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Does a swordsman dream of love?【2】

 頭から、離れなかった。


『――言い訳はそれで充分か』


 冷淡に告げるその声が。


『もう一度聞くぞ。言い訳はそれで充分か』


 万物を射抜くような強い意志の篭ったその瞳が。


『みっともないものだな。何故理不尽が目の前にあるというのに抗おうという気概を見せない』


 鮮烈なまでの頬の朱が。


『お前はそれでもハザミの人間かッ!! 理不尽を前にして膝をつき、屈するのがハザミの流儀だとでも言うのかッ!! いつからそんな軟弱者に成り果てたっ!!』


 彼女の激情が。


『ああ、確かに死ぬだろう。だがな、お前の養父はお前の今の様子を見たら落胆するだろうな。『何故抗わないのか』と。……お前がその選択の結果を心底から誇れるなら別に私は反対しない。でも、違うんだろう? お前は自分の手段が誇れないから言葉を弄した。そして予防線を張った。これを――怯懦であると言わずになんとするッ!!』


 そしてその強さが。


 彼女が強い事なぞとうの昔から知っていた。彼女がそういう人間なのだと分かっていた筈だった。

 なのにどうしてだろうか。


 急に、目が離せなくなった。

 ふとした折に目線で彼女の背を追うようになって、その癖顔を見るのが気恥ずかしくなって。今までになく落ち着かない気分になる。


 彼女の事をずっと家族だと思って生きてきた。

 しかし。しかし、どうしてか今になってそう思えなくなってしまった。


 いや、理由は分かっている。分かりきっている。


 この感情の名前は、どうやら恋と言うらしい。



♪ ♪ ♪



 叶人が帰還した翌晩、凩はオルクィンジェの部屋を訪ねていた。


「こんな夜中に何の要件だ」


「……オルクィンジェ、頼むからワリャと一戦交えてくれんか」


 酷く張り詰めた面持ちで凩は言う。


「一戦交える、か。求愛と言う雰囲気でも無いか。お前はそういった趣向の人間では無いし、誘いにしては些か闘気が漏れすぎている。……それで、何故俺に戦いを申し込む。こんな時間帯に来たのだ何か重要な理由があるのだろう?」


「ワリャ自身の力がどの程度通用するのか、あんたがどれほど強いのか知りたくなった」


 そう答えるとオルクィンジェは「はっ」と笑った。


「成る程、昼間の決定を受けて焦れたと。そう言う訳だ」


 凩は図星を言い当てられ表情を硬くする。しかし今相対している相手は普通の人間では無くオルクィンジェ……異世界の天使だと考え肩の力を少しだけ抜く。


 昼間の決定とは、リスクを承知で超覚醒による戦力増強策に本格的に舵を切った事に他ならない。

 というのも、我らが旅団『幻想旅団ファンタジー・ウォーカー』には一度完全に魔獣化した者、現在進行形で魔獣化が進んでいる者、過去に魔獣化しかけた者など魔獣に少なからず縁のある、言い換えれば超覚醒に至る可能性の高い人物が多かったのだ。具体的に言えば最前者が叶人と篝、次が唯、最後者がアラクニドといった具合に。


 その中に含まれないのは凩とオルクィンジェとジャックの三名のみ。更にジャックは非戦闘員である為戦闘能力は不要。となると戦闘員で魔獣化と関わりの無い者は凩とオルクィンジェの二名のみになる。

 しかしオルクィンジェに関して言えば魔獣化する必要は無い。

 なぜなら大森林にある唯の家で共闘してその強さを思い知っているから。


 オルクィンジェが直接叶人の身体を操って戦闘をした時、凩は寒気を覚えた。

 違い過ぎるのだ。動きが。

 オルクィンジェは筋肉量が劣るにも関わらず流麗とまで形容出来そうな動きで敵を討ち倒し、戦場を踊るように駆けていた。

 これでもし、宿ったのが叶人では無くもっと身体能力の高い人物だったなら自分に勝ち目など無い。そんな事を内心で思っていた。


 そして、今それは現実のものとなった。最高の技術に最高の肉体が合わさった力の具現。それが今のオルクィンジェだ。

 凩の力量では最早どうにもなるまい。


 故に唯一魔獣との関わりが薄い凩だけが超覚醒の波に取り残されてしまったのだ。


「……お前が焦るのは理解出来る。しかし反対こそしなかったものの超覚醒の道は険しい。失敗すれば溢れ出る絶望に苛まれ魔獣になる他無し。篝の一件を経てお前はそれをよく理解している筈だ。違うか?」


 凩は魔獣化の危険性を良く理解していた。

 しかしそれを克服し、自在に乗りこなす人間が現れ、あまつさえ力量も段違いに跳ね上がったとあらば凩とて心穏やかにはいられない。


「けんど……ワリャは怖い。ワリャ達がしくじれば全部がおじゃんになるのが。……ずっと守ってきたハザミの皆も、世界も、何もかもがこの手から転がり落ちるのが、堪らなく怖い。ましてやそれがワリャの不徳が原因になったらと思うとの」


 そう言うと凩は気弱な表情を覗かせる。


「……刀は持って来たな。時間は有限だ。表に出ろ」


 オルクィンジェが言うと凩はポカンとした表情を見せた。


「何を惚けている。この【魔王】が手ずから力のありようの一つを示すと言っているのだ。キビキビと動け」

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