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Want to be lover【6】

 エンゲルさんは疲れの滲む顔で引き攣った笑みを浮かべた。


「おいおい、今日だけでどれだけモンスターを討伐したんだよ……占めて銀貨二枚と銅貨一枚だ」


 ギルドホールに戻った俺たちは討伐報告をして、いつもよりもかなり多い討伐報酬を受け取っていた。

 だが、命を危険に晒したのだからリスクとリターンが不釣り合いに思わなくもない。


 とは言え、ここに来た理由は討伐報告だけでは無い。

 住処を追われたモンスター達が森から溢れている事の報告もしておこうと思ったのだ。


 きっと他の冒険者も報告しているだろうけど報告するに越したことはないだろう。


「実は森が怖かったから森から遠い場所で狩りをしていたんですけど……ゴブリンに住処を奪われたモンスター達の大群に出くわしたんですよ」


 と、報告したら……エンゲルさんは眉根を引きつらせて、生気のない目で虚空を見つめ始めた。


「もしかして……初耳でした?」


「……ああ、自衛団も職員もゴブリンに掛かりっきりだったからな。アラクニドと言いどうして厄介は重なるんだよ」


 そう言うとエンゲルさんは深い溜め息をついた。

 ゴブリンのコロニー、それにアラクニド……確かギルド指定の危険人物で特異思想保有者だったか。そしてスタンピード。

 まさかの三重苦が発覚したのだからエンゲルさんの嘆きもごもっともだと思う。


「ところでアラクニドがどうかしたんですか?」


「……また被害者が出たんだよ。それもこの町のごくごく近い所でな。同じパーティーの荷物持ちから報告が来た。可哀そうに、喉元を短剣で一撃だったそうだ。ったく惨い事をしやがる」


 短剣で一刺し……歴戦の冒険者を相手にそれが出来るという事はさぞかし腕の立つ人物なのだろう。


 ――『殺さない?』


 唐突にそんな事を尋ねた薄桃の少女の事を思い出した。

 どうしてアラクニドの話を聞いて彼女の事を考えたのか自分でも今一分からないのだけれど。


「おっと、暗くなっちまったな。悪い。今は色々危ないからな。用心しろよ」


 は、はぁ、と生返事を返すとギルドホールを後にした。



♪ ♪ ♪



「……結局スキルは手に入らなかったな」


「そうだねぇ……。このペースだとスキルを手に入れた頃にはとっくにゴブリン達が街を蹂躙してました~なんてオチになるかも」


「それ、笑えないからな」


「ゴメン……失言だったね」


 本日のスタンピードによってレベルは一気に九まで上がり、DEXとPOWのステータスの他、近接戦のダメージに関連するSTRも幾分か上昇した。


 ……けれど、逆に言ってしまえばその程度でしかない。


 そもそも俺には異世界恒例の古武術を使いこなせる祖父なんていないし、チート性能の武器とかも無いのだ。

 直接的な解決手段が求められる切羽詰まった状況下でステータスが少しばかり変わってもあまり素直に喜べないのもまた事実だった。

 このまま順当にレベルを上げたとしてもクメロの森のゴブリンから『欠片』を回収出来るとは到底思えない。

 だから、ジャックの言った事も有り得ない話ではないのだ。いや、寧ろそっちのほうが可能性が高いのだろう。


 ……本当に笑えない。


 ジャックはさっきの失言を気にしてか押し黙ってしまい重々しい沈黙が流れる。街の喧騒も最早俺達には届かないみたいだった。


「強いってなんだろうな」


「さあ……僕は戦えないから分からないよ。僕は飽くまで案内人。導くのが役目だからね」


 スキルを覚えて、ステータスを上げて。スキルと装備を手に入れるには金が必要で。そして金は手に入りにくい。

 少なくとも報酬の大部分は生活費に充てられていて他に回すだけの余裕はない。

 勿論今回のスタンピードでいつもよりも手元は潤ってはいるが貯蓄としてはやや心許ない。

 これを続ければ金も大分溜まるだろうがそんな無茶をすればそう遠くないうちに、死ぬ。


 だからと言って仲間を募集するのもナシだ。

 現在、多くの冒険者達がゴブリン討伐の為に森へ駆り出されている。まともにゴブリンと戦った事のないルーキーがしゃしゃり出るのは不味い気がする。


 胸の中に暗雲が立ち込めたみたいで、自然と気分が塞いだ。


 ――『俺がお前を救ってやんよ!!』


 不意にまた、頭の中に例の声が響いた。

 無責任で、根拠のない、けれど誰よりも明るく叫ぶその声は何処か俺を咎めているようで。クヨクヨせずに前を向けと叱咤しているような気がした。


 バシンと自分の頬を力の限りを尽くしてぶん殴りながら叫んだ。


「だァーッ!! 暗ァい!!」


周囲の人が不審なものを見る目で俺を見たが最早そんな事はどうでも良かった。


 俺は一つ大切なことを忘れていた。


 ――()()()()()()()()()()()()()


 諦めても駄目だし、足を止めてもならない。


 それが俺の存在意義だと言うのにそこが丸っと抜け落ちていた。


「ジャック!! 飯食べたらもう一回スキルが手に入るまで粘るぞ!!」


「えっ!? ちょっと待ってよもう夜だよ!? 危険過ぎるかな!!」


 確かに夜のモンスター達は危険だろう。

 けれど鬱々と日々不安を口にしながら迫る決戦の日に備えるよりは……それはきっと楽しそうだ。

 保守的なのは良い、けど却ってストレスを溜め込むくらいならいっそ大胆不敵に打って出るのも悪くはない選択だろう。


「大丈夫だって。絶対どうにかなる。いや……」



「――()()()()()()()()()()()



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