Does a swordsman dream of love?【3】
難産で短いって悲しくない?
敗北だった。
他の解釈のしようのない程の大敗だった。
「ワリャの、負けや……」
凩は喘ぐように息を吸いながら冷たい地面に倒れ伏していた。その顔はくまなく泥で汚れているような有り様でオルクィンジェとの戦闘の苛烈さを物語っている。
「ああ。だが、完全となったこの俺と数度とは言え打ち合えたその事実は素直に賞賛に値する」
「それもあんたが手を抜いたから辛うじて出来たって話やろうが」
オルクィンジェとの戦闘は、只管に苛烈だった。初めは手加減のお陰もあってオルクィンジェ優位なもののある程度は渡り合えていた。しかし問題は中盤、オルクィンジェが手加減を止めてからだった。
オルクィンジェが自ら武器を手放したのだ。それに気を取られ微かに眼球運動をした。してしまった。
その間にオルクィンジェは死角に潜り込むと素手で凩の腹部を抉るように突き上げ、先程手放しで未だに滞空中の武器をひっ掴むと怒涛の追撃。情け容赦の無い不可避の連続攻撃を凩に見舞った。そして凩は自身の敗北を認めた。
クソ、と凩は舌打ちをする。
叶人は『超覚醒』を得て急激に強くなった。特にスピードの一点だけ見れば凩の速度を軽々と超えるのは体験済み。
蜘蛛子ことアラクニドもアラクネの種族特性によって再生能力や耐久性が向上しているのは周知のこと。
唯に関しては身体能力に恵まれているものの能力頼りな面が大きいが肝心の能力が強力無比。それに弾丸に能力が込められる都合上回避もし難い。それに加えて魔獣化の件もあり明確な弱点たる肉体が硬くなる可能性があると言うのは最早反則と言っても差し支えないだろう。
そして篝。
霞の穏鬼から戻ってツノが生えた彼女は元から強かった膂力が更に強化されていた。彼女は凩のように斬撃を飛ばしたりといった飛び抜けた技巧が無い代わりにそれを補って余りある純粋な力がある。これと戦っても何割勝てるか分からない。
そしてオルクィンジェは言うに及ばず。
「これで勝てるんか……?」
敵は超常の力を操る強者ども。果たしてこの刃は彼らの喉元に迫れるのか。
「慌てることは無い、等と気休めは言うまい。事実として俺たちに与えられた時間は少ない。しかしな。力とはそう簡単には付かないものだ。安易に力を求めればその先に待つのは破滅しかない」
「けんど……」
全員が魔獣化、或いは超覚醒を体得したら、自分は足手纏いになるのではないか?
そんな不安が凩の胸を塞いでいた。
「頭で理解出来ても心が納得しない、か」
そんな凩の様子を見てオルクィンジェは呟く。
この場で凩を鍛え上げる事は出来る。しかしその鍛錬が果たして何処まで通用するのかは分からない。
無論鍛錬をするとなれば手を抜くつもりも抜かせるつもりも無いがそれでも結果がどの程度伴うかについての試算は……決して芳しくは無い。
そんな中、ふと思い付いた。
「……一つ問いたい。お前は傷口を自分で掘り返し、その過去と向き合う覚悟はあるか?」
「いきなり何や?」
凩は唐突な質問に面食らう。しかしオルクィンジェの表情をみてこれが単なる問いかけではない事を悟った。
「良いから答えろ。あるのか、無いのか」
「それが、強さに繋がるんなら。ワリャは傷口の一つや二つ。抉ったるわ」
「良くぞ言った。ならば俺もお前の熱意に応えねばなるまい」
そう言うとオルクィンジェは……凩の胸を腕で差し貫いた。




