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Continue 【6】ーpart despairー

真の絶望の始まりです。

 ――それは、本当に唐突な事だった。

 『色欲』クロエが相変わらず権能を用いた究極的な通せんぼを行なっていると、叶人が向かった先の一帯が突如として青い光に包まれたのだ。


「な、何やあれ」


「あれは……叶人の炎」


 凩の驚愕にアラクニドが答える。風に揺らめき、尚激しく光度を増すそれは紛れもなく彼が超覚醒を行った際に纏っていたのと同じ蒼い炎。

 クロエはそれを耳にして表情を硬くする。叶人は本気で清人を殺そうとしているのだと。しかしその炎を見ている内にその考えは違うのだと分かった。あれは燃やす炎ではなく、育み、癒し、萌やす優しい炎なのだと。


「叶人君……」


 果たして叶人はどんな気持ちでこの炎を放っているのだろうか。クロエはそんな事を考える。

 片や全ての世界を守る為に火を放ち、片や大切なたった一人を守る為に死んだ肉体に鞭打ちながら尚も歩き続ける。それを悍ましい、とは思わなかった。ただ……どうしてか今更とても寂しく、悲しい事の様に感じられた。

 二人の心は分からない。けれど、その終わりは少しでも良いものであれば良い。そう、かつて黒猫だった少年は切に願う。


 高嶋唯もその幻想的な光景に目を奪われていた。

 そして彼女もまた二人の事を想っていた。二人は彼女にとって罪の証そのものに等しい。自分のした事で直接傷付いた清人と、多大な負担を強いらせてしまった叶人。

 改めて、謝りたかった。クロエの怒りに触れて、漸く気付いたのだ。自分の犯した罪の、本当の重さに。叶人は人材が要るからと半ば善意に甘える形でこの旅団に入った。その時点で一件は水に流した……などということは考えてはいなかったが、けれど誠心誠意謝罪をした場面があったかと言われればそれは否。

 ――だからこそ、今度は二人に謝ろうと、罪深い彼女は誓いを立てる。


 アラクニドは戦闘の全貌を見ていた。視界共有の魔眼の効果だ。彼女には叶人と清人との戦闘、その全貌が見えていた。それ故に、彼女は涙を流す。

 ぶつかり合う、悲しい程に折り合わない二人の姿に。

 腕が消え、足が消え、その度に肉体は再生し、また何処かが消え。

 正直、余りにも痛々しくて見ていられなかった。しかし、それでも見えてしまう。苦しい筈なのに真っ直ぐに叶人を見つめる清人の姿が。容易に想像できてしまう。叶人も同じように真っ直ぐ清人を見つめている事が。

 故にアラクニドは頬を汁で濡らす。


 ……しかしどれだけ美しいものであってもいずれは終わりを迎える。

 蒼い炎はある時を境にふっと、蝋燭に息を吹き掛けた時のようにあっさりと消え去った。

 そしてそれとほぼ同時に響くのは絶叫。聞いた人間にまで悲しみが伝播しそうな程に悲壮な叫び声だった。


「ご主人」


 賢明なクロエは察する。杉原清人が死んだのだと。

 ……そして、その上で杉原叶人の願いは叶わなかったのだと。


「……通行を許可するよ。奥方にご友人。……ついでに唯も。決着はついたみたいだから」


 そう言うとクロエは森の暗闇へと去って行く。

 決着はついたと聞いた一行。しかしその面持ちは暗い。それも当然だろう。あんな声を聞いてしまったのだから。

 杉原清人は叶人にとって守るべきものであり、一時期は存在理由そのものだったのだ。それが死んだとあらば彼が失意の底にいる事は想像に難くない。

 一行は叶人が向かった方へと急いだ。



♪ ♪ ♪



 血で濡れた地面、叶人の半魔獣化によって抉られたと思しき樹木の数々。

 しかしそこには杉原叶人本人の姿は、無かった。


「……団長の姿が見えないな。一体どこに」


 篝の声に応えたのは意外な人物だった。


「叶人なら還った」


 クロエとはまた違う声質の、少年のソプラノ。

 その声の主を一行は良く知っている。


「オルクィンジェ!? どうして君が『天使セラフィム』の姿になってるのかなぁ!? それに、叶人が還ったって」


「……杉原清人が死んだのと同時に解放された。あの時既に清人は全ての『欠片』を保有していたからな。死んだ時点で俺は完全復活を果たした訳だ。そして叶人だが……先程言った通り還った。地球にな」


 その言葉に場が騒めく。


「叶人が言い渡された任務は俺を完全体に戻す事だ。それが達された以上、叶人がここに居る理由は無いと判断されてな、地球の神の干渉によって地球に強制送還だ」


「嘘……」


 その言葉は果たして誰が漏らしたのだったか。或いは全員の心の声の代弁だったのか。


 どちらにせよ、現実として清人は死に、叶人は消え、残ったのは完全となった『天使セラフィム』が一人だけ。

 この現状を――絶望と、そう言わずして何というのだろうか。


 凩や篝は悲痛な面持ちで空を睨み、叶人が連れていかれた光景を目にしたアニは生気の抜け落ちた目でぼんやりと遠くを見る。

 オルクィンジェは自身の無力感に唇を強く噛みしめ、ジャックは地球の神の所業に憤怒する。


 そして、高嶋唯は。


「…………何で」


 高嶋唯の皮膚からは、微かではあるが確かに黒い霧のようなものを吐き出していた。


 絶望。


 絶望。


 絶望。


 しかしその絶望を拭い去る人は、もうこの世界の何処にも……居ない。

杉原叶人リタイア。

残りメンバー六人。


と言う訳で散々グダグダとしてしまいましたが絶望的な状況下でこの章はおしまいとなります。


次章からは遂に最終章。


地球へと強制帰還させられた杉原叶人。

止まらない絶望へのカウントダウン。

そして絶望の最中に立ち塞がるのは絶望の使徒たる『六陽』。

そして明かされた絶望的な勝利方法。

溢れる絶望を前に『幻想旅団』は希望を見出す事が出来るのか。

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