表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
209/257

Does a swordsman dream of love?【1】

凩の話になりますのー。

 オルクィンジェ達から俺のいない空白の期間についての話を聞いた。まぁ空白と言ってもほんの一日程度の事なので大きな変化は無い……と思っていたらなんと世界が崩壊するまで残り一か月になっていた。

 『デイブレイク』との全面対決になる事は理解していたがその期間がはっきりとしただけあってその衝撃は大きかった。


「要するに、一月の間にヒュエルツで『六陽』相手に地獄の勝ち抜き戦をしろって事かよ……」


 正直なところ、勝ち目があるのかよく分からない。

 『傲慢』担当のテテは俺とオルクィンジェとで打倒済み。能力のタネも割れているがニャルラトホテプに回収されているから生きている可能性があるのが懸念材料。


 『色欲』担当のクロエは元を辿ればクロ。個人的な心情として戦闘をする気にはなれないし、何よりクロエの能力も戦闘をしない、させない事に特化している。これを突破するのは至難だろう。


 『怠惰』の担当は、確かエクエスだったか。エクエスとは大森林で一度戦闘しただけだが気怠げな態度とは裏腹にその技術や観察眼は抜きん出ている。多彩な攻撃を使いこなし、凩と篝の最高火力ペアをもってしても致命傷を与えられていない辺り単純な強さが見て取れる。しかも、『怠惰』の名前を冠する能力の詳細は不明。


 そして……『強欲』のシュヴェルチェ。コイツの事はハッキリと覚えている。清人を背後から強襲し、心臓を握り潰したあの男だ。清人の『暴食』を貫通し、不死性を蹴り飛ばし絶命に至らしめた怨敵。しかしその能力も実力も未知数だ。


 極め付けは『憤怒』。ニャルラトホテプだ。

 この世界の唯一神にして邪神。人間では届かない、届いてはならない領域に住まう怪物。


 こちらには完全復活を果たしたオルクィンジェがいる。しかしだからといって容易に勝てるかと問われれば、それは否。しかもよしんば勝ったとしてもニャルラトホテプが死亡した場合この世界は滅びてしまう。そうなってしまえばこれまでの努力は全てが水の泡だ。

 勿論そうしない為の手段はある。本人から聞いた。しかしそれは……。


「……」


「それで、残りの一か月をどう過ごしたもんかの。今更鍛錬を強化をしたところで急激に強くなるって訳でも無し。かと言って武器の類を新調したとしても習熟が追い付くかは分からん上、そもそも今握ってる装備は手入れもされとるし大凡上質やから変更の余地って意味でも微妙。……困ったの」


 目下の問題点は『六陽』に対抗出来る力の獲得と、あの邪神を殺さずに勝つ方法。

 ……これしかない。


「……これは妄言って切り捨てて貰っても構わないんだけど、全員が超覚醒出来る様になれば力量差も覆せるんじゃないか?」


 短時間ではあるものの超覚醒によるステータス上昇は目を見張るものがある。それこそ俺が凩の一撃耐え切れる程度には。そう考えると全員が超覚醒に至る事が出来れば大幅な戦力増強が見込める。


「確かにの。あんさんのアレはワリャを以ってしても視界に捉えるのはちょいと難しくなる。けんど超覚醒って要は一回魔獣化してから身体に纏わせる魔素を更に反転させるんやろ? ってなるとそもそも魔獣化のリスクを背負う必要がある訳や。ちょいと厳し……」


 凩が言い終わる前に濃厚な負の気配が宿の一室を包み込んだ。


「あら、ちょっと加減を間違えちゃったみたい。けど案外魔獣化って簡単なものなのね。何だか拍子抜け。この分ならすぐに超覚醒まで至れそうね」


 その発生源は唯だった。

 彼女は腕に巻いた包帯を取り去ると透き通るような白い腕をゴツゴツとした溶岩が冷え固まったかの様な歪な魔獣の腕へと変質させていた。それは部分的な魔獣化だった。

 魔獣化したは良いが元に戻るのかと思ったのだがそれは杞憂なようで。スッと腕を一振りすると直ぐに元の白い肌に戻った。……相変わらず浅黒い粒子が垂れ流れているのだけども。


「ふむ、私や団長の魔獣とは違って唯のそれはまだ未成熟で開花し切っていない印象だ。上手く説明出来ないが……例えるならばこれはそう、蛹だ。その本質は未だ揺籃の中に居る。覚醒には今少し足りないのではないか。……何だその目は?」


 篝が頭の良さそうな事を口にするのが心底以外で思わずポカンとしてしまった。いつも先陣を切り、手数と膂力で全てを解決するタイプの(森の)賢者だと思っていたのでギャップにやられた形だ。


「むう、内心で貶されている様な気がするな。確かに私に学は無い。しかしそれは学習意欲が無いという事には直結しない。私にも進歩というべきものは少なからずある」


 そう言うと胸を逸らした。何というか、イケメンだった。こう、何というべきか……不良漫画に出てくる性格が良くて力も強いけど頭が悪い主人公キャラが中盤から終盤に掛けて頭も成長した事が分かる展開にも似たエモさがある。


 そんな訳で純粋に感心していたのだが、約一名、顔を赤くして目を逸らしている人物がいた。


「……ははーん?」


 それはほんの一瞬の事。しかしアラクネとなる事で強化されたこの叶人アイはその一瞬を見逃さない。

 当人に気付かれないように視線を戻すと、ジャックと唯も悪い顔をしているのが分かった。どうやら見てしまったらしい。とても下世話な顔付きだ。まぁかく言う俺もきっとそんな顔をしているのだろうけども。


 世界崩壊まで残り一か月。しかし偶にはとびきり明るい話があっても良い。尺度を守りつつ同行を見守る事にしよう。


「そ、そいで、何の話やったかの!?」


 なぁ、凩。知ってるか?

 お前の顔、まだ赤らんでるの隠せて無いからな?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ