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Don't give up【2】

叶人高校生編開始!

 さて、俺の覚悟は金銭の不足によっておじゃんとなってしまった訳なのだが話はそれでお終い、と言う訳では無い。


「にしても微妙に締まらない辺り叶人だよねぇ」


「人をオチの代名詞みたいにに使わないでくれよ」


「だってそうじゃないかなぁ」


 駅付近のファミレスで俺はコーラを、ジャックはメロンソーダを飲みながら駄弁っていた。

 ドリンクバーの代金を衣装代に回せと言う指摘はご尤もではあるが、悲しいかな衣装代とドリンクバーの代金とでは大きな開きがある。それこそ此処で飲んだ飲まないが問題にならない位に。なのでここでちょっとお茶する位は何ら問題は無い。

 ジューとストローで炭酸を吸い込む。思えばこのコーラもいつぶりだろうか。口内でしゅわしゅわと弾ける感覚がとんでもなく懐かしく感じられる。

 ……これでは何にでも節操なく懐かしさを感じてしまうノスタルジーおじさんではないか。

 パンパンと頬を叩き頭から感傷を追い出す。


「それで、これからどうしたもんかな」


「うーん。とは言っても当初考えてたプランはここで打ち止めなんだよねぇ」


「へ?」


 打ち止めと言う単語に思わず素が出る。


「君も半ば察しては居ると思うけど僕が人の姿になっていたり、この世界に存在出来る理由の大半はあの邪神のせいなんだ。なんだけど……異世界に戻るには特定の条件をクリアする必要があるかな。ただ、勿論その条件は口外禁止だしリミットもあるんだけどね」


「まぁそんなところだろうと思った」


 いかにもゲーム好きなニャルラトホテプらしい。

 しかし困った。ジャックの行動から何となくクリアの条件も察したが具体的なクリアの方法に辿り着けない。

 どん詰まりは、多分抜けた。だからこれは詰めの一手だ。それさえ分かれば……。


「……ところで、さっきからずっと気になってたんだけど君何でコーラに大量の角砂糖を入れてるのかなぁ?」


「へ?」


 ジャックに指摘され手元に視線を下ろす。

 そして視界に入るのは……何か味気ないからと砂糖を追加していたら見ているだけで喉が痛くなりそうなカオスなドリンク。


「君、どれだけ甘党なのかなぁ」


 一瞬、遂に味蕾がストレスで壊れたのかなんて事を考えたのだが。なんて事はない。アニの血液に慣れきってしまった結果だ。

 俺の舌は番であるアニの血液をとても甘く感じる。故に塩味や旨味に関してはそう変化は無いものの甘味についてはとんでもなく鈍感になっているようだ。

 で、甘さを感じようとしたらこんな結果と。


「アニの血が飲みたい……」


 そう言いつつ角砂糖コーラを一息に飲み干すとジャックは露骨に「げぇ」と顔を顰めた。果糖を混ぜた大量の水を飲むバトル漫画もあるくらいだしこれもセーフだと思うのは俺だけだろうか? ……俺だけか。


「お、清人君じゃあないか。珍しいなぁ!」


 そんな中、誰かが清人の名前を呼んだ。

 声のする方に顔を向けると、そこにはリクルートスーツ姿の女学生の姿があった。


「綿谷センパイ……?」


 その人の名前は綿谷桂子。俺の一つ上のセンパイで俺が所属しているマンガ研究サークルの部長だった。


「相席良いかね? 店も結構混んでいるし」


 「え、ええ」と曖昧に返事するとごくごく自然な動作で隣に座ってくる。俺の、隣に。

 それを見てジャックが「その人は?」と尋ねる。


「この人はサークルの先輩にして部長を務めている綿谷センパイだよ」


「綿谷桂子だ。……それで君の方は? もしかして清人君の友達かい?」


「友達じゃなくて正確には理想を共有する仲間、かな」


 ジャックがそう言うと綿谷センパイは一瞬キョトンとした顔をして、次いでクスリと笑んだ、


「成る程。清人君はどうやら私の見ぬ間に中々に得難いものを得たらしい。やるじゃあないか」


 言いつつウリウリと肘で小突く先輩は何でかとても嬉しそうに見えた。解せぬ。


「にしてもあの小動物みたいだったあの清人君がこうなるとはなぁ。人生何があるか分からないものだ」


「小動物?」とジャックは首を傾げる。


「ああ、そうとも。実の所私は清人君とは高校の頃から先輩後輩の間柄でね。高校一年の頃の清人君は何というかこう……ずっと何かに怯えてビクビクとしていたのが印象的でな。何というか小動物……いや、ご主人様に置いて行かれたワンコみたいだった」


「本人居る前でそれを言いますか普通。恥ずかしいんで止めてくださいよ」


 だけども、ご主人に置いて行かれたワンコと言うのは言い得て妙で当時の俺は正しくその状態だった。……いや、それは俺だけでは無く清人も同じか。

 俺は清人を、清人は唯を、それぞれ失っているのだから。


「悪い悪い。ただそうさな……今の君を見ているとあの頃がとても遠くに感じられてな。ほれ、あの頃は私に対しても滅茶苦茶警戒してただろう?」


「それは、そうですけど……」


 モゴモゴとしながらも俺は綿谷センパイと出会った時の記録を思い出していた。


♪ ♪ ♪


 俺と綿谷センパイとの出会いというのはそんなに良いものでは無かった。


 高校一年の春。清人が消えた精神的なショックから立ち直れなかった俺は二次元に救いを求めた結果、筋金入りのド陰キャとなった。

 ド陰キャというだけあって帰宅部になるつもりだったのだが、ところがぎっちょんスタンド使いは惹かれ合う。俺の陰キャが他の陰キャにバレるのは時間の問題だった。


 アニメや漫画、それにゲーム。陰の気質を持つ人間にはそこら辺の共通項さえあれば話すには困らない。そのおかげでいつしか俺には数人の友人が出来ていた。

 ……なのだが人付き合いとは難儀なもので、人が増えればその分だけ同調圧力が高まってしまう傾向にある。そしてそれは部活動選びでも同じことが言えた。

 俺の入学した高校には漫画研究部があった。だから、と言う訳では無いだろうが友達は皆吸い込まれる様に入部を果たした。オタクと呼ばれる人種の悲しい性ってヤツだ。そして俺も例に漏れず入部した。

 それは単に活動内容がどうこうとか、備品に魅力を感じたとか、そんなものではなくて。


 俺は怖かったのだ。


 清人の一件で俺は人の醜さと残酷さを知った。輪を外れれば最後、袋叩きに遭う。そんな観念が頭から離れなかった。だから周りに流される形で入部した。


「来たな、陰の者達よ。日陰を歩く事を生き甲斐にする者どもよ」


 そこで、邂逅した。


「漫画研究部は君達を歓迎しようじゃあないか!!」


 新撰組の羽織を身に纏い、猛禽の瞳を備え、歯を新品の鋸のように尖らせた見るからにヤベー先輩に。


「私は綿谷桂子。至高の作品フェイバリット・ワンは『さよならを僕に』だ。電波ゲー、鬱ゲー、鬱エロゲーに理解のある者、或いは興味がある者は是非に声を掛けて欲しい。勿論そうでない者も気軽に声を掛けて欲しい!」


 俺は入部を激しく後悔した。

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