目にも重そうなものだが意外にもマイナスには働いていないらしい。ただそう言う相手は旅団が誇るフィジカルモンスターの片割れ。実際に手に取れば重かったりはしまいかと折りたてほやほやの角を手に取り、驚愕する。

 軽い。見た目は象牙やなんかに近いのに持った感触は発砲スチロール、いや同量のプラスチック程度の重さしかない。成る程、これならば確かに戦闘時であっても行動の妨げにはならなそうだ。


「因みに一時期は折った角で工芸品や簡易的な刃物でもと思ったのだが、私から離れた角は脆くなって三日もすれば塵になってしまうようだ。折った角の有効活用に良いと思ったのだがままならないものだな」


 自分の角を工芸品にしようという狂気の発想に唯の表情が更に引き攣る。しかし当の篝は気付いていない。


「私、貴女が絶望するような場面が全く思い浮かばないのだけど……」


 どこまでもストロングな態度に唯はそう評するが、


「そんな事は無い。私も人である以上人並みに絶望もすれば苦悩もするし人並みに失敗もする。……事実私は親友の一人を失った際には相当取り乱した」


 篝は予想に反して重々しく返した。


「未だに後悔が頭を過ぎる。……何故私は狂気に足を踏み入れてしまったのか。私にもう少しの強さがあればと」


 苦悩を滲ませる語りに唯は思う。ああ、彼女も同じなのか、と。

 片や清人の目の前で自殺し、挙げ句の果てに先日清人が死亡。片や恋慕を拗らせて幼馴染を斬殺したと聞く。境遇にシンパシーを感じるのも無理なからぬ事だろう。

 尚、アラクニドに関しては意図せず叶人を刺殺しかけるも、今では夫婦として良い関係を築けているようなのでこの旅団の女性陣にしては報われている方だと言える。


「凩には昔から格別の負担を強いてしまった。……悔やんでも悔やみきれないとも」


 尤もあの時点で打てる最善手は打てていたつもりだったのだがな、と篝は付け加える。

 その言いように唯は奇妙なものを感じつつもそこに触れようとはしなかった。

 その代わりに、


「凩、ねぇ」


 唯は凩が篝に向けていた熱視線を頭に思い浮かべながらその名前を反芻していた。

尚叶人とアニはうまだっち(吸血)はしょっちゅうしていますがうまぴょいはしていません。

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