Don't give up【3】
入部を果たした俺だったのだが余り面白みの無い日々を送っていた。
ただ平穏に、決して波風立たせず。それのみを指針とした生活は着実に、ゆっくりと苛烈な過去を押しやって。代わりに心を静かに腐らせて行った。
心から己の熱を失う事を自覚しながらも、自分では何もしない。人はそれをきっと、堕落と言うのだろう。
♪ ♪ ♪
「清人君はずっとそればかりやっているね」
部活中、俺は綿谷センパイに声を掛けられた。
俺の手の中には一世代前の横長な形の携帯ゲーム機。そこに映るのはいつも一つのゲームだったから目に止まったのかもしれない。
兎に角、偶発的に俺は声を掛けられたのだ。
「ペルソナ……ふむセーブデータを見るに既に五周もしているか。最新作も出ているのに随分と一途なのだね」
「まぁ、そうですね」
世の中では既にカードを砕くタイプのペルソナが発表されてはいたが俺はずっとこめかみに拳銃型の召喚器を突き付ける方のペルソナをプレイしていた。それはそっちの方が好きだったから……では無い。ただ単に清人との思い出の残滓を求めた結果だ。
ただ周回プレイをしている内に清人との思い出は薄れて何とも言い難い虚無感を感じるようになっていた。
「にしてもスリーポータブルか。随分と懐かしいな。私もペルソナを育成しながらギャルゲーとして楽しんでいたら最後に主人公が消失して悲しかった覚えがある。思えば鬱ゲーにハマった入口がここだったかもしれないな」
「……俺は、鬱とかは嫌いですよ」
半ば無意識に俺はそう口にしていた。
「それじゃあ君は何の為にこんなに周回プレイをしているのかね?」
「……プレイしている内に、うっかりエンディングが変わったりしないかなって」
清人の事は言わなかった。いや、言える訳もなかった。だって言っても信じられないだろうから。
それに今言った事も間違いじゃない。
消えてしまった清人。消失する主人公。
ルート分岐こそあれ、基本は定まっていて変わらない結末。
ゲームと現実は別物。そう分かっていても重ねずにはいられない。
「それは……君も相当拗らせているように見える」
「かも、しれませんね」
「しかし、だからこそ疑問だ。何故新作をプレイしないんだ?」
何故そうなるのかが分からなくて、「え?」と間抜けだ声が出る。
この作品の最新作はシステムこそ似通っているものの肝心のキャラの続投は無いと聞いた。
「主役が違う? 確かにそうだ。しかしそんなものは誰にフォーカスしたか。それだけの問題に過ぎない。同じシリーズなのだから、主人公のその後が描かれるかもしれないし、もしかしたら消失した主人公の新規ストーリーが出るかもしれない。その二つの目を閉じさえしなければ可能性はあるんだ」
「……可能性」
それは、少し前までの俺が好きだった言葉のうちの一つだ。
もしかしたらこうなってくれるかも。もしかしたら明るい展望が見えるかも。
そう思っていた。だが、そうはならなかった。
だから可能性は嘘っぱち。虚飾まみれの甘言に過ぎない。
「どうやら信じて貰えなかったらしい。ならばこうしよう、ここは漫画研究部。であるならば……君が作れば良い」
「俺が、作る?」
「そうとも。君が作るんだよ、その救われない物語の二次創作を!! オリ主もご都合解釈も大いに結構!! 何故ならここはそう言う部活なのだから……!!」
その時、俺は確かに暗闇の中で燦然と輝く一筋の光が見えた気がした。
それと同時に思う。この人は、何て強い人なんだと。頭がおかしくて、クセが強いどころかアクが抜けてない様な感じなのに、それなのに芯は驚く程強い。
その様はまるで――在りし日の俺にも似ていた。
「……でしたね。ここはそういう部活でした」
口にはしない。絶対にしてやるものか。けれどこう強く思う。
ただ一言、『やってやんよ』と。
叶人高校生編二羽目じゃいっ!




