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Despair【2】

 泣けど、喚けど明けない夜は無いのだと知った。人はそれを良い事の様に言うけど、俺にはそれが堪らなく苦痛だった。

 朝が来たら、また現実を突き付けられる。朝が来たら幸せな夢を見れなくなる。そう考えると『幻想旅団』と『デイブレイク』と言う名前は皮肉が効いている。幻想ゆめなんぞ、朝日デイブレイクによって砕かれるのだから。

 白む空には、誰も抗えないのだ。


「……」


 結局、眠れなかった。

 自分の部屋、自分の布団。けれど眠気はいつまで経っても来なくてずっと起きていた。きっと今の俺にはくっきりとした深い隈が刻まれている事だろう。いや、啜り泣いたせいで腫れぼったさもあるか。なんにしろ酷い見た目をしている事だろう。


 はぁとため息を吐く。きっとリビングに行けば朝食が用意されているだろう。朝から自分がワタワタと動くまでも無く。ごくごく普通に。それはきっと喜ぶべき事だ。けれど……親と顔を突き合わせると思うとどうしても気が塞ぐ。

 とは言え、いつまでも引きこもっている訳にもいかない。何せ清人に飯を食えと言ったのは俺だ。これが飯を抜くのは筋が通らない。

 のそりと緩慢な動作で立ち上がるとリビングに向かう。


「……今日は珍しく早いのね」


「まぁ、少し目が冴えて」


 昨晩の事もあって会話が硬い。まぁここでいきなりフランクに話されても引くのだけれど。


「……昨日、何であんな事を?」


「ちょっと気分が沈んだだけだよ。何でも無い」


「嘘よ。清人、まるで唯ちゃんが死んじゃった時みたいな顔をしてたもの」


 ……唯が死んだ時、か。ある意味でそれは正しい。もう、皆に会う術はないのだから。


「何か悩みがあるなら相談しなさいよ。解決の糸口が掴めるかもしれないでしょ」


 衝動的に「無理だ」と口にしそうになるのを何とか押し留め、曖昧な笑みを浮かべながら「まぁ」と小さく呟く。

 ――本当に、この世は、地獄だ。


 微妙な空気の中朝食を食べていると寝惚けたパジャマ姿の父さんがやって来た。


「おはよう、我が息子よ」


「……おはよう」


 母さんから昨日の事を聞いたのかぎこちない笑顔で挨拶する。……腫れ物を触るような態度が気に障る。まぁ、今の俺はただの腫れ物でしかないのは分かっているのだけども。


「母さん。清人はどうしたんだ。一日も経てば落ち着くと言っていたけど落ち着いてなんかいないじゃないか」


「変ねぇ……。一晩寝たらコロッと直りそうなものだけど」


 ヒソヒソと話している声が聞こえる。その癖音量は超人じみた五感が無くても聞こえる程だ。態となのだろうか。だとしたら心底腹立たしい。

 俺はさっさとご飯を掻き込むとテーブルを去って大学に行く用意をする。

 それは酷く当たり前の日常。

 けど、今の俺には俺はその価値を見出せなかった。


 あのひりつくような焦燥も無く、泣きたくなるほどの絶望もない世界は、のっぺりとしていて退屈だった。


「退屈、か」


 我ながら物騒で酷い思考だと思う。

 けど一つ分かった事がある。

 この世界では杉原叶人は望まれない。生きられない。これなら、二つの世界の破滅を回避する為に死んだ方が万倍良い。


「もう、何もかもがどうでも良いや」


 ――この世界で生きる事とは心を絶えず殺し続ける事と同義だ。


 そんな事を考えていると、駅に着いていた。……やはり学校の朝は気分が沈む。

 スマートフォンを取り出すと周りの人と同じようにネットサーフィンに興じる。


「……」


 気付けば、俺はブラウザアプリの履歴には『事故』『ホーム』『転落』が並んで表示されていた。


「…………少し、疲れたな」


 俺は引き寄せられるように縁へ、縁へと移動していく。

 そして、あと一歩で転落出来そうなところで。


「叶人ッ!!」


 ――この世界で、聞こえない筈の声が聞こえた。

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